46 / 58
34-1アリシア呼び出される
しおりを挟むその頃アリシアはリオスの街はずれの小さな診療所で忙しく働く。
アリシアはここで働くときに国境警備隊長ヴィルの妹と言うことにしていた。
患者はいつも女神のようななどと言うがアリシアにしてみれば散々聖女と言われてひどい目にあって来たのであまりうれしくはなかった。
だからみんなにはそんな事を言うならもう治療しないわよと言ってやるのだ。
そう言うとさらにアリシアの人気や信頼は高まった。
まったくおかしな話だとアリシアは思っていた。
まあ、そんな事よりアリシアのやるべきことは決まっていた。
今のティルキア国はアリシアが決壊を張っていた頃とは変わりバードの感染も広がり始めていて、患者は途絶えることがなかった。
そんな時薬師のウートスから教わった薬草で新しい薬を作った。
どくだみがバードの感染を防ぐことはわかっていた。アリシアはそれに色々な薬草を足して患者に試した。
そしてある時とうとうバードに効く薬が出来上がった。
高熱のある人にはドクダミ、オナモミ、イラクサ、ヒイラギを混ぜてアリシアが水に魔力を加えた水で練って作った薬が良く効いた。
まだ高熱が出始めていない患者にはドクダミとイラクサ、ヒイラギを混ぜて同じくその水で練って作った薬が効いた。
「ウートス。出来たわ!これでバードで死ぬ人がいなくなるかも知れません」
アリシアは珍しく大きな声を上げてウートスに元に走って行った。
「こりゃすごい。そうとなればイラクサやヒイラギをたくさん取って来なければ…そうだ!猟師のケビルに頼めばいくらでも取って来てくれる」
ケビルはウートスの中の良い友人でかなりの年齢でもあったが元気だけはあるおじいさんだった。
「でも、ウートスあまり無理はさせちゃだめよ」
ふたりは大声で笑い合った。
その夜ほっとしたせいかグレンの事を思い出した。
いや、毎日思い出しているんだけど。今夜は時に気になった。
今頃どうしているだろう?
私が死んだことにしてもいいって言ったけどグレン悲しんでるかな?
落ち込んで食欲とか落ちてないかな?
何とか元気を出して国王として頑張ってほしいけど。
冷たいベッドは何度横寝返りを打っても落ち着かないまま目を閉じる。
夜中に温もりを求めて伸ばした手がひどく冷たくなって目を覚ます。
グレンと別れてからずっとだ。
ずっとグレンの腕の中にいられるって思っていたから。
ずっと死ぬまで一緒かもなんて淡い期待を抱いていたから。
アリシアはこの夜ひどく寂しかった。
バードの特効薬が出来てうれしいはずなのに。
そんな事で満足できるはずもないのに。
いつまでもグレンをひきずってはいられないのに。
しっかりしなきゃいけないのに。
そうやって今夜もアリシアは無理やり目を閉じた。
数日のうちには大量の薬が出来上がりアリシアはケビルに手伝ってもらってリオスの街の薬屋にその薬を持ち込んだ。
昼間のアリシアは仕事に没頭し屈託なく笑えるようになっていた。
ただしグレンの事が忘れられたわけではなかったが。
アリシアはいつの間にかリオスの街ではかなり名前が知られていて彼女が作った薬はすぐに近くの街にまで行きわたった。
おかげでバードに感染した人たちの病状は見るみるうちに回復して行き、アラーナ国からも注文が来たと薬屋から依頼が来た。
アリシアは自分の名前は伏せて自国でも作れるように薬のレシピを教えたが一番効くのはアリシアが作った薬だった。
「おかしいわ。同じ作り方なのに…」
「そりゃアリシアの魔力はオーディン教の女神エイル様の力がこもってるんだ。他の魔力とは違うに決まっているさ」
ゲイルもウートスも声を揃えてそう言った。
「そんなの。私にそんな力はないわ。ふたりとも私の事を持ち上げ過ぎよ」
アリシアはおごることもなく謙虚だった。
そんな時リオスの行政府から呼び出しが来た。
ウートスは大変だと大騒ぎしてすぐアリシアに行って来るようにせっついた。
アリシアは呼び出されて仕方なく行政府におもむいた。
受付で部屋を教えられてその部屋に入った。
「あなたがアリシアさんですか?」
青白い顔をしたやせぎすの男がじろっと見つめてそう問いかけた。
「はい、そうですが、私はどんな要件で呼び出されたんでしょうか?」
「はい、リオス行政官はあなたにバードの治療薬を作って頂いてリオスの民を代表してあなたにお礼を言いたいと申しております。それであなたの事を王都の行政府に報告したんです。そしたらぜひあなたに来てほしいと連絡がありまして、どうでしょう?こちらとしましては明日にでもべズバルドルに行っていただきたいんですが」
「べズバルドルにですか?いえ、私はもうそんな事には関わりたくないんです。この街で静かに暮らしていければ…バードの治療薬は診療所の薬師と一緒に作ったものですし私ひとりの力ではありません。ですからそのお話はご辞退させて下さい」
アリシアはべズバルドルに近寄る気はなかった。
ちょうどヴィルからの手紙が届いたばかりでガイル大司教やフィジェル宰相とも顔を合わしたくもなかった。
それにまた利用されるかもしれないのに、誰がそんなところに行くもんですかと思っていたのだ。
取りあえず行政官からお礼を言われ報奨金として100万ガラーネが渡された。
アリシアは迷ったがこれだけあれば当分遊んで暮らせる。それに診療所の傷んでいる家の修理も出来ると思い有難くいただくことにした。
その翌日、診療所の前に騎士隊がやって来た。
北の国境警備隊の服装ではなかった。
そこに現れたのはゴールドヘイムダルの騎士隊長レオン・ヘンドリックだった。
「失礼する。アリシア様はおられるか?」
「レオン隊長どうされたのですか?こんな所までお越しになるなんて…」
金色のマントの下は肩章や金糸に縁どられた豪華な白いダブルブレスト。
相変わらず端整な顔立ちに頼りがいのある美丈夫。
錆色の髪は後ろで一つに束ねてあり、瑠璃色の瞳は少し緊張しながらも穏やかな色をしていた。
アリシアは驚いて少し躊躇するがすぐに緊張はほぐれて行った。
「アリシア、聞いたよ。バードの特効薬を作ったんだって?凄いじゃないか。べズバルドルはこれでバードにかかっても安心だってそりゃ大騒ぎになっているぞ」
「そんな。それにあれは私一人で作ったわけじゃないんです。ウートスも…あっ、ウートス。こちら王都の騎士隊のレオン・ヘンドリック隊長です」
ウートスはたまげる。
「こ、これは王都の騎士隊の…まあ、こんなむさくるしい所におあがりくださいとも言えません…」
ウートスはおろおろして入り口で狼狽えている。
「ウートス様大丈夫です。すぐに失礼しますので‥アリシアとにかく一緒に来てほしいんだ。君を連れて帰れないと国王や議会が黙っていない。国王は君に勲章と報奨金を出したいとおっしゃっている。すぐに支度して俺と来て欲しい」
レオンの口調は優しかった。
「レオン隊長、お話はありがたいんですが私もうべズバルドルには戻る気はないんです。勲章も報奨金もいりません。皆さんにはそう伝えて頂けませんか?」
アリシアも穏やかに返事を返したのだが…
12
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。
木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。
それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。
誰にも信じてもらえず、罵倒される。
そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。
実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。
彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。
故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。
彼はミレイナを快く受け入れてくれた。
こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。
そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。
しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。
むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。
龍王の番
ちゃこ
恋愛
遥か昔から人と龍は共生してきた。
龍種は神として人々の信仰を集め、龍は人間に対し加護を与え栄えてきた。
人間達の国はいくつかあれど、その全ての頂点にいるのは龍王が纏める龍王国。
そして龍とは神ではあるが、一つの種でもある為、龍特有の習性があった。
ーーーそれは番。
龍自身にも抗えぬ番を求める渇望に翻弄され身を滅ぼす龍種もいた程。それは大切な珠玉の玉。
龍に見染められれば一生を安泰に生活出来る為、人間にとっては最高の誉れであった。
しかし、龍にとってそれほど特別な存在である番もすぐに見つかるわけではなく、長寿である龍が時には狂ってしまうほど出会える確率は低かった。
同じ時、同じ時代に生まれ落ちる事がどれほど難しいか。如何に最強の種族である龍でも天に任せるしかなかったのである。
それでも番を求める龍種の嘆きは強く、出逢えたらその番を一時も離さず寵愛する為、人間達は我が娘をと龍に差し出すのだ。大陸全土から若い娘に願いを託し、番いであれと。
そして、中でも力の強い龍種に見染められれば一族の誉れであったので、人間の権力者たちは挙って差し出すのだ。
龍王もまた番は未だ見つかっていないーーーー。
ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています
柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。
領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。
しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。
幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。
「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」
「お、畏れ多いので結構です!」
「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」
「もっと重い提案がきた?!」
果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。
さくっとお読みいただけますと嬉しいです。
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
くたばれ番
あいうえお
恋愛
17歳の少女「あかり」は突然異世界に召喚された上に、竜帝陛下の番認定されてしまう。
「元の世界に返して……!」あかりの悲痛な叫びは周りには届かない。
これはあかりが元の世界に帰ろうと精一杯頑張るお話。
────────────────────────
主人公は精神的に少し幼いところがございますが成長を楽しんでいただきたいです
不定期更新
おいしいご飯をいただいたので~虐げられて育ったわたしですが魔法使いの番に選ばれ大切にされています~
通木遼平
恋愛
この国には魔法使いと呼ばれる種族がいる。この世界にある魔力を糧に生きる彼らは魔力と魔法以外には基本的に無関心だが、特別な魔力を持つ人間が傍にいるとより強い力を得ることができるため、特に相性のいい相手を番として迎え共に暮らしていた。
家族から虐げられて育ったシルファはそんな魔法使いの番に選ばれたことで魔法使いルガディアークと穏やかでしあわせな日々を送っていた。ところがある日、二人の元に魔法使いと番の交流を目的とした夜会の招待状が届き……。
※他のサイトにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる