殿下、決して盛ってなんかいません!私は真面目にやってるんです。おまけに魅了魔法効かないじゃないですか!どうするんです?

はなまる

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16グレンの苦悩

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 グレンは屋敷から一気に走り出た。

 屋敷は街はずれにあり辺りに他の家は一件もなかった。

 そのかわりすぐに森がある。

 グレンは森に転がるように走りこんだ。

 訳の分からない憤りや抑えきれない感情で理性は木っ端みじんに吹き飛んだ。

 この苦しみから逃れたいって本能が叫んでいた。


 アリシア…俺の番だってすぐにわかった。

 お前を見た時。お前の匂いを嗅いだ時。お前の唇に触れた時。

 俺は身体中が喜びに震えた。野生の本能が目覚め思わす咆哮をあげてしまいそうになった。

 この俺が…半分人間のこの俺が?

 そんなことあるもんかと思っていたのに…

 まだ信じれない。けど、アリシアお前の事を思うだけで俺は恋しさで狂いそうになる。

 お前の匂いを嗅げば理性を失いそうになる。

 だから俺はお前にあんな態度を…いや、アリシアが他の男に触れるだけで、他の男としゃべるだけで…

 ああ…なのに、思い出すだけでも胸くそが悪い!


 ずっと獣の子だと疎まれさげすまれてきた。

 母は俺を産むとすぐに魔獣の森に帰って行ったそうだ。

 きっと生まれたばかりの赤ん坊を見て人間と恋に落ちたことを後悔したんだろう。

 父は赤ん坊の俺を引き取った。

 だが俺を王宮で育てるのは危険すぎるとかで俺はあの屋敷でひっそりと育てられた。

 きっと父も俺が邪魔だったに違いないと思った。

 使用人も俺の事を人間の子供として扱ってはくれなかった。

 それでも時々父は来てくれた。使用人は父が来た時だけは取り繕ってはいた事は覚えている。

 父が半年に一度くらい来てくれた事で俺は少しは父に思われているのだと感じるようになっていた。

 でも数年後には新しい王妃とやらを迎えたとかでほとんど来ることもなくなった。

 そしてやっと次の王子マティアスが生まれてやっと王宮に呼び寄せられた時俺は14歳になっていた。

 父は喜んだが周りの者は全く喜んではいなかった。

 むしろ迷惑顔だとはっきりわかった。

 俺は魔族の血を引いているから。

 それでも父の事は憎いとは思わなかった。父の立場からすれば仕方のない事だとも思える年になっていた。

 父は俺に執事を付けてくれた。いつもそばにはいられないし王妃やマティアスの事もあるからだろう。

 俺につけられた執事は、闘技場で戦ってその年の大会で優勝をしたと言う奴隷だった。

 彼は元ペルシス国の貴族だったらしく国をティルキア国に滅ぼされて戦争捕虜として捕まり奴隷として売られたらしい。

 そしてアラーナ国の闘技場に売られてきた。そこで闘い勝つことで生き延びて来た男だった。

 彼の名前はイムダル・ベルジアン。元貴族だった彼はちゃんとした礼儀もわきまえていて俺に貴族としての礼儀や作法を教えてくれた人間だ。

 ベルジアンがいなかったら俺はすぐに王宮なんか飛び出していただろう。

 でも、その方が良かったのかもしれないが…

 父にそそのかされてこの国の為に力を貸してくれなどほだされて。

 くっそ!

 こんな俺でも少しは人の役に立てるかも知れないと思っていた。もちろん王になどなる気はなかった。

 マティアスを手助けするつもりだった。だが、あからさまに邪魔者として扱われたら俺だって嫌になる。

 だから現実はそうはならなかった。

 父はあの王妃ジョアンナに殺され次の国王はマティアスになるだろう。

 まあ、俺にはもうどうでもいい事だ。

 あんなところに帰るつもりもないくらいだ。


 それにしてもアリシアにあんなところを見つかるなんて…

 あの時逃げ出していれば良かったのに…そんなこと出来るはずないだろうアリシア。

 お前が俺に手を差し伸べてくれたんだ。

 俺は天にも昇る気持ちでお前に飛びついていた。

 ああ…俺の唯一の番。お前を俺だけのものにしたいってどれほど思っていたか。

 でもそれが朔の日だったとは…俺はただの子犬で。ったく。

 まあそれにそんな事をすればアリシアお前は俺から逃げてしまうだろう?

 だって、俺はばけものなんだから。

 アリシア知らないだろうけど俺、満月の日には狼に変身するんだ。

 もしかしたらお前を食い殺すかもしれない。

 番なんだ。そんなことするはずがないと思いたい。

 でも、そんな事しないって保証もないんだ。

 そんな事考えてたなんて知らなかっただろう。


 だから…俺はずっとお前に軽口ばかり叩いてお前に気なんかないってふりをして来たのに…

 あんな事言わなければよかった。

 ヴィルに話してもいいって言えばよかった。

 俺はお前の頼みならどんな事でもかなえてやる。そうするに決まっている。なのに…

 素直になれないんだ。

 アリシアお前に俺は似合わないって思うから。

 それでもお前を助けたい。力になりたいって思っているんだ。

 本当に。

 今の俺に残っているものはアリシアお前への気持ちくらいだ。


 グレンは森の中の大きな木の下にある根っこに寝転んだ。

 太陽は暖かい朝のぬくもりを木々の隙間からグレンに与えてくれた。

 木漏れ日がさしてまばゆい光がグレンの身体に程よい安らぎを。

 そしてグレンは大地の安らぎを感じて目を閉じる。

 そよ吹く風が時折グレンの髪の毛をくすぐるように撫ぜて行く。

 それはまだ記憶もないころに感じた母の感触かも知れない。

 もう何かも嫌になった。

 今は何も考えたくない。

 グレンは訪れた睡魔にそのまま身を任せた。

 心地よい時間が過ぎて行く。


 『ぐおぉ~ん』

 突然耳孔の奥で大きな音がしてグレンは飛び起きた。

 「なんだ?今の音は…わぉお~ん。わぉお~ん。ぐぅお~ん。ばふぅ。ぎゃおぅ~。ぐぁあおぅ~…がおぉぉ~」

 いきなりグレンの耳殻が割れそうなほど色々な獣の声が響いた。 

 その声はどれも異常なほど興奮していて、何かの予兆を知らせるようなそんな警告にも思えるような凄まじい声だった。

 こんなことはしていられない。

 何かが起きている。グレンの魔族の血が沸き立ち騒ぎ始めた。

 グレンは我を忘れてその場から急いで駆け出した。

 一番に思った事はアリシアの事だったが、本能が感じる不吉な予感には逆らえず、グレンは魔獣の森に向かっていた。



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