58 / 67
57
しおりを挟むジルファンは、約束通りマーサを迎えに行った。
昨晩越えた柵のところに行くとマーサがもう来ていた。
「おい、迎えに来た」
「ジルファン様すみません。実は…あのこちらはお嬢様のお兄様のレイモンド様で信用できる方なんです」
言いにくそうにマーサはひとりで待っていなかったことを謝る。
レイモンドが前に進み出て挨拶をする。
「レイモンド・クーベリーシェと言います。ルヴィアナの事聞きました。それでルヴィアナの具合は?」
柵ごしにジルファンが厄介な顔をする。
「はぁ…良くない。俺の力でもどうすることも出来ない。今救う方法を探っているところだ。おい、こんな所に長くいるわけにもいかない。いつ見つかるかわからない。どうする?行くのか。行かないのか?」
ジルファンはマーサを急した。
「ジルファン殿、あなたはどこにおられるのです。私はルヴィアナを助けてくれる人はすべて味方だと思っています。だから私にも居場所を教えて欲しいのです。そうすれば何かあった時連絡のしようもあると思うのだが」
ジルファンはじろりとレイモンドを睨みつける。
レイモンドも負けずとジルファンを睨みつける。
互いの間に火花が散るかのような緊張が走る。
「あの、お二人は仲間ですよ。ルヴィアナお嬢様を助けたいと思う気持ちは同じはずです」
マーサがふたりの間に割って入る。
やれやれと言わんばかりにジルファンは困惑して顔をしかめたが、そうもいかないと思ったのだろう。話を始めた。
「ああ、そうだな。ルヴィアナは修道院にいる。毒で意識を失っているわけではなさそうだ。どうやら何かの呪術じゃないかと思ってる。何か心当たりがあれば教えてくれ」
ジルファンはそう言いながら策をパッと乗り越えてマーサの前に来た。
レイモンドはそんな事も気づかないくらい考え込んでいたが。
「呪術か…そんなものが使えるとしたら魔族くらいしか思い浮かばないが」
「魔族か…そうかもしれんな」
「魔族にはその呪いが解けるのか?」
「ああ、魔族の中には色々な能力を持った奴がいると聞いた事がある」
それは幼いころジルファンが聞いた微かな記憶だった。
魔族の呪いか。厄介だなとジルファンは思った。
自分も魔族だが森を出てもう100年近くなるのだから。
「そうとなれば俺も一緒に行く。大切な妹をたったひとりでそんなところに行かせるなど出来ない!」
「レイモンドちょっと待ってくれ。そうは言うがあんた魔源の力あるのか?」
「あるに決まっている。俺の瞳を見ろ!」
心外だとばかりにレイモンドは憤る。
おっと、レイモンドの瞳はルヴィアナと同じアメジスト色じゃないか。とジルファンがにやつく。
「らしいな。だが今知りたいのは王妃とやらがルヴィアナに何の呪いをかけたのかを調べてくれる方が手間が省ける」
「それはそうだ。何とかやってみる」
「ああ、なるべく早く頼む。さあ、ゆっくりもしていられない。そろそろ見回りも来るだろうから、マーサと先に行く」
「分かった。ルヴィアナをマーサ頼んだぞ」
「はい、レイモンド様ご安心ください。私がお嬢様のそばをひと時だって離れませんから」
マーサは胸を叩いて言う。
「ああ、私も後で修道院に向かう。母も心配しているから一緒に連れて行く」
ジルファンは大きく首を振った。ったくよぉ。
「おいおい、そんな事をしたらルヴィアナの居場所がばれてしまうだろう。ここは内密に事を運ばないとあの王妃がまた何をしでかすかわからん。そうだ忘れてた。レイモンド、王妃はカルバロス国にこの国を攻め込ませるつもりらしいぞ。いつどのように攻め込むつもりかは知らないが気をつけた方がいいぞ」
「王妃がそんな策略を?大変だ。すぐに宰相様にお知らせしないと」
「だろ?まずあんたにしか出来ないことを頑張ってくれ。俺達もルヴィアナを助けるために最大限力を尽くすと約束する」
「ああ、頼む。何かあったらすぐに知らせて欲しい」
「もちろんですレイモンド様」
そう言ったのはマーサだった。
ジルファンは厄介なことになったとばかりため息をつくとマーサを抱き上げて策を飛び越えた。
レイモンドに見送られながらふたりは森の中に駆けこんで行った。
**********
レイモンドはその足でその日の午前中に宰相リカルドを訪ねた。
「これはクーベリーシェ公爵」
「宰相様、私はまだ公爵と決まったわけでは…」
レイモンドは気易く公爵と言われて気が重くなった。
「何、もう決まったようなもの。シャドドゥール公爵家はおとり潰しになったのだ。後は議会の承認だけです」
「そんな事を言っている場合では…宰相様、お話があります。取りあえず人払いをお願いします」
レイモンドは内密に事を進めなければと。
ふたりきりになると早速話を始めた。
「よく聞いてください。ルヴィアナは王妃に毒を盛られたのです。その時ルヴィアナは王妃の考えに気づいて…王妃はこのレントワール国を攻め込ませるつもりなのです。性急に国境警備兵に連絡を取って事の真相を突き止めなければなりません」
「また、どこからそのような話を聞きつけたのだ?まさか王妃が?ディミトリーが国王になられたばかりでそんな事をするはずがないだろう。はっはっは」
リカルドは笑い飛ばした。
「ですが、ルヴィアナはその事を知ってあのような目に遭ったのです。どうか私の言うことを信じて下さい。いえ、ならば辺境伯にでも問い合わせて頂きたい。何か問題がないか」
そこにいきなり扉を叩く音がする。
「何だ?今大事な話をしておる」
「ですが、ダンテス辺境伯から急ぎの知らせです」
「何?」
リカルドの顔が強張る。たった今、国境の様子を調べるよう話をしたばかりなのだ。
リカルドはその手紙を受け取るとすぐに開封した。
【リカルド宰相様
ここ数日カルバロスの軍が演習と称して何度も国境を越えて、その度に演習で少し無理があってと言い訳をすることが度々あります。
今までそのような演習など一度もなかったで何かあるのではと危惧しているところです。
早急にこちらに騎士隊一個部隊を派遣して頂きたい。ゼルク・ダンテス辺境伯より】と書いてあった。
「これは…レイモンドの言っている事本当かもしれん。急ぎ騎士隊一個部隊を辺境伯の所に送ることにする。シャドドゥールは…いないか。次の騎士隊長は?」
「次の騎士隊長にはダミアンを指名していただけませんか?彼はランフォードの次に優秀な騎士です。彼が隊長になればきっと隊のまとまりも早いはずです」
ダミアンはあの後休職中だった。
「そうだな。ダミアンはランフォードが隊長と言う立場にあったから仕方ないと言えばそうだが、牢から逃がした事は見逃せん」
リカルドは顎に手を当てて考え込む。
「ですが隊員は隊長の言う事ならば命令に従うものです…それに騎士隊員もダミアンを慕っておりますし、彼が隊長になればきっと素晴らしい活躍をすることは間違いないはずです」
「まあ、クーベリーシェ公爵がそこまで押すなら、まあ今回の結果を見てまた考えるとしようか」
「はい、ありがとうございます。では、早速ダミアンを騎士隊長に任命して辺境伯の所に派遣するように手配します」
レイモンドはすぐに騎士隊に指示を出す。
ずっとディミトリーの執務を手伝っていたおかげで、レイモンドは騎士隊の総監督官も兼任することになっていた。
「それから、王妃が怪しいのは確かです。宰相もくれぐれもお気を付けください」
レイモンドは部屋を出る前に宰相にそうくぎをさしておいた。
そしてレイモンドは急いで騎士隊に命令を下す。
今、すべての権限を持っているのは宰相であるリカルドだった。
何しろディミトリーの能力は底が浅かったのだ。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない
高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。
王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。
最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。
あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……!
積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ!
※王太子の愛が重いです。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る
束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました
ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。
幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。
シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。
そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。
ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。
そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。
邪魔なのなら、いなくなろうと思った。
そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。
そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。
無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。
お金目的で王子様に近づいたら、いつの間にか外堀埋められて逃げられなくなっていた……
木野ダック
恋愛
いよいよ食卓が茹でジャガイモ一色で飾られることになった日の朝。貧乏伯爵令嬢ミラ・オーフェルは、決意する。
恋人を作ろう!と。
そして、お金を恵んでもらおう!と。
ターゲットは、おあつらえむきに中庭で読書を楽しむ王子様。
捨て身になった私は、無謀にも無縁の王子様に告白する。勿論、ダメ元。無理だろうなぁって思ったその返事は、まさかの快諾で……?
聞けば、王子にも事情があるみたい!
それならWINWINな関係で丁度良いよね……って思ってたはずなのに!
まさかの狙いは私だった⁉︎
ちょっと浅薄な貧乏令嬢と、狂愛一途な完璧王子の追いかけっこ恋愛譚。
※王子がストーカー気質なので、苦手な方はご注意いただければ幸いです。
異世界転移したら、推しのガチムチ騎士団長様の性癖が止まりません
冬見 六花
恋愛
旧題:ロングヘア=美人の世界にショートカットの私が転移したら推しのガチムチ騎士団長様の性癖が開花した件
異世界転移したアユミが行き着いた世界は、ロングヘアが美人とされている世界だった。
ショートカットのために醜女&珍獣扱いされたアユミを助けてくれたのはガチムチの騎士団長のウィルフレッド。
「…え、ちょっと待って。騎士団長めちゃくちゃドタイプなんですけど!」
でもこの世界ではとんでもないほどのブスの私を好きになってくれるわけない…。
それならイケメン騎士団長様の推し活に専念しますか!
―――――【筋肉フェチの推し活充女アユミ × アユミが現れて突如として自分の性癖が目覚めてしまったガチムチ騎士団長様】
そんな2人の山なし谷なしイチャイチャエッチラブコメ。
●ムーンライトノベルズで掲載していたものをより糖度高めに改稿してます。
●11/6本編完結しました。番外編はゆっくり投稿します。
●11/12番外編もすべて完結しました!
●ノーチェブックス様より書籍化します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる