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しおりを挟むそしてルヴィアナは食堂に足を運んだ。
南側にある食堂は大きなガラス窓で解放感があった。
この城で働く人たちがここで食事をするらしく、もう食堂はたくさんの人でにぎわっていた。
ランチは並んでいる食材をトレイに自ら取って行くビュッフェ形式で誰でも気軽に好きなものを好きなだけ頂けるらしい。
ルヴィアナは早速その列の最後尾に並んだ。
何だか周りの視線が痛いと感じるのは気のせいだろうか?
みんな視線がルヴィアナに向けられていて…この感じ。
杏奈の時もそうだった。あの子が来たぞ。みんなそばに寄るなよ。近づいたら何言われるかわからないからな。殴られるかもしれないぞ。
そんなみんなのひそひそ話が嫌でも聞こえて来て杏奈はいつもそんなの聞こえていないふりで知らん顔を装ってその場をやり過ごしてきた。
そんな感覚がルヴィアナに向けられている。
ルヴィアナって相当みんなから嫌われてるって事?
知らん顔でチキンソテーとソーセージ、サラダとスープ、パンをトレイに乗せる。
そして空いている席はないかと目を上げた。
あれは…ディミトリー殿下ではないかしら?
あっ、私って知り合いの顔はわかるらしい。
良かった。最初はお母様さえわからなかったがあれは脳が混乱を極めていたしね。
窓際にひときわ際立ったオーラが見える。
ディミトリーの瞳はこの世のものとは思えないほど美しい藍色アクアマリンのような色で髪は黄金のように輝く金色だった。
顔立ちは凛としていて品があってどの部分をとっても美の標本にでもなるような顔立ちだ。
うひょーこれが私の婚約者…すごい!
しばらくディミトリーに見とれるが杏奈としての自分がロッキーの事を思い出した。
ロッキーもこんな外国人の顔立ちですごくイケメンで優しくて頼りがいがあって…
いけない。こんな事思い出すつもりはなかったのに…
トレイを持つ手が震えた。
ロッキーは死んだんだもの。私も死んでこの世界に転生して来た。
もう後ろは振りかえらないようにしなくちゃ…
さあ、私の婚約者のディミトリー殿下は…
だがすぐに彼の周りにはチャラチャラしたドレス姿の令嬢たちが囲んでいるのに気づいた。
その途端、脚が勝手に進み始める。
そしてディミトリー殿下の前で立ち止まった。
「まあ…ディミトリー殿下、こんな所でお目にかかるなんて光栄ですわ」
まるでセリフのような言葉が飛び出す。
「うっ!ルヴィアナどうして君がこんな所に?こんな所は嫌いだって言ってなかったか?」
周りのご令嬢の顔が見てはいけないものでも見たかのような顔に変貌を遂げる。
「殿下失礼します」ご令嬢たちは顔を引きつらせながら笑みを浮かべ次々と立ち去って行く。
「いえ、ご遠慮なさらず、ご一緒にいかがですか」
まあ、あなたたちのお邪魔をするつもりはなかったのに…
「とんでもありませんわ。ルヴィアナ様どうぞごゆっくり」
「まあ、でも申し訳ないですわ。遠慮なさらずどうぞご一緒に」
今度はルヴィアナの言葉に殿下がたまげた顔をする。
「ルヴィアナ?君はほんとにルヴィアナなのか?いや、それとも熱でもあるのでは?」
ディミトリー殿下の眉が45度上がったかのようになりギュっと額にしわが寄った。
「まさか殿下。とんでもございませんわ。わたくしは正真正銘ルヴィアナですわ。あっ、殿下はわたくしを心配して下さってるのですね。ありがとうございます。もうすっかり熱は下がりましたわ」
でもディミトリー殿下の様子はまだおかしい。
ばれてないよね?私が杏奈だって…
なにがいけないのだろう?
私がこんな所にいるのがそんなにおかしい事だったの?
もう、ルヴィアナあなたどれだけプライド高い人なの。食堂にも来たことがないの?
ルヴィアナの心臓がバクバクする。
「そうか、ではゆっくり食事をすればいい。今日は君が昼食を持ってこなかったから僕はもう安心…いや、食事はもう済ませたんだ。では失礼する」
私、何かいけない事でもしたの?
どう声を掛けるべきかわからなくなる。
「あ…あの殿下、午後から…その…執務室にお手伝いに行っても?」
何を怒らせたかわからないが、この様子は怒っているとしか…
記憶にある情報をもとにとにかくそう言ってみた。
「ああ、そうだな。僕の変わりに書類を整理しておいてくれ、僕はちょっと用に出かけるから」
「はい、わかりました。おっしゃる通りにいたします」
そうだよね、ここは殿下のおっしゃる通りに…って
なによ!偉そうに。いくら王太子だからってちょっとばかり態度がでか過ぎよ。
これからはこんな風に殿下の言われる事に何でも従うって事?
ああ…この先が思いやられそう。
それにしてもディミトリーが去った後のテーブルにはいたたまれなくなって、席を替わって座って昼食を食べ始めた。
「珍しいじゃないか、ルヴィアナがこんな所に来るなんて、いつもはこんなところで食事するのは嫌だって、あっ今日は寝坊したから昼食を持ってくるのを忘れたのか…でもディミトリー殿下はさっき出て行ったぞ」
ちょっとなれなれしいこの人は誰?
啞然とした顔で彼を見上げる。
「じゃあ、俺が一緒に座ってやろう」
目の前に遠慮なしに男の人が座る。
お母様や私と同じアメジスト色の瞳、はちみつ色の髪、整った顔立ちがひときわ目を引いて周りの女性がざわめく。
だから、誰?
あっ、やっと思い出しました。
この人私の兄でした。父が亡くなりその後のクーベリーシェ伯爵家を継いだ兄のレイモンド伯爵でした。
兄と言っても父と前の奥様との間に出来た子供で私とは異母兄妹になるが仲が良かった。
兄も一緒に暮らしていますが王宮に出向いたり、領地の仕事が忙しくてなかなか会えないのが実情ですが、こんな所で会うとはまた奇遇です。
「もう、お兄様ったら私は子供じゃありませんわ。一人でも大丈夫ですから、でもたまには兄妹で一緒に食べるのも悪くはないですが…」
「そうだろう?俺は忙しいからなかなか会えないが王妃教育はどうなんだ。もう結婚まで少しだろう?無理はしていないか?」
「ええ、お兄様こそご無理されてるんじゃありませんの?」
そんな話をしながらも兄は私のトレイに乗せたソーセージを一本取ると口に頬張る。
「あっ!それ欲しかったのに…」
「そうか?でもいつも痩せなきゃって食べないじゃないか」
「それは内緒ですけどコルセットのせいですから…」
兄は笑いながら自分のトレイのパンやスープをあっという間に平らげるとさっと立ち上がってソーセージを二本持ってきてくれた。
「大事な妹が倒れると困るからな。しっかり食べろ!じゃあな」
「ありがとうお兄様」
ルヴィアナはにっこり笑って兄を見送る。
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