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 ルヴィアナは翌日も王宮に出向くことにした。

 昨夜はあんな事を言った事を後悔していた。

 ルヴィアナの身になってみれば、とっても可哀想ことをしたみたいで杏奈は気が気ではなかった。

 やはりルヴィアナのためにもお母様のためにもディミトリーとの結婚をうまくやって行くしかないと思い直した。

 ディミトリーとだって真摯に向き合えばきっと結婚生活もうまく行くのではないだろうかと…



 もともと杏奈は姉御肌で、人が困っていると嫌とは言えない性格だったので、もうこうなったらやってやろうじゃないのと…

 乗り掛かった舟だもの。ルヴィアナの為に一肌脱ぐしかないと心はすんなり決まった。

  

 午前中は毎朝会議があると聞いていたので、少し遅めに屋敷を出て来た。そして今日は昼食用にディミトリーが好きならしいローストビーフのサンドイッチも作って来た。



 「失礼します」

 ディミトリーの執務室を訪れた。

 「はい、どうぞ」

 執務室に入る。あれ?ディミトリー殿下は?

 「これはクーベリーシェ嬢、今日もお手伝いに来て下さったのですか?」

 秘書官のローラン様が驚いたように声を掛けて下さった。

 彼の顔は信じられないと言いたげで…

 なるほど…いつものルヴィアナだったら、きっと今日は仕事をさぼっていたかもしれないと渋い笑顔をローラン様に向ける。

 でも、ローラン様はあの時…ああ、そう言えばいらっしゃいましたね、確かに部屋の片隅に…

 あの醜態を見られていたと思うと背筋に冷や汗が…あたふたと話を始める。

 「はい、実は昨日の事をお詫びしようと思いまして…それで殿下はどちらに…それにシャドドゥール公爵様がこちらにいらっしゃるのはどうして…まさか殿下はもうここにはお見えにならないとか…」

 まるっきり心の声がだだ洩れの発言です。



 「これはクーベリーシェ嬢、おはようございます。実は殿下の事で国王からお話があると伺っている。一緒に国王のところに行こうと思って立ち寄ったところです」

 えっ?今、国王がお話があるって言った?どうしよう。きっとあんな事を言ったから婚約は解消しようって?

 あっ、ルヴィアナもしそうだったら…せっかく気持ちを新たにディミトリーとうまくやろうと思っていた矢先にこんなのって…

 不安が沸き上がり知らない間にため息をついていた。



 ランフォード様がすぐそばに来られて私の手を取った。

 「心配ない。さあ行きましょう」

 ランフォード様が手を握って進み始めるとルヴィアナはもう前に進むしかなくなったのに…

 何だろう?この感じは…

 彼がそばにいると思うとそれだけでほっとしてしまうのは。

 そんなことは許されない事よルヴィアナ。



 国王の執務室を訪れた。

 「おはようございます国王陛下」

 「おはようルヴィアナ嬢。さあ、遠慮はいらない座ってくれ、ランフォード君も座り給え」

 ふたりは揃ってふかふかのソファーに座る。お茶はダリオと言われる執務官が煎れて下さった。

 いい香りのお茶が鼻腔を突くが、国王の話が何かわからずお茶など飲む気になれるはずがなかった。



 「実はルヴィアナ嬢、ディミトリーは今朝早くに王妃のクレアについてカルバロス国に旅立った。カルバロス国王が具合が悪いと聞いていたがはやり病で会いに行けなくてやっと元気になったので今日出発する予定だったんだ。それでディミトリーも一緒に行けば国王が喜ばれるだろうと思ってね」

 「まあ、そうだったんですか、わたくしちっとも知らなくてすみません。それでお加減はよろしいんですか」

 「ああ、かなり回復していると聞いている。娘や孫の顔を見れば病も吹き飛ぶであろう」

 「それは良かったですわ。あの陛下…わたくしディミトリー殿下に昨日はつい言ってはいけないことを言ってしまったんですの。それで謝ろうと思っていたのですが…殿下は何かおっしゃっていましたでしょうか?」

 もしかして私、国王を前にとんでもないことを話しているかしら?言ってしまった後でそんな事を思い焦る。

 

 「ああ、そのことか…いいんだ。ディミトリーにも悪いところがあったと聞いている。お互い様ということであの件はもうなかった事にして欲しい。どうだろうルヴィアナ嬢今まで通りディミトリーとの結婚を考えてもらえるだろうか?」

 「はい、わたくしは喜んで。でも、ディミトリー殿下のお気持ちはそれでよろしいのでしょうか?わたくしはディミトリー殿下をお慕いしていますし、でもつい行き過ぎるところがいけないと反省もしています。これからはもっともっと殿下にふさわしい女性になれるよう努力する所存でございますが…」

 ああ、また余計なことを…

 だが、国王はすこぶる機嫌よく。

 「ああ、もちろんだとも、ディミトリーにもきちんと考えるよう伝えてある。だがルヴィアナ嬢の方が上手かも知れんな。もう答えが出ているとは…いや参った。さあ、もう何も気に病むことはない。しっかり自分の仕事をしなさい」

 「はい陛下、ありがとうございます」

 良かった。これで一安心だわ。

 ルヴィアナはほっとして出されたお茶を飲み始める。



 「ランフォードそう言うことだ。大変だろうがしばらくディミトリーの仕事を面倒見てくれないか?ルヴィアナも大変だろうし、あいつも考えを改めて帰って来るだろうから」

 「はい、陛下それはもちろん。ですが私には大切な仕事がありまして…」

 ランフォード様が言いにくそうにされて、ルヴィアナも申し訳なる。

 「ええ、無理もありません。ランフォード様はご自分の仕事をして下さい。その分はわたくしが頑張りますので…国王何も心配はありませんわ」

 ルヴィアナはにこやかにほほ笑んで国王とランフォードを交互に見つめた。

 

 「いや、ルヴィアナ嬢ばかりには押し付けられまい。ランフォード。仕事とはなんだ?新しい剣の事か?」

 「はい、色々試行錯誤の途中でして未だ思うような形にはたどり着けていません」

 「ああ、新しいものを作るには時間も忍耐も必要だろう。だが、少し息抜きも必要だ。なあにルヴィアナ嬢もいるんだ。すべての時間を費やせとは言わない。出来る限りでいい。手伝ってやって欲しい」

 「そう言う事ならお引き受けいたします。引き受ける以上私が責任をもってやりますのでご安心ください」

 「ああ、頼んだ」

 国王はほっとしてルヴィアナにほほ笑んだ。



 「ではルヴィアナ嬢私も忙しいのでこれで失礼するよ。また近いうちに食事でも出来るといいのだが」

 「はい、陛下。では失礼します」

 ランフォードとルヴィアナは国王の執務室を後にする。



 ***************



 「これからはルヴィアナ嬢とお呼びしても?」ランフォード様はあくまでも紳士的に話しかけてくる。

 「はい、シャドドゥール公爵」

 もう、いつ見ても好みのタイプなんだけど…いけない。こんな気持ちになっては…私にはディミトリー殿下という方がいるんだから。



 「僕もランフォードと呼んでくれないか。お互い言いにくい名前で舌を噛みそうだからな」

 「ではランフォード様」

 そんな事言われたら勘違いしてしまいそうで…いいえ、彼はそんな事は思ってもいませんから。



 「今日はどのような予定で?」

 「はい、確か今日は…そうでした。アバルキアの特使がお見えになるのでその下準備をしようと、街に行ってお茶菓子やお部屋に飾る品物を見て来ようかと思っています」

 「それはひとりで大丈夫なのか?僕もちょうど買いたしたい品物もあるから、どうでしょうご一緒に?」

 いえ、困ります。私は殿下の婚約者ですよ。一緒に出掛けるというのはどうかと…



 「いいのですか?ローラン様お一人ではお忙しいのでは?」

 「まあそうだが…未来の王妃を一人で外出させるというのも、あくまで護衛を兼ねてだ。仕事は午後から集中して片付けるから心配ない。それに聞いたところによると元々ディミトリーもそんなに顔を出していなかったんだろう?」

 「ええ、まあ彼はお忙しい方なので…」

 「それなのに君は殿下のお手伝いをしていたのか?」

 「はい、彼に迷惑をかけたお詫びにそう約束をしましたので」

 「でも、彼もはっきりしないからいけないんだろう?どんなご令嬢にもちやほやされていい顔をしてるって聞いているが…」

 「それはそうですけど、殿下はお優しいから…」

 ランフォード様は呆れたような顔をされた。



 もう‥ランフォード様それ以上はやめていただけませんか。

 ルヴィアナだったら嫉妬の炎が燃え上がるのは当然だなんて言われると嬉しかったでしょうが、今の私は全然彼に嫉妬心なんか起きないんです。

 だって本当のルヴィアナではないんですから、でもルヴィアナになった以上はそれなりの責任を取る覚悟をしたのですから。



 ディミトリー殿下は、少し頼りない感じでちっともときめかないし、それより野性味あふれたランフォード様といる方がときめいてしまいそうでやばいんです。

 こんな気持ちを抱いてはいけない。しっかりしなさい。私は自分をたしなめた。



 
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