19 / 58
14えっ?いきなり犯人扱いですか?
しおりを挟むアリシアたちは王宮に戻って来た。
ほっと息をつく。
「疲れただろう?今、お茶と菓子を…おい、ベルジアン」
その途端執務室に近衛兵が現れた。
「何ですか?いきなり失礼ですぞ」
ベルジアンが近衛兵に抗議する。
「グレン殿下とアリシア様を国王暗殺の疑いで連行します」
「そんなわけがあるか。いい加減にしないか。相手は次期国王のグレン殿下なんだぞ!」
ベルジアンの言葉が乱れ声がさらに大きくなる。
「ですが王妃がはっきりと昨夜遅くおふたりが国王の部屋に入って行かれるのを見たとおっしゃっていますので」
「私、そんなことしてません。自分の部屋でぐっすり休んでいましたから…もちろんグレン殿下もそうに決まってます」
グレンは下らんとでも言いたげに窓の方を向いた。
近衛兵はその場から一歩も動けずにいる。きっとグレンが魔法で動きを止めているのだろうとアリシアは思った。
「ベルジアン。アリシアを連れてヴィルフリートのもとへ。すぐにふたりとマコール(王都)から連れ出せ。そしてすぐにティルキア国に帰るように手配をしろ!」
「はい、すぐに。アリシア様こちらに」
「でも、殿下はどうなるのです?」
「殿下は心配はいりませんあの方はそんなやわな人ではないんです。今はとにかくここから脱出していただきませんと殿下も動けないのです」
「でも、また会えますよね?だって殿下に頼まなければならないことがあるんです。だから…」
「また機会があります。今は急いで」
「では、殿下にこれを…」
アリシアは昨夜国王とグレンとマティアスの為にハンカチに刺繍をした。いつも着るもののほころびや修繕をしているうちに裁縫は得意になった。
それで刺しゅうも教えてもらって出来るようになったのだ。
だから3人の名前のイニシャルを刺繍した。
国王はテオドロスのTの字を、グレンはGの文字をマティアスにはⅯの文字をそれぞれにシーヴォルトのSの文字とその周りに幸せのクローバーを添えて。
せっかく刺繍頑張ったんだからグレンにだけは何としても受け取ってほしいじゃない。
ベルジアンはそれを受け取ると急いでグレンに手渡す。
「殿下これを」
「これは…」
「聞いてましたよね?アリシア様からですよ」
「こんなものであの願いを聞けと…チッ!俺も安く見られたものだ。さあ早く連れていけ」
「はい」
そう言ったグレンだったがハンカチはしっかり握りしめていた。
***
ベルジアンに連れられてヴィルフリートとアリシアは王宮を出てマコールの街はずれにある屋敷に案内された。
こじんまりとした古い屋敷だが人が住んでいるように手入れが行き届いていた。
「すぐに国を出るよう準備を整えてまいりますのでここでしばらくお待ちください。こんなことになって申し訳ありません。王妃様は次期国王を我が息子マーティン様にと国王に進言しておられたのですが国王はこの国のためにもグレン様を次期国王にするとお聞きにならなくて…お立場からすればそう思われるのは当然なのですが…魔獣の森とのいざこざを収めれるのはきっとグレン様にしか出来ない事とお考えになっての事と…でもどこの国でも古い考えや慣習を変えれない人たちがいるものでして…」
ベルジアンはだんだん口ごもる。
「ええ、そうですよね。ティルキア国も似たようなものです」
「そうなのか?俺はルキアス国王はすごくいい国王で反対派なんかいないって思っていたけど」
ヴィルが割り込んで来た。
「それ自慢?」
「あっ、そうか。俺の…」
「しー!ヴィルあなたは知らないからよ。ルキアス国王のやり方に反対している人たちがたくさんいることを…フィジェル宰相なんか…ううん、いいの」
アリシアはそこまで言うと口を閉じた。
ベルジアンはそんな話は聞いていないとばかりに部屋への案内を終えるとすぐに扉の取っ手を掴んでいた。
「まあ、そんなわけですのでしばらくこちらで休んでいてください。食料などは後でお持ち出来ると思いますので」
「ええ、お構いなく、俺もいるんだしグレン殿下も魔力のある方。心配なんかしていませんよ」
ヴィルはすまなさそうに頭を下げるベルジアン様に安心するように言った。
そうはいってももう夕方。ベルジアン様が帰って来るのは遅くなるかもしれない。
思った通り夜になってもベルジアン様は戻ってこなかった。
グレンに何かあったとは考えづらいがアリシアたちはここで待つしかないと思った。
「この国のお金もないしな…それに辺りには家もなさそうだし…何か食べ物を探すか」
そう言いだしたのはヴィルだった。
「ええ、そうね。きっとベルジアン様も忙しいのよ。帰って来るのもいつになるかわからないし…きっと何かあるんじゃない?」
だってきちんと掃除は行き届いているし時々誰かがここを使っている気がするもの。
私たちはキッチンをあちこち探す。
棚の中にはまだ使えそうな小麦や豆があり調味料もあった。薪もあったし釜戸式オーブンに火を入れたのはヴィルだった。
「俺、騎士隊にもいたしこんな事するのは慣れてるから任せとけ」
それからヴィルの幼いころからの話を一通り聞くはめになる。
父親が濡れ衣で刑務所に入った事や刑務所の中で死んでしまった事、お母さんが他の男といなくなった事。でも騎士隊に入れたのはお父さんが助けた元騎士隊長の家族のおかげだったって事。
そこまで言うとヴィルは話をやめた。
「何か忘れてる気がするんだ。何か大切なことを…でも、やっぱり思い出せない。クッソ。何だかすっスッキリしないなぁ」
「今日は疲れてるしヴィルあまり考えすぎない方がいいんじゃない。あっ、私、豆のスープ作るから」
「ああ、頼んだ。俺はパンを焼くから‥あっ、でも王宮で食べたような白いパンは期待するなよ」
「わかってるわよ。あれは特別よ」
ふたりで夕食を作って食べた。豆のスープは案外美味しかった。パンは白いパンではなかったが焼きたてでものすごく美味しかった。
ついでに明日の朝の分も残しておく。
寝る場所は一階の寝室を使う事にした。何かあってもすぐに逃げれるようにって。
隣の部屋突Ⅾき部屋だったのでヴィルは隣の部屋で寝る事になった。
「そう言えば弓矢持ってこなかったな。明日にはベルジアンさんが来るといいが…もし来なかったら俺一度王宮に戻って来るから」
「でも危険じゃない?」
「聞いた話ではグレンとアリシアが疑われてるんだろう?俺は関係ないだろう。だったらこっそり」
「そんなのできるわけ…」
「アリシアこれでも俺潜入捜査だってして来たんだぞ。それくらい大丈夫だから…さあ、もう寝よう。おやすみアリシア」
「ええ、でも気を付けて…お休みヴィル」
アリシアはとても疲れていたせいかすぐに眠りに落ちた。
23
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています
柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。
領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。
しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。
幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。
「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」
「お、畏れ多いので結構です!」
「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」
「もっと重い提案がきた?!」
果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。
さくっとお読みいただけますと嬉しいです。
くたばれ番
あいうえお
恋愛
17歳の少女「あかり」は突然異世界に召喚された上に、竜帝陛下の番認定されてしまう。
「元の世界に返して……!」あかりの悲痛な叫びは周りには届かない。
これはあかりが元の世界に帰ろうと精一杯頑張るお話。
────────────────────────
主人公は精神的に少し幼いところがございますが成長を楽しんでいただきたいです
不定期更新
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
【完結】見た目がゴリラの美人令嬢は、女嫌い聖騎士団長と契約結婚できたので温かい家庭を築きます
三矢さくら
恋愛
【完結しました】鏡に映る、自分の目で見る姿は超絶美人のアリエラ・グリュンバウワーは侯爵令嬢。
だけど、他人の目にはなぜか「ゴリラ」に映るらしい。
原因は不明で、誰からも《本当の姿》は見てもらえない。外見に難がある子供として、優しい両親の配慮から領地に隔離されて育った。
煌びやかな王都や外の世界に憧れつつも、環境を受け入れていたアリエラ。
そんなアリエラに突然、縁談が舞い込む。
女嫌いで有名な聖騎士団長マルティン・ヴァイスに嫁を取らせたい国王が、アリエラの噂を聞き付けたのだ。
内密に対面したところ、マルティンはアリエラの《本当の姿》を見抜いて...。
《自分で見る自分と、他人の目に映る自分が違う侯爵令嬢が《本当の姿》を見てくれる聖騎士団長と巡り会い、やがて心を通わせあい、結ばれる、笑いあり涙ありバトルありのちょっと不思議な恋愛ファンタジー作品》
【物語構成】
*1・2話:プロローグ
*2~19話:契約結婚編
*20~25話:新婚旅行編
*26~37話:魔王討伐編
*最終話:エピローグ
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
おいしいご飯をいただいたので~虐げられて育ったわたしですが魔法使いの番に選ばれ大切にされています~
通木遼平
恋愛
この国には魔法使いと呼ばれる種族がいる。この世界にある魔力を糧に生きる彼らは魔力と魔法以外には基本的に無関心だが、特別な魔力を持つ人間が傍にいるとより強い力を得ることができるため、特に相性のいい相手を番として迎え共に暮らしていた。
家族から虐げられて育ったシルファはそんな魔法使いの番に選ばれたことで魔法使いルガディアークと穏やかでしあわせな日々を送っていた。ところがある日、二人の元に魔法使いと番の交流を目的とした夜会の招待状が届き……。
※他のサイトにも掲載しています
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる