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14えっ?いきなり犯人扱いですか?

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 アリシアたちは王宮に戻って来た。

 ほっと息をつく。

 「疲れただろう?今、お茶と菓子を…おい、ベルジアン」

 その途端執務室に近衛兵が現れた。

 「何ですか?いきなり失礼ですぞ」

 ベルジアンが近衛兵に抗議する。

 「グレン殿下とアリシア様を国王暗殺の疑いで連行します」

 「そんなわけがあるか。いい加減にしないか。相手は次期国王のグレン殿下なんだぞ!」

 ベルジアンの言葉が乱れ声がさらに大きくなる。

 「ですが王妃がはっきりと昨夜遅くおふたりが国王の部屋に入って行かれるのを見たとおっしゃっていますので」

 「私、そんなことしてません。自分の部屋でぐっすり休んでいましたから…もちろんグレン殿下もそうに決まってます」


 グレンは下らんとでも言いたげに窓の方を向いた。

 近衛兵はその場から一歩も動けずにいる。きっとグレンが魔法で動きを止めているのだろうとアリシアは思った。

 「ベルジアン。アリシアを連れてヴィルフリートのもとへ。すぐにふたりとマコール(王都)から連れ出せ。そしてすぐにティルキア国に帰るように手配をしろ!」

 「はい、すぐに。アリシア様こちらに」

 「でも、殿下はどうなるのです?」

 「殿下は心配はいりませんあの方はそんなやわな人ではないんです。今はとにかくここから脱出していただきませんと殿下も動けないのです」

 「でも、また会えますよね?だって殿下に頼まなければならないことがあるんです。だから…」

 「また機会があります。今は急いで」

 「では、殿下にこれを…」

 アリシアは昨夜国王とグレンとマティアスの為にハンカチに刺繍をした。いつも着るもののほころびや修繕をしているうちに裁縫は得意になった。

 それで刺しゅうも教えてもらって出来るようになったのだ。

 だから3人の名前のイニシャルを刺繍した。

 国王はテオドロスのTの字を、グレンはGの文字をマティアスにはⅯの文字をそれぞれにシーヴォルトのSの文字とその周りに幸せのクローバーを添えて。

 せっかく刺繍頑張ったんだからグレンにだけは何としても受け取ってほしいじゃない。

 ベルジアンはそれを受け取ると急いでグレンに手渡す。

 「殿下これを」

 「これは…」

 「聞いてましたよね?アリシア様からですよ」

 「こんなものであの願いを聞けと…チッ!俺も安く見られたものだ。さあ早く連れていけ」

 「はい」

 そう言ったグレンだったがハンカチはしっかり握りしめていた。


 ***


 ベルジアンに連れられてヴィルフリートとアリシアは王宮を出てマコールの街はずれにある屋敷に案内された。

 こじんまりとした古い屋敷だが人が住んでいるように手入れが行き届いていた。

 「すぐに国を出るよう準備を整えてまいりますのでここでしばらくお待ちください。こんなことになって申し訳ありません。王妃様は次期国王を我が息子マーティン様にと国王に進言しておられたのですが国王はこの国のためにもグレン様を次期国王にするとお聞きにならなくて…お立場からすればそう思われるのは当然なのですが…魔獣の森とのいざこざを収めれるのはきっとグレン様にしか出来ない事とお考えになっての事と…でもどこの国でも古い考えや慣習を変えれない人たちがいるものでして…」

 ベルジアンはだんだん口ごもる。


 「ええ、そうですよね。ティルキア国も似たようなものです」

 「そうなのか?俺はルキアス国王はすごくいい国王で反対派なんかいないって思っていたけど」

 ヴィルが割り込んで来た。

 「それ自慢?」

 「あっ、そうか。俺の…」

 「しー!ヴィルあなたは知らないからよ。ルキアス国王のやり方に反対している人たちがたくさんいることを…フィジェル宰相なんか…ううん、いいの」

 アリシアはそこまで言うと口を閉じた。

 ベルジアンはそんな話は聞いていないとばかりに部屋への案内を終えるとすぐに扉の取っ手を掴んでいた。

 「まあ、そんなわけですのでしばらくこちらで休んでいてください。食料などは後でお持ち出来ると思いますので」

 「ええ、お構いなく、俺もいるんだしグレン殿下も魔力のある方。心配なんかしていませんよ」

 ヴィルはすまなさそうに頭を下げるベルジアン様に安心するように言った。

 そうはいってももう夕方。ベルジアン様が帰って来るのは遅くなるかもしれない。


 思った通り夜になってもベルジアン様は戻ってこなかった。

 グレンに何かあったとは考えづらいがアリシアたちはここで待つしかないと思った。

 「この国のお金もないしな…それに辺りには家もなさそうだし…何か食べ物を探すか」

 そう言いだしたのはヴィルだった。

 「ええ、そうね。きっとベルジアン様も忙しいのよ。帰って来るのもいつになるかわからないし…きっと何かあるんじゃない?」

 だってきちんと掃除は行き届いているし時々誰かがここを使っている気がするもの。


 私たちはキッチンをあちこち探す。

 棚の中にはまだ使えそうな小麦や豆があり調味料もあった。薪もあったし釜戸式オーブンに火を入れたのはヴィルだった。

 「俺、騎士隊にもいたしこんな事するのは慣れてるから任せとけ」

 それからヴィルの幼いころからの話を一通り聞くはめになる。

 父親が濡れ衣で刑務所に入った事や刑務所の中で死んでしまった事、お母さんが他の男といなくなった事。でも騎士隊に入れたのはお父さんが助けた元騎士隊長の家族のおかげだったって事。

 そこまで言うとヴィルは話をやめた。

 「何か忘れてる気がするんだ。何か大切なことを…でも、やっぱり思い出せない。クッソ。何だかすっスッキリしないなぁ」

 「今日は疲れてるしヴィルあまり考えすぎない方がいいんじゃない。あっ、私、豆のスープ作るから」

 「ああ、頼んだ。俺はパンを焼くから‥あっ、でも王宮で食べたような白いパンは期待するなよ」

 「わかってるわよ。あれは特別よ」

 ふたりで夕食を作って食べた。豆のスープは案外美味しかった。パンは白いパンではなかったが焼きたてでものすごく美味しかった。

 ついでに明日の朝の分も残しておく。



 寝る場所は一階の寝室を使う事にした。何かあってもすぐに逃げれるようにって。

 隣の部屋突Ⅾき部屋だったのでヴィルは隣の部屋で寝る事になった。
 

 「そう言えば弓矢持ってこなかったな。明日にはベルジアンさんが来るといいが…もし来なかったら俺一度王宮に戻って来るから」

 「でも危険じゃない?」

 「聞いた話ではグレンとアリシアが疑われてるんだろう?俺は関係ないだろう。だったらこっそり」

 「そんなのできるわけ…」

 「アリシアこれでも俺潜入捜査だってして来たんだぞ。それくらい大丈夫だから…さあ、もう寝よう。おやすみアリシア」

 「ええ、でも気を付けて…お休みヴィル」

 アリシアはとても疲れていたせいかすぐに眠りに落ちた。

 



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