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15喜びも束の間
しおりを挟む私は王妃たちと話を終えるとエミリア様と一緒にまたフィアグリット家の屋敷に帰って来た。
メアリーが心配して一番に出迎えてくれた。
「ソルティどうだった?お母様守備は?」
ふたりに同時に聞く。
「「うまく言ったわ!」」
「やっぱり~王妃様も苦労してるものね。この際男どもをぎゃふんと言わせてやればいいのよ!」
メアリーがはしゃぐ。
「メアリーはしたないですよ。王妃様達がソルティとアルフォン殿下の婚約破棄の嘆願書を国王に出して下さって、それに応じふたりも同意してくれたのよ。王子はこの際議会で結婚制度を改めるべきだとも話してらして…ほんとにあの国王に爪の赤でも飲ませてやりたいくらい」
エミリアがギシリと歯を鳴らす。
メアリーもうんうんと頷いて目を輝かせている。
私はもちろんうれしかったが内心はまだそこまで安心していなかった。
明日にでもアルフォン殿下に会って正式な婚約解消の手続きをしない限り本当の安息はない。
それに父の事もある。
あの人がこのまま黙っているはずがないとも。
そんなところにルドルフが帰って来た。
「お嬢様お話が…」
ルドルフはいつもこんな怖い顔はしない。でも、今日はいつもと違って何か不安を抱えたようにいぶかしい顔で声をかけて来た。
私の脳内で瞬時に何かあったんだと警報が鳴った。
「わかったわ。ルドルフ、エミリア様も同席していいお話?」
「はい、皆さんに聞いていただいて方がいいかと…ですが部外者には聞かれない方がいいと思います」
私たちはお茶をしながら話を聞くことにした。
今日は庭ではなく屋敷のリビングルームで話を聞くことになった。
お茶の用意が終わると侍女を下がらせ部屋には4人だけになった。
扉はきちんと閉じられるとルドルフはやっと口を開いた。
「実は俺はあれから少し様子を探っていたんですが…アンナ王妃が国王のところに行かれてお願いをされた後、国王の所にアルフォン殿下と側近の方が来ました。ジャネット様が他の男性ともお付き合いがあったとかでジャネット様の妊娠は認めないと。それで国王はソルティお嬢様との婚約をこのまま続けるとはっきりおしゃったのです。もちろんアルフォン殿下もそれに同意してきっと近いうちにお嬢様にお話が来ると思われます」
「「「う、そ~そんな。嘘でしょ!」」」
3人が声を揃えてうめく。
そんな話を聞いたばかりの所にヴィオレッテ公爵家から使いが来た。
エミリア様が応対に出る。
「フィアグリット公爵家の方にはわがヴィオレッテ公爵家のソルティ様がお世話になり本当に感謝しております。実はアルフォン殿下からお嬢様に再度婚約続行の申し込みがありまして是非自宅にお戻りくださいとの公爵からのご命令ですのでお嬢様を引き取らせて頂きたいと…」
「いいんですのよ。我が家は娘も喜んでおりますしちっとも迷惑ではありませんから。ご苦労様。一度帰ってそう伝えて下さいませ」
「そう言っていただくのは本当にうれしのですが我が主も一度言い出したことは必ずやると言うタイプですのでこのまま手ぶらで帰りますと私が叱られてしまいます。どうか奥様ここはソルティお嬢様をお返し頂けませんか?」
玄関先でのやり取りが聞こえて来て私はエミリア様に申し訳なくて出て来た。
「奥様申し訳ありません。私が話しをしますので…」
「ソルティいいのよ。この人達はいつも横暴なんだから、少しくらい言うことをきかなくたって平気よ」
使いの男は私を見てすぐに声をかけて来た。彼は長くヴィオレッテ公爵家に使えている側近の一人サムだ。
「さあ、お嬢様、そろそろこちらにもご迷惑と言うもの。ここは素直になって一度お屋敷に帰って頂けませんか。どうかお願いします」
深々と下げられる頭。ふと見るとその首には痣が出来ている。
(お父様の仕業ね。また使用人にまで手を出して脅してここに来させたってわけ…やることが汚いわ)
でも、私が帰らなければサムはまた鞭で打たれるに違いない。我が家にはいたるところに鞭がある。キッチン。ダイニングルーム。書斎。廊下などに…
私はサムの手を取って頭を上げさせた。
「もう、仕方ないわね。サムにそんな風に頭を下げられたら…奥様、メアリーお心使いはすごくうれしいんですけど私一度帰ります。どうせ父とも話をしなければなりませんし、ここにいてはまたアルフォン殿下の事もうやむやにされるかもしれません。私が婚約解消を勝ち取るためにもここは引き下がれませんから」
「でも…ソルティ、また殴られるかもしれないのよ。女がひとりで男に立ち向かうなんて無理よ」
そこにルドルフが割って入る。
「ご安心ください。私がお嬢様のそばを離れません。旦那様が何かしようとしたら私がお守りしますから、私はお嬢様に雇われている護衛ですので!」
ルドルフは任せろと言わんばかりに胸をどんと叩いた。
「そうね…公爵の命令ならば素直に聞いた方がいいかも知れないわね。私はまた王妃様達とも相談して何とかソルティと殿下の婚約解消をお願いしてみるわ。でも、ジャネット様がいないとなるとねぇ…」
エミリア様の顔が曇る。それはそうだろう。殿下が女遊びをするのは周知の事。
おまけにお手本となる国王もあの調子なのだから。
貴族同士の婚約はそんな理由で解消になったりしない。
そこが問題なのだけど…
女はだめで男はいいとでも?
何、こんなの不公平だわ。
私の中でまた何かが吹き飛んだ。
いままではそれは仕方のない事と思って来た。でもよく考えればそんなのおかしいじゃない。ジャネットが他の男と、でも殿下あなただってやりたい放題じゃない。その口でよくもそんな事が言えたわね。
いいわ。私がその口をひねり上げてやるから、文句?あるなら言ってみなさいよ!
「エミリア様問題はそんな事ではないんです。夫婦となる以上そんな不誠実な人は信じれないと言う事です。だから私はこの婚約を解消したいのです。アルフォン殿下は私に対してずっと不誠実でした。だからこそあんなことになった時私は渡りに船とばかりに話をしましたが、根底には殿下を信じれないという気持ちが強くあったからです。だから私は殿下とは結婚するのはいやだとはっきり言うつもりです。例え殺されても…いえ、これは言葉の綾ですが、あの殿下と結婚はいやなのです!」
(何だかすごいぞ私)
自分で言っておきながら自分に驚く。
エミリア様の顔に笑みが広がる。
「ええ、ええソルティ。あなたの言う通りだわ。私たちも立ち上がる時だわ。ソルティの気持ちは王妃様達にもしっかり伝えて何としてもあなたと殿下の婚約を阻止するように頑張るから!」
「ソルティ何だかすごく頼もしいわ。さすがわが友よ。あなたを応援する。私みんなにも声をかけてみる。結婚しても夫の不貞で苦しんでいる子や婚約中に浮気している男もいっぱいいるって聞いてるから」
メアリーも感慨したようで瞳はうるうるしかも拳はガッツポーズだ。
それからサムを先に帰らせて支度を始める。
荷物をまとめると最初に乗って来た馬をルドルフが表に連れて来た。
馬はこの屋敷の厩で預かってもらっていたのだった。
「では、私は帰ります。エミリア様。メアリーほんとにいきなりお邪魔したのに快く出迎えて頂きありがとうございました。フィアグリット公爵様にもどうかよろしくお伝えください。では、失礼します」
「奥様。メアリー様ご安心ください。私は命に代えてもお嬢様はお守りしますので。では失礼」
ルドルフがきびきび挨拶をして私たちは屋敷を後にした。
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