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しおりを挟むわたしの心はぐちゃぐちゃで。
こんなに龍ちゃんの事好きだなんて。
あの時は、自分にすごく動揺していたから。
後悔してももう遅かった。
心の中は龍ちゃんの事でいっぱいで溢れそうになる。
龍ちゃんへの気持ちをどうすればいいかわからなくて。
龍ちゃんが尋ねて来た時は、もうどうしようかと思った。
逢いたいのに逢いたくない。こんなの矛盾してるってわかってる。
でも、運よく中本君が帰って来てくれてほんと助かった。
その後も、龍ちゃんからの電話も無視して、どんなにメールが見たいって思ってもぐっと我慢していたのに。
あぁぁぁぁぁ!
いきなりあんな龍ちゃんの顔を見たら何もかも忘れたみたいに。
もう、わたしったらペラペラしゃべってバカじゃない!
だった、だって龍ちゃんったら、白衣着てて、首に聴診器なんか掛けてたりして、もう、心臓が機関銃で撃たれたみたいに、ド、ド、ド、ド、ド、ドッって。
はぁ、強面のくせに無駄にイケメンな龍ちゃんに、それがすごく似合ってて立派なお医者さんに見えてくるんだもの。
もう弓弦を病院に連れて行った日に見てるはずなのに。
あの時は驚いてそれどころじゃなかったし。
おまけにこんな所であの江川に会うなんて。はぁ……
そりゃ、江川の言う事なんか信じれないって思ったよ。
でも、でも。こんな龍ちゃん見たら、そりゃ優子先生って人もいちころだろうなって思うよね。
わたしなんか出る幕ないよ。
今日はほんとに最悪な日だ。
脳内はばら色から一気にブルーに早変わり。
もう、リトマス試験紙じゃないんだから!
嫌なことは早く忘れてしまおう。
龍ちゃんの事も江川の事も。
なのに頭に浮かぶのは江川の言った優子先生って人の事ばかりで。
龍ちゃんにはそんな人がふさわしいってわかってるのに。
諦めなきゃいけないって思ってるのに。
もしかしたら龍ちゃんも江川みたいに二股かけてるかもしれないとさえ思えて来て。
もういやだ!
何も考えたくない。
「桐山さん?」
「あっ、中本君。気が付いた。良かったぁ。大腿骨骨折ですって、全治3か月。でもこれくらいですんで良かったよ。みんな心配してるよ」
中本君が目を覚ました。ほんとに心配したよ。
「大腿骨骨折ですか…‥でもどうして桐山さんがここに?えッ?泣いてたんですか?」
えっ?わっ!しまった。
「あっ、ちがっ!目にゴミが入って。泣くわけないじゃん。あのね、わたし、社長に頼まれて。ほら、入院となったらいろいろ必要なものあるじゃない。取りあえずパジャマとかタオルはレンタルがあってそれを借りるように手配しておいたから、下着とか歯ブラシやコップなんかは買って来たけど、他に何かいるものある?」
中本君はしばらくかんがえていた。
脚が痛いのだろう少し顔を歪めていて。
「ごめん。まだ痛むよね。看護師さん呼ぼうか?」
「いえ、大丈夫です。それじゃあ、携帯電話の充電器とか電気カミソリを持ってきてもらえると助かるんですが…」
申し訳なさそうに言う中本君の方が可哀想で。
「あの、携帯電話って大丈夫だったですかね?」
「あっ、待って」
わたしはサイドテーブルに会った携帯電話や貴重品を中本君に渡す。
中本君は携帯電話を起動させていろいろいじっていたが。
「大丈夫みたいです」
子供みたいに喜ぶ中本君は可愛かった。
「良かったね。着ていた服は手術の前に切り刻まれたみたい。じゃあ明日充電器とか持ってくる。そうだ。中本君の家の冷蔵庫とかは?中身処分しておいた方がいいよね。それとゴミ出しもしとくから」
「ああ、そうですよね。俺、入院なんかしたことないから、もし気が付いたことがあったらお願いしていいですか?」
「それから社長が手術が終わってすぐにお母さんには連絡したと思うから、電話出来そうならしてあげて。お母さん心配してると思うよ」
「はい、社長は?」
「手術が終わって一度会社に帰って来るって。ほら、事故の事で色々やらなきゃいけないことがあるみたいで、後で顔を出すって言ってたから夜にでも来るんじゃないかな」
「そうですか。迷惑かけてすみません」
「中本君が謝ることじゃないよ。中本君は被害者で、でもどうして荷物が倒れて来たんだろう?」
「ええ、それは俺もよくわからなくて、気づいたらもう崩れて来てて」
「ほんとに大変な目に遭ったね。しっかり休んで、骨折って時間がかかるらしいから無理しないでね」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、悪いけどわたしこれで帰るね。弓弦のお迎えに行かなくちゃいけないから。また明日必要なものを持ってくるから。何かいるものあったらメッセージ入れておいてくれる?」
「はい、わかりました。じゃあ、家の鍵を渡しときます。あの、桐山さん。出来れば雑誌とかクロスワードとかあったらうれしいんですけど」
「了解。じゃあ鉛筆もあっ、消しゴムも。じゃあ、また明日。看護師さんに気が付いたって声かけておくから」
「はい、ありがとう。桐山さんも気を付けて帰って下さい」
中本君は、難しそうにしながら律義に頭を下げて。
ほんとにいい人だなぁ中本君って。
何か照れてしまう。
中本君と話していると龍ちゃんの事を忘れることが出来た。
わたしは病院から会社に車で戻ってから保育園に迎えに行った。
社長も中本君の事で病院に行くのは仕事中でいいって言ってたから、昼休憩を少し余分にもらって会社の車を使って行こうと思っていた。
「弓弦ごめんね。さあ、帰ろうか」
わたしは弓弦を自転車に乗せるといつものように自宅に帰って来た。
階段を上がりながら弓弦と話をする。
「さあ、弓弦今日はママ忙しいんだ。だからご飯食べたらお風呂に入ってねんねしてよね」
「ゆじゅる。ねんね。ねんね」
「そうそう、でもその前にご飯食べるんだよ」
「まんま、まんま、ゆじゅる、でんすゅき」
「そっか、弓弦はおでんが好きなんだ。じゃあ、明日はおでんにしようね」
「やぁだ。でんがいい。ゆじゅる。でん、でんすゅきー」
「もう、弓弦ってばわがまま言わないでよ」
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