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8そりゃ前世の記憶がありますので

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 オステリア工房の店に着くとカルダさんがみんなに声をかけた。

 「おかえりなさいカルダ様」

 店員らしい人が口々にそう言った。

 「ただいま。トラッドを呼んでちょうだい」

 「はい、すぐに」

 そのまま店の奥に一緒に入って行く。

 店の奥にはまた別の建物があってその中に入って行くとそこは作業場だった。

 数人の宝石彫刻師だろう人が指輪やネックレスなどを手掛けている。

 「カルダ様呼ばれたと聞きましたが」

 年の頃なら30代前半くらいのすらりとした美形の男性が現れた。

 「ああ、ちょっとさっき知り合って、宝石彫刻師の仕事がしたいって言うもんだから…トラッドお前この子の仕事を見てくれないか?女だからって手加減はいらないよ。仕事が出来ないならうちはいらないんだからね」

 「はあ、ほんとに出来るんですか?あんた悪いがこっちも忙しいんだ。カルダ様の言うように仕事なんだから手加減出来ないんだけど…いいのかい?」

 トラッドがリリーシェを見下ろす。

 ピクリと身体がはねる。

 (ど、どうしよう…でもここでやめたら後がない)

 「やります。お願いします」


 リリーシェはいわゆるこの時代の常識ではなく日本と言う世界での技術を学んだ人間だ。

 それでもこの時代にラウンドブリリアンカットやオパールカットなどの複雑極まりないカットは無理だと知っていた。

 せいぜいローズカット。(片面に8面の角度をつける)その面を増やしたカットくらいが最大だと言うことも。

 技術はもとより、あのような細かいカットは専用の研磨器具がなければ不可能なのだ。

 だから…その一つ上のオールドシングルカットという手法のカットをやってみた。

 ローズカットを上下にやってみましたというデザインだった。


 「あの、これなんかいかがかと…」

 カルダがそのダイアモンドを手に取った。

 「あ、あ、これはなに?こんなカット初めて見たわ。ちょっとトラッド。あなたこんなカット見た事ある?すごいわ」

 「えっ?うっ!何だこりゃ。すごい。こんなデザイン初めて見ました。これは売れますよ」

 「リリーシェあなた凄いじゃない。こんな技術どこで?」

 「独学です。宝石の加工は習いましたがデザインは…」(まあ、学校で…習ったんですけど)

 「とにかく採用よ」

 「ありがとうございます」

 ユーリ様もそのダイアモンドを覗き込んでため息をついた。そしてリリーシェと目が合う。

 どきっ!

 (ユーリ様。ダイアモンドよりあなたのその銀色の髪の方が数倍素敵ですよ…はっ、私ったら何考えてるんだろう。でも、ユーリ様の瞳はすごくきれいなんだもの。仕方ないじゃない。でも、きっと私の顔赤くなってるよね…)

 「ああ、すごくきれいだ。こんなダイアモンド初めて見た。リリーシェすごいじゃないか」

 「いえ、それほどでも…」

 (だってこれは小坂未来の時の記憶があるからで。リリーシェが考えたわけではないが恥ずかし過ぎる)


 リリーシェはオステリア工房に就職が決まり工房の2階に住みこむことも決まった。

 ユーリは良かったなと言って帰って行った。



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