上 下
13 / 25

13ジャネットの行動。ルドルフの胸の内

しおりを挟む
 それからしばらくして国王の執務室にアルフォンと側近のイゴールがやって来た。 

 「父上。お話があります」

 「なんだ。お前もか…私は忙しいんだ。後にしろ!」

 国王の機嫌はすさまじく悪い。あんなことを言われた後だ。

 「ですが、これは最重要案件なんです」

 「陛下、私からもお願いいたします。殿下のお話を聞いてください」

 年配のイゴールまでもが一緒になって頭を下げて来る。


 「なんだ。手短にしろ!」

 「はい、実はジャネットの事なんです。ジャネットは私以外の男とも付き合いがあったようなんです」

 「それはどこから?」

 「はい、ヴィオレッテ公爵です。彼が諜報部の人間を使って調べてくれました。ジャネットは元の夫にも罠をかけて無理に離婚をしたらしく、その後私に近づいて…私はまんまと罠にはまったわけでして…」

 そこまで話すとアルフォンはバツが悪くなったのか頭を掻いた。

 「まったく…お前は女をすぐに信用しすぎだろう?自分の立場を考えなさい。お前は王族で王位継承権だって持っているんだぞ。行動に責任を持つというのはそう言うことだ。今回の事でよくわかっただろう?」

 「はい、クラスメイトだったジャネットがそんな事をするなんて思ってもいなかったんです。だからジャネットのお腹の子供は私の子供ではないと言うべきで…」


 「まあ事実がそうなら子供は誰の子かわからんと言うことになるだろう。そんなあやふやな子供を王家の子供とすることは出来んからな。とにかくジャネットには、その事実を突きつけて今回の事は水に流すとでも言えば引き下がるだろう。早速ジャネットと話を付けろ。お前ひとりでは頼りない。ブリューノを同席させて話をしろ。いいなアルフォン」

 「はい、わかりました。では急いで話をつけます」

 「ああ、そしてソルティ嬢との婚約はこのままと言うことで穏便に話をつけろ。間違っても自分は悪くないなどと言うんじゃないぞ。自分が悪かった。反省していると…なに、贈り物に宝石やドレスを贈れ。女はすぐに機嫌を直すはずだ。もう少し女の扱いにうまくなれ。優しくしてやらんからこんなことになるんだ。わかったか?」

 「はい、父上。ご心配かけて申し訳ありません。すぐにジャネットとは別れます。そしてソルティとよりを戻しますので」


 アルフォンと側近は国王の執務室から出て行った。

 それを見ていたものがいた。

 ルドルフだった。

 彼は国王やアルフォンの様子を探ろうと城の中を探っていたのだ。

 ソルティはあれからすぐにエミリアと一緒に馬車で屋敷に戻った。

 フィアグリット家の護衛が付いていてルドルフがいなくても大丈夫だと見極め少し国王やアルフォンの出方を見ようと思ったのだ。


 こんな事だろうと思った。

 ルドルフは心の中で舌打ちをした。

 何しろソルティの父親は国防長官で諜報部の最高司令官でもある。どんな事でも調べられるはずだ。

 こうなれば早くこの事を知らせて今後の対策を練った方がいい。

 何しろルドルフはソルティの護衛騎士になった時から彼女に恋をしていたのだから…

 そしてやっと少し距離が縮まって最近ではソルティが微笑みかけてくれて声をかけてくれてまるで夢でも見ているかのような事になっている。

 平民で孤児の自分が彼女とどうにかなろうなんて思ってもいない。

 ただ、そばにいてソルティを見守っていたい。

 それだけが俺の願いなんだから…


 俺は生れてすぐに捨てられたらしい。

 王都の教会の前に捨てられた俺は結構仕立てのいい産着を着ていたそうだ。

 それにこれは誰にも内緒の話だが髪の色が白金だった。

 白金は王族の色。だが、貴族にも王族はたくさんいるし金を持った貴族は街の高級娼館で遊んでいるとも聞く。

 それにこの国王を筆頭に女ならば誰でもいいと貴族の令嬢だろうが侍女だろうがいとも簡単に弄ぶ。

 こんなの間違っていると思うけどこれが現実だ。

 そんな世の中で俺はどこかの貴族に弄ばれ妊娠した女が産み捨てた子供だったんだろう。

 だから自分が王族の子供だなんて反吐が出る。

 髪は小さなころから黒色に染めてもらって来た。

 今は自分で染めるがこんな髪色なんか大っ嫌いだ。

 あんな奴らと同じ髪色なんて…


 俺はソルティを守るためなら例え命だって惜しくない。

 だって彼女は俺の守るべき人なんだから。

 婚約が決まって彼女がどれほど苦しんで来たか俺は知っている。

 夜会で一人取り残されたその手を優しく取って一緒にダンスしたいって何度思ったか、俺は護衛騎士でしかなくそんな事の出来る立場じゃないけど、あんなの男のする事じゃないって思っていた。

 学園で嫌な噂を聞いて落ち込んで帰る姿に何度胸が痛んだか…

 その度にあんな奴なんかって思うけど貴族って言うのはおかしな生き物で愛はなくても結婚するのが当たり前だとほざく。

 ばかなんじゃないか?

 愛のない結婚なんてむなしいだけじゃないか。

 貴族は一生そうやって生きていけるのか?


 違うだろう。

 現に第1王妃がああやって乗り込んで国王に言ったじゃないか。もう我慢の限界ですって。そりゃそうだろう。

 それにあの父親もひどい。

 おかしいと思ってたんだ。

 ソルティの歩き方がやけに足をひきずるようにして、聞いたらつまずいて足をひねったとか言うもんだから俺はソルティの言う事なら何でも信じるから、あのブリューノが暴力をふるっていたなんて思ってもいなかった。

 どうしてもっと早く気づいてやれなかったのかってホントに俺はだめな奴だ。

 でもソルティはいままで良く我慢して来たよ。ほんとに呆れるのを通り越すってもんだ。

 でもソルティが決断したらすごいのなんのって。

 惚れてしまうだろう?いや、もうとっくに惚れてるんだけどな。

 だって他の女は皆諦めて政略結婚をして好きでもない男の子供を産んで育てて行くんだからな。

 ソルティがそうなったらって思うとぞっとする。


 ここ数日のソルティの輝いている事と言ったらもう胸が疼いて疼いてどうしようもないほどで…

 ソルティがとてつもなく可愛くて愛しくて抱きつぶしたくて…

 俺ほんと気が狂いそうなんだ。

 今日だって王妃を相手に扉越しにソルティの焦った声や嬉しそうな声が手に取るように聞こえて来た。

 みんながソルティを応援してくれてるって思うとすごくうれしくなった。

 おまけに王子たちまで駆け付けてさぁ。

 アンナ王妃が出て来た時には驚いた。

 みんな国王には泣かされているって事だな。

 こりゃアルフォンだけじゃなく国王にまで飛び火するかもな。


 おっと、行けない。こんなことをしている場合じゃない。

 ジャネットの事をソルティに知らせないと。アルフォンの野郎がまたソルティに言い寄って来るのを何としても阻止しないといけないからな。



 ルドルフはそう思い直すと急いでフィアグリット家の屋敷を目指した。




しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

過去に戻った筈の王

基本二度寝
恋愛
王太子は後悔した。 婚約者に婚約破棄を突きつけ、子爵令嬢と結ばれた。 しかし、甘い恋人の時間は終わる。 子爵令嬢は妃という重圧に耐えられなかった。 彼女だったなら、こうはならなかった。 婚約者と結婚し、子爵令嬢を側妃にしていれば。 後悔の日々だった。

処理中です...