18 / 45
18離縁後
しおりを挟むミモザはセルカークと一緒に診療所に帰って来た。
セルカークは仕事があり夕食などはテルヒが全て持って来てくれた。
彼はミモザの部屋に近づくことはなかった。
ミモザは離縁が成立したので今夜あたりセルカークが何か言ってくるかと構えていたがそんな勘繰りは徒労に終わった。
翌朝は昨日と同じく朝食を作って持って来てくれた。
昨日と同じメニューだ。パンとオムレツとスープ。
ミモザは一晩中うつらうつらしていたが、朝は早くから目が覚めていた。
セルカークは昨日と同じくきちんと声をかけて入って来た。
そして脚まで診てくれた。
「かなり良くなっている。少し動かしてもいいかも知れないな」
ミモザは調子が狂ったがそれでも世話になっているので何かしたかった。
「でしたら診療所のお手伝いをしてもいいですか?私、薬の調合も出来ますし…」
「調合が出来るのか?」
「はい、キャメリオット家の領地では薬草栽培が盛んで国内外に薬草や薬をたくさん卸していますので、私も王都の店の手伝いに行ってそこで習ったんです」
キャメリオット公爵家は薬草や薬の販売をしていてかなりの資産があるのだ。
「貴族の奥様がそんな事を?」
「義理母様に言わせれば子を産まないなら手伝いをするのが当たり前だと言われましたから」
口角を上げて気にしていないと笑って見せる。
(ライオスからも相手にされなかったし、夜会やお茶会に参加することもなかったから余計疎ましく思われたのだろうと思っていたけど今となっては有難かったかも知れないわ)
セルカークはどう答えていいんだ?みたいな困惑した顔をしたがすぐに茶化した。
「公爵家も先見の明があったんだな。嫁が離縁した後困らないようにしたってわけだ」
「ええ、私もそう思います」
ミモザは今度こそ笑った。
「おっと、冷めてしまう。早く食べて…手伝いはいつでもいいから」
セルカークはそう言っておりていった。
ミモザは朝食を食べ終わると立って歩いてみた。痛みはほとんどなかった。
トレイを持ってキッチンにおりて食器を片付けると診療室に行った。
セルカークは診察中で中年の男性を診ていた。
「先生。何かお手伝いはありませんか?」
セルカークが診察の手を止めて考え込む。
「そうだな。じゃあ、咳止めの煎じ薬を作れるか?」
「はい、オオバコとヨモギの組み合わせでいいですか?」
「ああ、それでいい」
「はい、すぐに」
「薬草はそれぞれ棚に薬草があってラベルが貼ってあるからわかるだろうが、わからなければ聞いてくれ」
「わかりました」
ミモザは薬室に入るとすぐに棚を確認してオオバコとヨモギを見つけた。
ラベルと確認してそれでももう一度セルカークにそれを見せる。
「これで間違いありませんか?」
セルカークは一度立ち上がってラベルを確認してくれた。
「ああ、これでいい。それを一つまみずつ煎じてくれ」
「はい。すぐに」
ミモザは習った通りふたつの薬草を煎じて煮だす。
患者はコホンコホンと咳き込んでいて、この人の薬だとわかった。
「ミモザさん出来上がったか?」
セルカークの声はすぐ隣の部屋にも良く聞こえたがミモザさんと呼ばれるとは思っていなかった。
「…はい」返事が遅れた。
セルカークは男から空き瓶を預かるとそれを一度消毒するように言った。そして瓶に煎じ薬を入れるようにとも。
そして男に煎じ薬を渡すと男は帰って行った。
セルカークがミモザに言う。
「ミモザさん助かったよ。脚は大丈夫そうか?」
「はい、先生。ミモザさんって呼ぶなんて」
「でも、もう離縁したんだ。夫人はおかしいだろう?他に呼んでほしい呼び方があるとか?」
「いえ、特には…」
ミモザも困ったがそれ以外に呼び方もないかと思った。だが、少し恥ずかしい。
ミモザはそれから傷薬など頼まれた薬を作った。午後にはテルヒが来てミモザはもう休むように言われた。
そうやって3日が過ぎてラウラがミモザの荷物を持ってやって来た。
ミモザは部屋に通して話を聞く。
「若奥様、すみません。大奥様が荷物を片付けろとおっしゃって、取りあえず持ち出せたのはこれくらいなんですが」
「ラウラごめんなさい。あなたには知らせたかったんだけど屋敷には出入りしないと言ったから…ライオスとは離縁になったの。それで義理母様はどう?」
「はい、かなりご立腹な様子ですがライオス様がその話は蒸し返すなとかなりお怒りになっていて…」
「まあ、口うるさく言われたくないのよ。それでヴィオラさんと再婚するんでしょう?」
「いえ、このままだとヴィオラさんは追い出されるかもしれません。若奥様の事も連れ戻そうとはなさっていません。早速大奥様は次の縁談の話を考えていらっしゃるみたいですし、ヴィオラさんがいると今度こそうまく行かないかもしれませんから…それより若奥様。大旦那様と何かあったのですか?」
「ラウラ。若奥様はもうやめて。ミモザでいいわよ。大旦那様がどうかしたの?」
「いえ、大旦那様と大奥様が激しく言い争っていらして、あなたがミモザに惑わされるなんて一体どうするつもりよ!とか言われて、大旦那様が心配するな。ミモザが勝手に言っている事。誰が信用するか!と叫ばれて…すみませんこんな話。でも使用人はミモザ様のよくわかっていますからあの方たちがまた何かしなければと心配なんです」
「ラウラありがとう。心配ないから。あなたはいつも私に優しくしてくれたわ。本当にありがとう。急にこんなことになってきちんとお礼も言えなくてごめんなさい。みんなにもよくお礼を言っておいてね」
「そんな。でも、これでミモザ様が幸せになれるといいですね。あっ、そうでした。ご実家からお手紙が届いておりましたので持ってまいりました」
「まあ、ありがとう」
「では、私はこれで…あまり遅くなるとまた叱られますので…どうかお元気で」
「ええ、ラウラも元気でね」
ラウラは名残惜しそうに帰って行った。
ミモザは実家ネルジェロス子爵家の父からの手紙を開封した。
~この度の事キャメリオット公爵家から聞いた。
ミモザ一体何を考えているんだ。離縁なんて勝手なことをしてうちのメンツは丸つぶれだ。
離縁してもお前を受け入れる余裕はない。それに勝手なことをしたんだ、
お前はネルジェロス子爵家の籍から出てもらう。ネルジェロス子爵家の名を名乗ることは生涯許さん。
これからは平民として好きにやって行け。
もう二度と顔を見るつもりはない。
セオ・ネルジェロス~
(ああ…やっぱり。お母様ごめんなさい。心配かけて。でも私は大丈夫だからね)
ミモザは手紙を握りしめてそう呟いた。
35
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました
黎
ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。
そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。
家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。
*短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる