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26龍人視点

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  俺の心は凍り付いた。

 あきらって誰なんだ?

 もしかして糸の男か?おまけに俺が持って来た救急車なんか非じゃないほど大きな救急車持ってきてさ。

 どういう事なんだ?

 

 理性もなんも働かなくなっていた。

 「糸、どういう事なんだよ。俺が来れないってわかったら他の男部屋に入れてるのかよ!」

 「はっ?何言ってるのよ!」

 「昨日来たんだろう?あきらってやつが。弓弦にあんなお土産持って来てさぁ」

 「龍ちゃん?」

 えっ?ってその顔。何だよ。とぼける気か?

 「糸は俺の‥‥チッ!俺、真剣だって言ったよな」

 糸が掴んだ手首を振り払った。



 「はっ?真剣ってなんて言ってないから!龍ちゃんはちゃんと付き合いって言っただけで。じゃあ、龍ちゃんはわたしが他にもいろんな男と付き合ってるって思うわけ?だって龍ちゃんが最初に言ったんだよ。セフレでもいいからって、だから一回お試ししてみようって。わたしたちってそう言う関係じゃない」

 俺の顔は強張る。

 さっきまでの嬉しそうだったいとの顔が、みるみる蒼白になって行って。

 俺は図星なのかと。ずくずく心臓に針が突き刺さるみたいだった。



 「ああ、言った。でも謝ったじゃないか。それでちゃんと付き合いたいって言ったはずだ。ちゃんとって言うのは真剣とおなじだろ?」

 「はぁ?ちゃんとと真剣は違うに決まってるじゃない。何よ。自分は悪くないって?」

 糸が啞然とした顔をして、その瞳が潤んだ。

 瞳をうろうろさせて俺から視線を逸らす。

 何だよ!

 「俺は糸としか付き合う気はないんだぞ!」

 「じゃあ、わたしと本気で付き合うつもり?冗談よね?」

 「はっ?何言ってんだ。本気に決まってるだろう。だからこうして毎日会いに来てるんだろう」

 俺は糸を覗き込むように見つめる。

 糸は俺の目なんか見ていない。顔を反らせてて。

 何考えてんだよ!

 

 そしたらいきなり糸が手で口をふさいで

 「もう、ごめん。龍ちゃん本気って思ってなかった」って笑いながら言った。

 なんで笑うんだよ!

 俺の脳みそはぷっちん切れそうになる。こぶしをぎゅって握りしめた。

 「どういうことだよ。それ!」

 「だって、わたしだっていろいろ付き合いってのがあるのよ」

 

 どういう事だよ。それ!!

 途端に俺の体中からくにゅりと力が抜けていく。

 まるで空気が抜けてく風船みたいに。

 「じゃあ、糸は俺とも付き合うし他の男とも付き合うって事か?」

 「まあ、そういうことになるわね」

 「糸は俺の事は好きじゃないって事なのか?」

 「好きだけど、そんなの…恋愛感情じゃないよ。そりゃあ、幼なじみだし再会できてうれしいよ。もちろん」

 「で、でも一昨日はあんなに‥‥」

 糸の事となると、俺の脳はおかしくなってしまう。

 「そう、すごく燃え上がった。めちゃ良かったよ龍ちゃん。じゃあ、今夜もする?いいわよ。今夜は誰も来ないし。あっ、でも、明日は予定入ってるからわたし」



 いと。いと。俺のいとなのに。何やってんだ。クッソ!

 糸がそんな事。そんなことするはずない。

 でも、でも…‥

 糸を抱きしめてうでの中にぐっと閉じ込める。

 このままどこにも行かないようにずっと閉じ込めておけたらいいのに。

 「もう、やだ。龍ちゃん離してったら」

 「いやだ。糸、俺とだけ付き合ってくれ。俺本気なんだ。今までは今までだ。これからは俺としか寝ないでくれ。頼む」

 俺は、もう狂ったみたいに必死で、糸の髪や額にそこらじゅう口づける。

 ああ、もう俺は完全に糸に惚れてる。

 こんなに人を好きになれるものなのかってくらい俺は糸を愛してる。

 糸なしでは生きてはいけないんだ。



 「‥‥も、帰ってくんない?」

 耳を疑う。

 「どうして?」

 「あのねぇ龍ちゃん。でも、私たちが結婚すること1000パーセントあり得ないんだし。そんな真剣な関係じゃなくてもよくない?」

 糸は俺と目も合わせようとはしなくて、瞳はまるでどこを見てるのかわからない。

 こんなの俺の知ってる糸じゃない!

 「どうしてもだめなのか?俺とじゃ?」

 「‥‥」

 糸はうなずいた。

 でもその身体は震えていて、糸がとてもそんな事をするような女には見えないのに?

 「絶対?」

 「無理」

 俺の手も震えていた。

 その震える手で何度も何度もバカかって言うかくらいに糸を強く抱きしめる。

 「りゅうちゃん、痛いってば」

 このままだと何かしでかそうな自分が恐い。

 糸は変わってしまった。きっとそうなんだ。

 「わかったよ。悪かったな。俺、もう帰るわ」

 

 「そうだね。そうした方がいいよ。龍ちゃん逢えてよかったよ。元気で頑張って」

 はっ?どういうことだよ?

 「糸、なんだよそれ?そんな事言うな。まるでもう会えないみたいじゃないか」

 「だって、私たちそんなの無理だもの。だったらもう会わない方がいいよ」

 「糸はそう思うのか?」

 糸はうなずいた。

 俺は糸を抱いていた腕から力が抜けて、だらりと腕が落ちた。

 だったら俺はどうすればいいんだ?

 こんなの、こんなの絶対に認めたくないのに。

 



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