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しおりを挟むはつねは、陽介が出かけてからずっとふさぎ込んでいた。
考えれば考えるほど海斗さんの行動が分からなくなった。
盗聴器、昨日の事、彼がわたしを裸にしてたですって?陽介さん夢でも見たんじゃないんですかと言いたくなる。
やっぱりどう考えてもそんなバカなことある訳ないじゃない。
いくらわたしが酔っぱらっていたからって…そんなことされたら気づくに決まっている。
はつねは思い余って海斗に電話をした。
「海斗さん?」
「はつねちゃん?心配してたんだ。連絡しようと思ってた。どうしてる?」
「どうしてるだなんて…海斗さん。昨日どうしてあんな事したんですか?」
「何の事?」
「また…とぼけないで下さい。わたしすごく眠くなって…陽介さんが言ってました。わたしを裸にしたんでしょう?どうして?それに…」
「待ってくれ。俺はそんなことしてない。確かにはつねちゃん昨日飲み過ぎたんだと思う。エレベーターの中で急に気分が悪いって言いだして、それで俺少し休めばよくなるかもって思ってホテルの部屋を取ったんだ。はつねちゃんをベッドで休ませて、君はすぐに眠ってしまったから俺はシャワーを浴びに行った。驚いたよ。シャワーから出て来たらあの桐生が部屋にいた。はつねちゃんは俺の物だって言い始めて‥‥」
「何も覚えてないと思ってそんな作り話するつもり?」
「違うって、嘘なんかついてない。本当だ。あいつ君を連れて帰るって俺は殴られて気を失った。その間に勝手に君を連れて帰ったんだ」
「そんなの噓よ。じゃあどうしてすぐに警察に通報しなかったのよ」
「だって、はつねちゃんは桐生が好きなんだろう?俺との婚約やめるって言ったし…だから俺どうしようかと‥‥」
「じゃあ、陽介さんが嘘をついたって事?」
「ああ、そうだろうな。あいつ、はつねちゃんの事ずっと見張ってるんじゃないの?まるでストーカーみたいだ」
そんなわけないし‥‥陽介さんはわたしを心配してくれてるんです。
「そうだ。海斗さんがずっと前にくれたインコのマスコットキーホルダーがあったでしょ?」
「あの高校生の頃あげたやつ?」
「ええ、あのマスコットから盗聴器が出てきたのよ。これはどう説明するつもり?まさか海斗さんがそんなことするとは思ってもなかったわ。ひどいじゃない。わたしを盗聴して何するつもりだったの?」
「しまった。見つかったのか。最初ははつねちゃんが心配で学校の帰りとかで何かあったらと思ってつい盗聴器を仕掛けたんだ。でも、しばらくして大丈夫かと思ったらもう忘れてた。だから盗聴器って言っても俺全然何もしてないし…もちろん悪かったと思う。ただ心配だっただけだ」
「でも、いつも都合よくわたしのところに来てたじゃない。つい最近だって暴行されそうになった日も、昨日だってそうよ。そんなの嘘だってわかってるんだから!」
はつねの疑念は消えることがなかった。
「違うよ。本当に偶然なんだ。昨日もはつねちゃんのところに様子を見に行こうとマンションに行ったけどいなかったから帰ろうとしてたところでばったり会ったんだから。嘘じゃない。誓うよ。はつねちゃん信じてくれよ。俺いつだってはつねちゃんの味方になってきたつもりだよ。それなのにそんなに俺の事信じれない?悲しいよ。確かに結婚の話は無理に進めて悪かったけど、君が好きな気持ちに嘘はないよ。好きな人に嘘なんかつくはずないじゃないか…」
海斗の声は悲痛なほど辛そうで、それでもはつねに対して優しい。
やっぱり海斗さん嘘なんかついてないのかもと思い始める。
でもじゃあ陽介さんがどうして嘘をつくの?
「はつねちゃんは桐生が好きなんだろう?だから彼の事は何でもいいように思うんだよ。誰だって好きな人にはいい人でいて欲しいからね。でもあいつは嘘つきで腹黒い奴なんだ。純真で初心なはつねちゃんを利用しようとしてる。だってはつねちゃんの兄貴は桐生の上司だろう?君と結婚でもすればあいつに取ったらいい事ばかりじゃないか。あいつはノンキャリアだし、警視庁の捜査一課にまでは昇りつめたけどそれ以上は望めないだろう。でも流星が後ろ盾になれば一課長だって夢じゃなくなる。流星は後2年もすれば警視正になる。一課長が妹の夫なら適任じゃないか?」
海斗さんはわたしの心を見透かすように鋭い一撃を見舞ってくる。
そんな事考えたこともなかったのに。
はつねの心はふたりの間で迷いに迷う。
「あっ、それに桐生って女癖も悪いらしいよ。俺の知り合いが海南署にいるんだけど、大学時代ホストクラブで働いててすごい女遊びしてたらしいよ。年増の女とも付き合いがあって金のためなら何でもしたらしい」
「その知り合いって彼と同じ高校の?」
「何だ。はつねちゃん知ってるの?ふたりは付き合ってたんだよ。彼女は他にも女が何人もいてそれで別れたって言ってた」
「そうなの‥‥」
さっきまでの勢いは完全に消えうせていた。
「はつねちゃん今どこ?家にいる?ねぇ、大丈夫なの?俺、今から行こうか?」
「大丈夫だから。家にいるから心配しないで、それより海斗さんあなたとはもう会いたくないから、じゃあ‥」
「はつねちゃん待ってくれ、考え直してくれないか?」
「わたしどんなに言われたって結婚は無理だから、じゃ」
はつねは一方的に電話を切った。そして携帯電話の電源を落とした。
陽介さんが帰って来たらわたしは自分の部屋に帰ろう。
どうすればいいのかもうわからなかった。
今は一緒にいたくない。
誰にも会いたくない。
はつねは夕食の支度をするのも忘れていた。
そこにチャイムが鳴ってはつねは飛び上がった。
モニターで確認すると陽介さんだった。
まだどうしていいかもわからないまま彼が帰って来てしまった。
はつねは慌てて返事をした。
そしてやっと寝室を出てリビングから玄関に向かう。
「ピッピーピーピーはつね拉致るピー」
「あっ、そうだった。ピー助いたんだ。ごめんピー助。すっかり忘れてた」
はつねはピー助に謝る。
「ピーピーピー」
ピー助今なんて?拉致りたいじゃなくて拉致るって言った。
やっぱり陽介さん?
背中がぞわりとした。
玄関のドアがチャイムが鳴った。
「はい」はつねは迷いながら玄関に向かった。
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