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15-2うそ!この子犬が殿下?
しおりを挟むグレンはそんなアリシアの気持ちなどお構いなしにチッと舌打ちする。
「あのな。俺は年増に興味はないからな。それに殿下って言うのやめないか。人のいない時はグレンでいい。その殿下って言うのはどうも肩が凝ってやれん」
「いいんですか?国王が亡くなったと言うことはあなたが次の国王になるんですよね?そんな人を呼び捨てるなんて…無理ですよ」
「国王になるかはまだわからん。俺を退けたい奴らがいるからな。こうやって逃げ出したからまた何を言われるやら…あの姿を見られるわけにもいかなかったしな」
「ああ、それで…色々大変ですね。そう言えばこのお屋敷って殿下の家なんですよね?」
殿下と言うとグレンにジト目で見据えられたが質問には応えてくれた。
「ああ、そうだ。でも、アリシアたちはもう王都から出たと思ってた…」
「ベルジアン様が帰ってこなかったんですよ。そうだベルジアン様は無事ですか?」
「ああ…ベルジアンは別の用で…すまん」
「いいんですよ。それより私が殿下は無実だって証明しますよ」
アリシアは何か思いついたと手をパチンと叩いた。
「おい、名を呼べと言ったはずだ。それにどうやって?」
グレンはキュッと眉が寄せたがすぐに目を見開いてアリシアの言った事に興味を示した。
「殿下…いえ、グレンはあの夜、私と一緒にいた事にすればいいんじゃないです?」
「ば、ばか!そんな事を言ってみろ。俺と関係を持ったと思われるぞ」
グレンはあからさまに動揺する。
「かんけい?関係って?何の?」
「はっ?お前は子供か?男と女が一緒に寝たらする事に決まってるだろう」
今度は呆れた顔でアリシアを見る。
「あっ!そうですね。無理ですね」
アリシアは噴き出す。何を言ってるんだ私と。
するとグレンがアリシアに近づいてきた。なぜか口元は少し緩んでいる。
「いや、でもいいかも知れんな。俺とお前はそう言う関係になったと思わせるのも…」
すぐ目の前に来られてアリシアは首を激しく横に振った。
「いやです!私にだって選ぶ権利があります。無理。無理ですから!」
「はっ?年増のくせに?そんな偉そうなこといえるのか?相手がいただけでも奇跡だろ!」
「年増は余計です。それに私の事変態扱いしてるくせに…」
「ああ、自分で認めるんだな。やっぱり盛りが付いていると…」
「誰が!もっ、頭にくる!!おじさんにそんな事言われたくありませんから。やっぱり前言撤回でお願いします」
「お、お前今なんて言った?お、じさん?ㇰッ~。アリシア。いいか、これは決定事項だ。アリシア今日からお前は俺の婚約者と言うことで決まりだ」
グレンは腕を胸の前で組んでひとりで頷いてニンマリと笑った。
その姿はどこかで見たおじさんと同じに見える。
「やめてくださいよ。そんな勝手に決めるなんて、権力の暴力ですよ~」
「そんなの無駄だってわかってるんだろう?いいからその服着替えろ。見るに耐えん。それに腹が減った。アリシア飯の用意を頼む」
「もぉぉぉ、知りませんからね。どうなっても…それにこの話を引き受けるなら魔狼の件了解して下さいよ。いいですよね?」
えっ?私、引き受ける気?どうするつもりよ~。でもナイスな取引かも?
脳内は支離滅裂状態でもはや正確な判断も出来る状態ではないのでは。
「ああ、考えておく。これから少しの間忙しいからな。それが片付いたらちゃちゃっとやってしまうから。それでいいだろうア・リ・シ・ア~」
「もぉぉ~。気持ち悪い呼び方やめてくださいよね!!」
「おい、そこはグレンッ!て言うところだろう」
「殿下。頭おかしくなりました?」
「グ・レ・ン・だ。アリシア」
その声はものすごく凄みがあって甘いと言うより恐い。
「あっ、それから俺が朔の日に力がなくなるって言う事は絶対に誰にも話すなよ。アリシアは俺の婚約者だもんなぁ」
「そうですよね。そんな事が分かればあなたは危険。ええ、も、もちろんよ。だって私はこんやくしゃですもの。ねぇ。その代り魔狼退治絶対に裏切らないって約束して!」
「ああ、あれだ。お互い持ちつ持たれつって言う。わかった。その代わりヴィルにも言うなよ」
「でも、兄だし。私たちあなたに仕事をしてもらわなきゃならないし…ヴィルにだけは言いますよ」
こ、これは保険ってやつなんだから。
グレンの肩がピクリとはねた。そして口元がギシッと言った。
「グルルゥゥ~」
「グレンいいでしょう?お願い。こんなすごい秘密、私一人では抱えきれないですよ。だってこれがばれればあなたの命は…無理!」
「俺を脅す気か?ギシッギシッギシッ」
グレンの瞳孔がすぅっと細くなってまるで新月みたいになる。目は赤くらんらんと輝き始めた。
「お、脅すなんて…とんでもないわ。ただ、ただ…その…」
「ただ?俺が信用できないか。だろうな。お前も他の奴らと同じだ。俺が人間じゃないから、見損なったなアリシア。俺は…お前に出会った時……まあ、もういいさ。俺は好きに生きるだけだ。王宮に帰ってもどうせあいつらの都合のいいようにされるだけだ。お前たちももう国に帰れ。じゃあな」
グレンはそう言うとさっと飛び出して行った。
アリシアは失敗したと思いすぐに後を追う。
「待ってグレン。わかった。私、誰にも言わない。絶対にあなたの事裏切ったりしないから…お願い。行かないで。お願いよグレン!!」
アリシアはグレンに向かって叫ぶ。
グレンは早かった。それに振り返りもしなかった。
ああ…行ってしまった。
どうして彼を怒らすようなことを言ったのだろう。
婚約者に慣れ何て言われて焦るに決まってるじゃない。
それにあなたの弱みを使って取引しようなんて…つい、魔狼退治を引き受けて欲しくて。
彼が自分の弱いところを知られて困っているというのにそれを利用しようなんて何て浅はかな事をしたのよ。
それがグレンのとってどれほど辛い事か自分もよく知っていたのに。
グレンといるとちっとも素直でいられなくなる。
グレンといると自分の気持ちを抑え込んでいられなくなる。
言いたいことをなんでも言いあってすごく楽しいから。
こんな事初めてだ。
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