殿下、決して盛ってなんかいません!私は真面目にやってるんです。おまけに魅了魔法効かないじゃないですか!どうするんです?

はなまる

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8アリシア、母を思い出す

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 キラキラしたシャンデリアを見つめているうちにふっと幼いころの母との記憶が蘇った。

 『アリシア、あなたはどんな時も正しいことをしなさい。人から押し付けられるのではなく自分の意志で行うのです。そうすれば後悔しなくていいですからね』

 『お母様は?後悔してる?』

 『いいえ、この国に来てまず生き延びなくてはと思ったんです。でも、悪いことはしていませんよ」

 母はそう言って私の頭を撫ぜた。

 「あなたを授かった事後悔したことはありませんよ。だってアリシアには滅んでいったペルシス国の誇りが流れているんですから。例え何があってもとにかく生き延びる事を考えるのですよ。後悔しないためにはまず生きる事です』

 『うん、アリシアもそうする。後悔したくないもん』

 まだ幼かった私は母が何を言いたいかもわかっていなかった。でもこの年になると母の言いたかったことがよくわかる気がする。

 そんな母はある日、多分毒を盛られて死んでしまった。詳しい事は幼かったアリシアにはわからなかったが。

 母は私を残して逝く事をものすごく心残りだと言い残して逝ってしまった。

 幼かった私はただ母にすがって泣く事しか出来なかった。


 そしてすぐに神殿に連れて行かれて聖女としての力を見出されて…

 でも、私は母が言った”まず生き延びる事”と言う言葉を忘れたことはなかった。そして正しい事をしなさいと言う教えも。

 これまで自分なりに国や人々の為になると信じて聖女としての責務をはたして来たつもりだ。

 今回だって国の一大事だって言うから。

 だって私はみんなが困ることや悲しむことを黙って見ていることは出来ないから。

 それが母が言った正しい事だと思うし自分もそうありたいって思うから…

 そうだ。この仕事が終わったら王都に帰って騎士隊の門でも叩いてみようかとも思った。


 ***


 アリシアはそのまましばらくうとうとしてしまったらしい。

 扉をノックする音がしてはっと目が覚める。

 「はい、どうぞ」

 アリシアは急いでベッドから起き上がり髪を手で撫ぜつけた。

 「失礼します」

 入って来たのはメイド服を着た女の人だ。

 「お茶をお持ちしましたがよくお休みの用でしたのでサイドテーブルに置かせて頂きました。あのベルジアン様がお呼びなのですが」

 「ああ、そうだったわね。ありがとう。あなたお名前は?」

 「はい、ご滞在中お世話をさせていただきますミーシャと言います。よろしくお願いします」

 ミーシャはこくんと音がするかのように腰を深く折り曲げた。

 「そんな、私だってそんないい所のお嬢様なんかじゃないのでミーシャさんお互い気楽に行きましょう。あっ、お茶いただきますね。ありがとうございます」

 アリシアはミーシャが止める間もなくカップを手に取った。

 ちょうど喉が渇いていて冷めた紅茶はすごく美味しかった。

 「そんな。アリシア様はすごく立派な聖女様だと伺っておりますから…お茶だってお替りをお持ちしましたのに…それに髪が乱れています。お直ししてもよろしいでしょうか?」

 「えっ?ええ、その前に服を着てから」

 アリシアは断ろうかと思ったがやめた。

 だって今からマティアス殿下と会うことになるのだろうからと思う。

 聖女服は脱いで横になっていたのでしわになった薄手のワンピースの上にまた聖女服を着た。

 大司教から貰った首飾りを聖女服の上に引っ張り出して髪を整えてもらう。

 「さすが聖女様です。すごく素敵です」

 「そんな…いつもの事ですから」

 部屋には半身が映るほどの大鏡があってアリシアの姿を映しだした。

 もっ、ミーシャがあんなことを言うから…つい鏡を覗き込む。

 ううん、いつもの自分だ。あっ、でも…唇が熱を持っている気がしてさらに鏡を覗き込んだ。

 さっきグレンに口づけされた唇はいつになく赤く感じたから。

 違う!何も変わってなんかいないから。

 あんな失礼極まりないクソ。

 「さあ、急ぎましょうか」

 アリシアはミーシャに案内されてヴィルフリートと一緒にベルジアンの待つ部屋に向かった。

 「アリシア疲れてないか?」

 「大丈夫です。ヴィルフリートさんは?」

 ヴィルフリートはアリシアがそう呼ぶと顔をしかめた。

 「アリシアいくら何でも一応兄だから。その呼び方はまずい。せめてヴィルと呼んでくれないか」

 「ええ、そうかもしれないですね。ヴィルこれでいいですか?」

 「ああ、まあ。それより俺は殿下の治療の時どうしていればいい?そばにいて欲しいならそばにいるが」

 「いえ、気が散ると思うのでなるべく他の人はどなたも下がっていてもらいたいので」

 「ああ、わかった。じゃあ、隣の部屋にでも待機していよう。何かあったらすぐに呼んでくれ」

 「ええ、わかりました」

 「もっと気楽に行こうアリシア。なっ!」

 ヴィルに軽く肩を叩かれた。

 アリシアも自分でも気づかないうちに緊張していると思う。

 だってこの国の殿下を治療するなんて…それも治癒魔法使った事もないのに。

 アリシアは薄ら笑いを浮かべてヴィルを見た。


 ミーシャに案内されてベルジアンの元を訪れる。

 「遅くなりましたベルジアン様。それで殿下のご容態は?」

 「お待ちしておりました。殿下は隣の部屋に休んでいらっしゃいます。どうかご覧になって…」

 ベルジアンに促されてアリシアは隣の部屋に入った。


 「うっ、こ、これは…」

 アリシアの目に入ったのは白い包帯を身体中に巻かれた人間。

 それにこの匂いは?弟切草?

 脳内で弟を切るって…冗談にもほどがあるなどと不埒な考えが浮かんでアリシアは首を横に振った。

 まさか…グレン殿下が犯人とかじゃないわよね?


 「お待ちしておりました。マティアスを救ってくださいお願いします」

 ひとりの女性がアリシアに縋りつく。

 「こちらは王妃。殿下の母君です」

 「お母様、全力で殿下をお治しします。ですがまず傷を見せて頂かないと」

 アリシアはしっかりしなきゃと自分を奮い立たせる。





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