我慢の限界が来たので反抗したら人生が変わりました

はなまる

文字の大きさ
上 下
20 / 25

20正義は勝つ?

しおりを挟む

 
 「ソルティ貴様何を言うんだ!そんな出まかせ殿下が信じられるとでも…アルパモント殿下聞いてください。ソルティはアルフォン殿下との婚約を破棄したいがためこんな嘘を言ってるんです。私が妻を…そんな事をする意味がありません。どうかこいつの言うことなどに耳を傾けないで下さい。近衛兵!こいつを連れて行け。頭が混乱しているようだ、しばらく牢にでもぶち込んでおけ!」

 そう喚き散らしたのは父だった。

 まあ、そう言うと思ったが…

 お父様。あなたに取ったら私はこいつ扱いなんですね。おまけに頭が混乱してるですって?

 そっちこそ頭がおかしくなるでしょうね。

 絶対に人には知られたくない真実を突きつけられたんですから。

 私は驚くほど冷静でいた。

 何だか取り乱す父が可哀想にも思えた。


 ばたばたと近衛兵が入って来て私たちを取り囲んだ。

 ルドルフはさっと私の前に来て私には指一本触れさせないと腰に下げた剣の塚に手をかけた。

 「ソルティお嬢様には指一本触れさせない!」

 先に大声でけん制する。

 近衛兵は命令に従うべきだと一歩前に踏み出そうとしたその時。

 「近衛兵一旦部屋から出ろ!」

 そう声を荒げたのはアルパモント殿下だった。

 「ですが陛下」

 「いいから。相手は女ひとり。ここにどれほど男がいると思っている。お前たちの手を煩わせる事もない。そうだろう。いいから部屋から出て待て」

 「はは。仰せのままに」

 近衛兵はさっと後ろに下がって部屋を後にする。

 さすがは王子。父より格が数段上だ。


 私はソファーに座らされる。もちろん何心は冷や冷や物だった。

 ルドルフもまだ肩を怒らせピリピリした気配を漂わせている。

 「ルドルフありがとう。もう大丈夫みたいだから。あなたも、ほら、大丈夫だから…」

 私は自分の握りしめていた手のひらをそっと緩めた。手のひらの中は汗でねっとりしていた。

 「あっ、すみません。お嬢様を怖がらせるつもりはなかったんです。お嬢様こそ大丈夫ですか?」

 ルドルフは大きく退き私の様子を伺う。

 「ええ、平気」

 ルドルフがほっと息を吐き笑みを見せた。

 それだけでさっきまでの殺気だった気持ちがすぅっと凪いだ。

 何これ?ルドルフ効果ってやつ?


 「ソルティ。すまないが確認させてくれないか。さっきの話はソルティが10歳の時見た事で。それを日記に記していたんだな。それは間違いない事なのか?」

 「はい、アルパモント殿下間違いありません。ナーシャ様の事はあの頃の国王の側近か侍女などに確かめて頂ければ嘘ではないことはわかるはずです。母を殺めたあの人の事は本人の自白でしか証明することは出来ないでしょうが…私は嘘は言っておりません。もちろんこの事を婚約破棄の理由にするつもりもありません。私は今日まで貴族とはそういうものと思って来たのです。でも、今回の一件で私に自身の気持ちをはっきり伝える事を学んだのです。そのようなつもりもないことをうやむやにして流されて、いやいやこの先の人生を送るのは私にはどうしても無意味な事に思えるのです。アルパモント殿下はどう思われますか?私は間違っているのでしょうか?」



 「いや、間違ってはいないと思う。私たちも父である国王に言うべきだったと思う。国王だからと言って何をしても許されるという考えはおかしい。悪いことは誰でも悪い。それをきちんと言わずにいたからあのようなことが起きた。また今もそれは続いている。過ちは正さなくてはいけないと私も思っている。そもそも一国の王が取るべき行いではない。そこがすでに間違いなんだ。先日も話したように父にはきちんと話をして議会でどのようにするか話し合わなければならないだろう」

 「アルパモント殿下が公明正大な方で良かったです」

 「いや、もっと早くに対処するべきだったと思う。すまなかったソルティ嬢。婚約の件は君の気持ちを尊重したいと思う。アルフォンは誠実ではなかった。このまま意味のない婚約を続ける意味がない。この場で私が承認しよう。アルフォン。ソルティ嬢との婚約は解消だ。慰謝料はお前の私有財産すべてを当てるように」

 アルパモント殿下はアルフォン殿下にそう言い渡す。


 慌てたのはアルフォンだった。

 「それは…兄上。いくら何でも。確かに私は不誠実でした。でも、ようやく気づいたんです。だからチャンスを下さい。きっと兄上のお眼鏡にかなうようにしますから」

 縋りつくような視線で兄アルパモント殿下を見る。

 「アルフォン。それを私に言うのか?言う相手が違うだろう」

 「あっ、それは…ソルティ嬢。考え直してくれないか。私が悪かった。もう一度チャンスをくれないか」

 横柄だった態度ががらりと変わり私の目の前でアルフォン殿下が私に頭を下げる。

 でも、私の心は一ミリだってなびくことはなかった。

 「申し訳ありませんがそんな都合のいい話なんて無理です。だって4年ですよ。ずっと私の目の前でどれほどの醜態を見せつけられたと思います?殿下だったらどうお考えになるんです。私が他の男性と散々いちゃいちゃしていたら…私がよりを戻したいって言ったらどう思われるんです?」

 アルフォン殿下はうなだれ何やらもごもご言っているがそんなこと知るもんですか!

 「それはそうだが…私は仮にも王族で君は公爵家で…格が違うんだから…」

 彼は聞こえるか聞こえないかわからないくらいの小さな声で言った。


 はっ!何よ!喧嘩を売る気?この期に及んで?ぶっ飛ばしてやりたい。

 「なんです?ひとりでもごもごと?言いたいことがあればはっきりおっしゃればいいじゃないですか?王族?格が違う?どの口がそんな事を?…へぇ~格が違うんですか。でしたら王命とやらで無理やり結婚させますか?いいですよ。その代り初夜は覚悟しておいて下さい。あなたのようなふしだらな下半身が二度と勃ちあがらないように私あそこぶっ潰しますから!」

 「「プッ!!」」

 アルパモント殿下とルドルフがぷっと噴き出す。


 アルフォン殿下がたじろいで立ち上がった。

 「恐ろしい女だ君は。もういい!君との婚約は解消する。俺は君なんか最初から好みでもなかったんだ。そこまでして君と結婚したいと思っていない。慰謝料払うさ。払えばいいんだろう!ったく。とんだ災難だ。俺は失礼する。兄上後はお任せしますから」

 「まったく性のない奴だ。ソルティ嬢これで許してくれるか?」

 「はい、もちろんです」


 「ではヴィオレッテ公爵一緒に同行してもらおうか。あなたや父が9年前に行った事の真相を確かめる必要がある。それによっては罪に問われることもあると覚悟しておけ。近衛兵ヴィオレッテ公爵を捕らえよ」

 「アルパモント殿下。私は神に誓って自分のために罪を犯したことなど一度もありません。国王の身を守ることが私の役目。そのために行う行為はすべてこのアルパード王国のためなのです。どうかわかって下さい。わが妻を殺めたのは国王の身をお守りするため。ただただ私はそのためだけに今日まで来たのです」

 「それは妻を殺めたことは認めると言う事だな?」

 「いえ。それは…」

 「いいから話は国王も交えてからだ。話にはアルガンや王妃にも同席してもらう。いいな!」

 父。いえ、私の事など道具にしか思っていないこの人を父と呼ぶのはもうやめよう。

 ヴィオレッテ公爵はうなだれてもう何も言わなかった。

 私はアルパモント殿下と近衛兵に連れて行かれるヴィオレッテ公爵の後を静かについて行った。 

 もちろんルドルフも一緒に。



しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

生命(きみ)を手放す

基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。 平凡な容姿の伯爵令嬢。 妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。 なぜこれが王太子の婚約者なのか。 伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。 ※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。 にんにん。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

花嫁は忘れたい

基本二度寝
恋愛
術師のもとに訪れたレイアは愛する人を忘れたいと願った。 結婚を控えた身。 だから、結婚式までに愛した相手を忘れたいのだ。 政略結婚なので夫となる人に愛情はない。 結婚後に愛人を家に入れるといった男に愛情が湧こうはずがない。 絶望しか見えない結婚生活だ。 愛した男を思えば逃げ出したくなる。 だから、家のために嫁ぐレイアに希望はいらない。 愛した彼を忘れさせてほしい。 レイアはそう願った。 完結済。 番外アップ済。

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした

基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。 その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。 身分の低い者を見下すこともしない。 母国では国民に人気のあった王女だった。 しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。 小国からやってきた王女を見下していた。 極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。 ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。 いや、侍女は『そこにある』のだという。 なにもかけられていないハンガーを指差して。 ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。 「へぇ、あぁそう」 夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。 今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...