上 下
7 / 45

7もう、義理母の言いなりになりたくない

しおりを挟む


 ミモザは沈んでいく気持ちをどうすることも出来なかった。

 ベッドに横になると自然と枕が濡れた。

 脚の痛みもひどくなった。

 (どうして私がこんな目に合わなきゃいけないの?義理父には犯され、夫は他の女に夢中で妻の私には目もくれない。

 子供を産むためだけにこんなことをされていくら公爵家の跡取りが必要だからって…こんなの地獄よ)

 ぐっと噛みしめた唇から血の味が喉の奥に流れ込む。

 前世を思い出したせいで今の現状が余計にみじめだった。

 受け入れられない苦しみのままミモザは夜を明かした。



 「ミモザ?起きてるの」

 翌朝、そう声をかけるといきなり部屋に入って来たのは義理母のリリーだった。

 ぶしつけにもほどがあるがミモザを気遣うような義理母ではない。

 ミモザは急いで起き上がる。

 「昨晩はあの人ちゃんと義務を果たしたの?さあ、いいから見せなさい」

 いつもの義務を果たした後の確認だ。

 「あっ……」

 ミモザはそんな事もすっかり忘れていた。

 いつもは事が終わるとミモザがきちんと栓をして子種を流さないようにしているかを確かめるのだ。

 昨晩は出掛けていたためそれが出来なかったらしい。

 リリーはいきなり布団をめくるとミモザの寝間着をめくった。

 下履きの隙間から手を差し込んで中を探る。

 「あら?ないじゃない?いったいどういう事?」

 ミモザは恨めしそうな顔でもしていたらしい。

 「ちょっと答えなさい」

 「…はぃ」

 消え入りそうな声で声を出す。

 「あの人が忘れたの?」

 ミモザはとっさに嘘をつく。

 「はい、旦那様がいいとおしゃって」

 「まったく、私がいないと…もういいわ。今夜は私が最後まで見届けますから」

 義理母は怒って部屋から出て行った。


 (はっ?やめてよ。もういやだ。何とかしてここから逃げ出したい。でも、どうやって?)  

 一体どういう神経で言えるのかとさえ思うがそんな事さえどうでもいい。

 今はこれからの事を考えなければ…


 しばらくすると扉がノックされた。

 「若奥様、お食事をお持ちしました」

 ラウラの声にほっとする。

 「ええ、ありがとう」

 「脚は痛みますか?」

 「少しね」

 「起き上がれそうですか?お食事はベッドでなさった方がよろしいですね」

 ラウラはベッドの後ろにクッションを差し入れ座れるようにしてくれた。


 ミモザは体を起こして座る。

 「あっ!」

 「申し訳ありません。脚が痛みますよね」

 慌ててラウラがけがをした方の脚を見た。

 「ああ…腫れてますね。先に手当てをしましょうか?」

 ラウラが気の毒そうにそう言った。

 包帯で巻かれた足首は少し腫れているように見えた。痛みは昨晩の事でひどくなっているかもしれない。

 (でも、無理してでも何とか歩かなきゃ…)

 「大丈夫。座ってるんだもの。気にしないでラウラ」

 (ひどく痛むとでも言ったらライオスの機嫌を悪くさせたしまうかもしれない)

 そうすると義理母の機嫌もまた悪くなるのはわかっている事だ。何しろライオスには蕩けるような菓子以上に甘い。

 「いいんですか?でもお食事が冷めますし…」

 「いいの。食事の支度をして」

 「はい」


 ベッドの上に簡易式の食台がおかれ朝食が並ぶ。

 食事はいつもきちんとしたものだった。

 焼きたてのパン。オムレツやチーズ。野菜のサラダにフルーツなど栄養豊かなメニューだ。

 これも子を孕むために必要だからだ。

 人から見れば公爵家に大切にされている嫁に見えるかもしれない。

 ミモザは滑稽だと笑みが零れた。

 (逆らってどうなるの?離婚したいって言えば、はいそうですかって義理母や実家の父が言うとでも?それに夫であるライオスも。まさか。やっぱり逃げるしかない。でも、どこに?)


 「少しでもお召し上がりください」

 食欲などないが仕方なくフォークを手に取りサラダに手を付ける。

 ミモザはそれを見てお茶をカップに注ぐ。

 朝のお茶は薬草茶と決まっている。子が出来やすいようにとわざわざ義理母が取り寄せたものだ。

 聞いたら笑う。お茶の名前は<コウノトリの奇跡>中身は単なるルイボスティーやタンポポの茶葉らしいけど…

 「すみません。食欲ありませんよね。奥様がキッチンに来られてきちんと食べるところを見届けるようにと…」

 ラウラが申し訳なさそうに言う。

 そうなのだ。義理母は食事の事までいちいち口を出す。

 何もかも自分の思い通りにならないと気が済まない性格なのだ。


 「いいのよ。あなたのせいじゃないもの。それに食べなきゃ元気になれないし、そうなったらここにずっといなきゃならないもの。そうね。しっかり食べて早く怪我を治して仕事に…」

 そこまで言って言葉に詰まった。

 そうだった。職場でもあいつ(義理父)に迫られたんだった。

 ああ…もう八方ふさがりじゃない。


 「カチャカチャ」オムレツを散々フォークでつついてしまう。

 気づくとオムレツはぐちゃぐちゃになっていてそのオムレツを無理やり口に押し込んでやっと朝食を食べ終える。

 そしてコウノトリのお茶を飲んでやっと食事から解放された。

 「若奥様、冷やした方がいいですね。湿布をお持ちします」

 「ええ、ありがとうラウラ」

 こんな事していられない。とにかく何とかしなきゃ!



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアーティアは、継母に冷酷無慈悲と噂されるフレイグ・メーカム辺境伯の元に嫁ぐように言い渡された。 継母は、アーティアが苦しい生活を送ると思い、そんな辺境伯の元に嫁がせることに決めたようだ。 しかし、そんな彼女の意図とは裏腹にアーティアは楽しい毎日を送っていた。辺境伯のフレイグは、噂のような人物ではなかったのである。 彼は、多少無口で不愛想な所はあるが優しい人物だった。そんな彼とアーティアは不思議と気が合い、やがてお互いに惹かれるようになっていく。 2022/03/04 改題しました。(旧題:不器用な辺境伯の不器用な愛し方 ~継母の嫌がらせで冷酷無慈悲な辺境伯の元に嫁がされましたが、溺愛されています~)

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される

中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。 実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。 それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。 ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。 目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。 すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。 抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……? 傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに たっぷり愛され甘やかされるお話。 このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。 修正をしながら順次更新していきます。 また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。 もし御覧頂けた際にはご注意ください。 ※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

処理中です...