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しおりを挟むルヴィアナはすぐに王妃の所で医者の診察を受けたが全く原因がわからなかった。
そして離宮に戻されて今は自室の部屋で眠ったままだ。
知らせを聞いてミシェルが駆け付ける。
「マーサあなたがついていながらどういうことです?」
「お嬢様は王妃様に呼び出されて…そしたらいきなり倒れたと知らせが来て近衛兵が眠ったままのお嬢様をここに運び込んできたのです。私にもさっぱりわかりません。王妃様のところに行かれる時はいつも通りで全く問題はありませんでしたのに…」
「ではマーサは、王妃に何かされたというのね?」
「いえ、そんな事は申し上げられません。ただ王妃様の所に伺ったのは事実ですが…それにお嬢様はあんなに好きだった殿下との結婚があまりうれしくないご様子でして、どうにか殿下に近づかれないようにとお心を痛めておいででした」
「まあ、殿下にはひどい仕打ちをされましたもの。それで修道院などに行ってしまったのでしたよね…」
ミシェルはベッドに横たわるルヴィアナの手を取ってそっと撫ぜる。
思えばルヴィアナにはもっと別の生き方もあったかも知れなかったですね。私がもっと早く王の子だと話していれば、あなたは今頃王女としてディミトリーなんかとの結婚に悩む必要もなかったはずですね。
シャドドゥール公爵と結婚していたらこんなことにならなかったのかも…
そこにレイモンドが駆け付けた。
「母上ルヴィアナの容態は?」
「変わりません。ただ眠っているように見えますが…いつ目覚めるのかもわからないとの事らしいです」
「どうしてこのような事に?」
「それは私が聞きたいですわ。どうしてルヴィアナがこのような目に合うのか…私……今まで黙っていましたが、もう隠してはおけません。ルヴィアナはニコライの娘なんです。レイモンド、貴方を騙すつもりはなかったのです。お父様があんなことになって私は辛くてニコライについ甘えてしまったのです。そして…もとは結婚をしようと思っていた人でしたから…でも、そんなことは許されない事です。だからとうしても本当の事が言えなかったのです。ルヴィアナはお父様が事故に遭う前に出来た事にして生みました。彼はルヴィアナをそれはもう目に入れても痛くないほど可愛がりましたから…それからはもう言い出せなくなってしまいました」
ミシェルは泣きながらレイモンドに本当の事を話した。
「ではルヴィアナが言っていたことは本当の?」
「えっ?ルヴィアナが知っていたのですか?」
「はい、ルヴィアナは触れた人の考えていることが分かるようになったと言っていました。それで国王の娘だということも知ったのだと思います」
「では、あの時…先日お茶をこぼした時に、私はそのようなことを思っていたものですから」
「もしかしたらルヴィアナはこの話を王妃にしたのではないでしょうか?ルヴィアナは結婚したくないとずっと言ってましたし…王妃はルヴィアナとディミトリーが兄妹になると知って、王妃は母上に嫉妬でもしてしたのではありませんか?そして怒りに駆られて咄嗟にルヴィアナに毒を盛ったのかも…でも毒が少なかったか、ルヴィアナが吐き出したかで死なずに済んだのでは…」
「ですが、あくまで推測にすぎません。それにもしルヴィアナが殿下と兄妹だとしても王妃は困ることはないはず、ディミトリー殿下が別の結婚相手を見つければいいだけの話で、ルヴィアナは王女としてまたどちらかの国の妃になるだけの事でしょう?」
「だとしたらなぜ王妃がルヴィアナを殺そうとしたのかわかりません。これは全くの推測の話ですし安易に王妃が何かしたとは言えませんから」
ミシェルは思い余って兄である宰相のリカルドにもルヴィアナの出征の秘密を話した。
だが、ルヴィアナの意識が戻るわけでもなくただ時間だけが過ぎて行った。
そして予定通りディミトリーの戴冠式が執り行われ。ディミトリーはレントオール国の国王に即位した。
だが、結婚はミシェルの話もありルヴィアナとの結婚は取りやめることになった。
特例として、国王の遺言状を果たせないだけの理由がある場合は、特に問題はないと議会の採決も出た。
そうやって結婚はルヴィアナの思い通りになったがルヴィアナの意識は戻ることはなかった。
マーサはルヴィアナが大切にしていたからとマラカイトのお守りをそばに置いてくれていた。
ルヴィアナはジルファンから貰ったあのお守りをずっと肌身離さず身につけていた。どこに行く時も必ずだった。
マラカイトはずっと彼女を見守っていた。
**********
そんな頃、ランフォードはジルファンに助けられて修道院の医療施設で治療を受けていた。
けがの程度はさほどではなかったが、魔獣化したことで彼の心身は生きる気力を失うほど弱っていた。
眠っていながらもルヴィアナの名前をうわ言で呼び、魔獣になった自分の事を蔑むように暴れた。
だが、ランフォードは助けてくれてずっと親身になってくれるジルファンに心を開き始めていた。
「どうして俺なんかを助けたんです?物好きなんですか?」
「どうしてと言われても森でお前を見つけたら仕方ないだろう。ここは神様のいらっしゃるところ、そんなところで働いている俺が知らんふりするわけにもいかない。だからだ」
「ジルファンはやっぱり物好きですね。俺なんか死んでも良かったのに…」
「いいから魔獣化したことはもう考えるな。俺がその力を制御できる方法を教えてやるから心配するな。それよりルヴィアナってのはお前の好きな人なのか?」
「どうしてルヴィアナの事を知っているんです?」
「そりゃ、あんなにうわ言でルヴィアナって名前を呼んでちゃ気になるだろう?」
「そうか…でも、もういいんです。彼女は王となる男と結婚するんです」
「ディミトリーか?」
「良く知ってますね」
「そりゃこんな所にいても王の名前くらいはな…」
「ええ、もうすぐ戴冠式も終わる。そしたらルヴィアナはあいつの者になるんです。でもいいんです。ルヴィアナはその方が幸せになる。俺は諦めるしかないんです」
ランフォードは思いっきりため息をついた。
実はジルファンには、ルヴィアナの事が手に取るようにわかるのだった。
それは彼女に渡したマラカイトのせいだった。
ジルファンもそんな事になるとは知らなかった。
だが、彼女と別れてしばらくすると脳内に自然とルヴィアナの事が伝わってくるようになった。
時には誰かともめていたり、時には一人で考え事をしていたりとずっとではないがふとした瞬間に彼女の様子が分かるのだった。
それによるとランフォードを結婚したいと願っていたが、彼を助けるためにディミトリーとの結婚を受け入れるしかないと決めたらしい。
だが、その後でルヴィアナは国王の娘であると知り、それを宰相に相談しようとしたがうまくいかなかった。
そして王妃に呼ばれてルヴィアナが意識を失ったところまではっきりわかっていた。
王妃が彼女に何かしでかしたのではと考えていた。
そうとなったらあまり時間がないかも知れないとジルファンは思い初めていた。
ルヴィアナを助け出してランフォードを結婚させてやることが今の彼の望みのようになっていた。
幸いランフォードもかなり元気になり、日々の生活に支障を肩さない程度にまで回復している。
これでルヴィアナが来てくれればきっとランフォードは元の元気を取り戻すに違いない。
「なあ…もし、ルヴィアナが幸せではないとわかったらどうする?」
「どういうことです?」
「実はある時期ルヴィアナはここにいたんだ。あんたがルベンに行っていた頃、ディミトリーにひどく傷つけられて彼女はいたたまれなくなったみたいだった」
「では、ジルファンはルヴィアナを知ってるんですか?」
「ああ、彼女はいい人だ。俺は本当に優しくて神様みたいな人だって思った。だから彼女にマラカイトのお守りをやったくらいだ」
「ええ、そうなんです。彼女は本当に優しくて、でも気が強くてこうと思ったら突っ走るところなんかもう目が離せなくて…」
ランフォードの話す姿が本当に嬉しそうでジルファンは胸が熱くなる。
「だってな、ルヴィアナが修道院から戻ることにしたのだってランフォード。お前との結婚が決まったからだ」
「俺との結婚…ルヴィアナはすぐに結婚を受け入れてくれた。あの時ほどうれしかった事はなかった…」
ランフォードはまた微笑んだ。そしてすぐに暗い顔になる。
「それでだ。実はルヴィアナは国王の娘らしいんだ。それであいつとの結婚はなくなったと聞いた。だから俺が迎えに行ってこようかと思ってるんだ。お前は王宮から逃げ出してきたんだろう?だから王宮に彼女を迎えに行くことは出来ない。俺がここに連れて来ればこれからは好きな場所で生きて行けばいい。何をしたって生きては行ける。街で働きながらでもいい。鉱山でもいい。お前にその気があればだが…?」
ジルファンはランフォードの顔色をうかがう。暗く沈んだ顔が見る見るうちに輝きを取り戻していくようだった。
あいつらは俺の愛しい息子を徹底的に痛めつけた。爵位なんかなくなっていやその方が気楽でいい。自由で楽な生き方の方が幸せだ。
ジルファンもずっと籠の鳥で生かされて来たから分かるのだ。
「ええ、そうかもしれません。ずっと公爵家の跡取りとしての責任を果たさなければと思って来ました。ですが‥いえ、ルヴィアナは国王の娘なんでしょう?でしたらそんな訳には…」
「でも、ルヴィアナがあんな生活は嫌だって言ったらどうする?」
「まあ、そうですが…彼女がここに来るなんてことあり得ません!」
「ああ、そうかもしれんな。いや、悪い。余計なことを言った。さあ、もう休んだ方がいい」
「ええ、そうですね。あんまり突拍子もないことを言わないで下さいよ。驚いて疲れました。少し休みます」
ランフォードはがっくりしたようにベッドにもぐり込んだ。
「ああ、俺は薪を取りに行く仕事があるから、じゃおやすみ」
ジルファンはそう言ってランフォードの体にそっと上掛をかけてやった。
ジルファンはひとりで王宮に忍び込みルヴィアナをさらって来るつもりだ。
王宮の中は知りつくしている。
何しろ俺は何十年もあそこにいたんだから…
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