妾に恋をした

はなまる

文字の大きさ
上 下
44 / 44

44俺は妾に恋をした(ネイト)最終話

しおりを挟む

 
 俺は怒りと喜びでぐちゃぐちゃになったまま言葉を放った。

 「っつ!おい!メリンダそれを一番に言えよ!いいか、俺達は離縁する、それでいいんだろう?話は済んだ。あっ、後で書類を送ってくれすぐにサインするから。じゃ!」

 俺は扉に走る。

 「ねぇ、騙したこと怒ってないの?」

 メリンダは呆けたような顔で聞く。

 「はっ?怒ってどうすんだよ。そうだお前浮気したんだよな。慰謝料くれるんだろうな?」

 「だってネイトだって妾とやったじゃない」

 「あれは仕方なくだろう?お前が子を作るのは嫌だって言うからじゃないか。あれはノーカウントだ」

 「じゃあ、ウィンウィンって事で」

 「なんだそれ。いいから、俺はミーシャのところに行く‥あっそうだ。義理母さんお世話になりました」

 「いえ、こちらこそ。ネイトさんお幸せにね」

 「ありがとうございます。手続きはすぐにしますので」

 後ろでデュークが頭を深く下げたのが視界の隅に入った。

 「では」

 俺は踵を返した。

 なのにメリンダの母がちょっと待ってと近づいて来る。

 「ちょっとネイトさん。メリンダがご迷惑をかけて申し訳なかったわ。慰謝料はもちろん払わせて頂きます。でも、取引は引き続きお願いしたいの。どうかしら?もちろんローリッシュ公爵家としてだけど…夫は領地に引きこもらせて二度と顔を出せないようにする予定だからこれからは息子のブラッドが取引相手になるはずなんだけど…」

 「それは父とも相談ですが今まで通り取引すると思いますよ。うちもローリッシュ公爵家にはお世話になってるんですし」

 メリンダの母はうんうんと頷いた。

 「ではお話はいいですか?俺は忙しいので」

 俺は一目散に離れに走った。

 めちゃくちゃ急いでいるのに脚はもつれそうでいつもより走るスピードが遅く感じる。

 じれったい。早く。早くと気持ちが前に出る。

 声を出しているがその声も揺れる身体でかき消されるように途切れて行く。

 「ミー‥シャ~…ミーシャ~…聞こえたら…返事を‥してくれ。なぁ…いるん…だろう?俺の…声が…聞こえ‥たら…ミー…シャ~」

 やっと離れの扉の前に着くと勢いよくその扉を開けた。


 「ミーシャ!ミーシャいるのか?ミーシャ。ミーシャ…」

 「ネイト様。そんなに何度も呼ばなくても…ごめんなさい」

 ミーシャが奥から顔を出した。バツが悪そうに両手を口元にあてて頬を染めている。

 「いいんだ。いいんだミーシャ」

 俺は駆け寄ってミーシャを抱きしめる。

 柔らかな手触りが。温かい温もりが。亜麻色の絹糸のような美しい髪が。

 ピンクゴールドの瞳はまるで猫の目のように細められその唇から頬笑みがこぼれる。

 (ああ…ミーシャだ)

 俺の心臓はドクンと脈打ち大きく鼓動する。

 「ミーシャ。俺のミーシャ。もう二度と離さない。もうどこにも行くな。愛してるミーシャ」

 「ネイト様。私もあなたを愛しています」

 「メリンダとは離縁が決まった。すぐにミーシャと結婚する」

 「メリンダ様からお話を聞きました。悪かったって謝って下さいました。ネイト様にも悪いことをしたって悔やんでおられました」

 「ああ、さっき聞いた」

 「ネイト様。パミラさんとですってね」

 「プッ!ばか、あれは不可抗力だ。真っ暗で何も見えなかった。おい、何を言わせる気だ?ミーシャ俺は誓って被害者だ。俺にはミーシャしかいない。それだけはわかってくれるか?わかってくれるよな?」

 俺はミーシャに懇願する。

 (結婚の承諾ももらわないうちに捨てられるとか止めてくれ)

 「もちろんです。貴族ってホントに嫌な種族ですよね。私達の子供にはもっと自由な恋愛をさせましょうね」

 「ミーシャ?俺達の子供って事は…結婚してくれるって事か?」

 「もちろんです。今度こそ私幸せになりたいんです。夫は優しくて私を愛してくれる人って決めてたんです。ネイト様は理想通りの夫になりそうですもの」

 「あ、当たり前だろう。ミーシャを愛して可愛がって優しくしてそれから…君にだけ愛を捧げるって誓う」

 「ええ、私もあなただけを愛しますから」

 「ああ…これ夢じゃないよな?俺は世界一の幸せ者だ」

 「もう、ネイト様ったら顔がくしゃくしゃですよ。ほら、こんなに涙流しちゃって…いい男が台無しです」

 俺は自分でも気づかないうちに泣いていたらしい。

 ミーシャは俺の眦をその可愛い指先で拭う。

 俺はポケットからあのハンカチを取り出す。

 「これで…」

 「えっ?なんです?」

 ずっと何度も握りしめた。ミーシャが作ってくれたハンカチを。

 だから差し出したハンカチはくしゃくしゃだったが…

 「これって…」

 「カティがくれたんだ。俺に作ってくれたんだろう?どうして捨てようなんて…」

 「だって…」

 「これからは俺の為にもっといっぱい作ってくれるよな?ずっと俺と一緒にいてくれるんだろう?」

 まばゆい笑みを浮かべたミーシャがこくんと頷く。

 「ミーシャ…もう絶対離さないから」

 俺の自制心は木っ端みじんに吹き飛ばされミーシャにかぶりつくようにキスをする。

 何度も何度も甘くて柔らかなその感触を堪能する。


 俺は妾に恋をした。

 それは生まれては初めてで最後の恋だった。

 
***


 ~エピローグ~



 俺はメリンダと離縁してミーシャと結婚した。

 式は子供が生まれて家族だけの小さな結婚式をする予定だ。

 メリンダは爵位を除籍になりデュークも騎士団をやめた。

 ローリッシュ公爵アドルフは貴族への賄賂や違法賭博に手を出していたことが国王の耳に入り宰相を辞任して領地の離邸に幽閉されることになった。

 二度と公の場に出てくることはない。

 それに合わせて爵位を嫡男に譲った。

 メリンダの母は離縁する気だったが、立ち上げるローリッシュローズ商会の運営には公爵夫人の肩書があった方が有利だと気づき夫とはひと悶着あったがのアドルフとは完全別居と言うことで落ち着いたらしい。

 メリンダとデュークは平民となったが母親であるイリーネの立ち上げたローリッシュローズ商会の共同経営者となってバリバリ仕事をしているらしい。

 ちなみにメリンダの潔癖症は精神の安定のせいか前ほどひどくはなくなったらしい。

 今では香水や化粧品のプロデュースをして忙しくしているらしい。

 しばらくはメリンダに騙されたと腹を立てていた俺だったが考えてみればメリンダが俺を受け入れなかったおかげでミーシャと出会えたんんだし浮気してくれたおかげで離縁もすんなりできた。

 終わりよければすべてよしって言うけど、俺とミーシャとの関係はこれからだと思っている。

 ミーシャの期待を裏切らないよう頑張るつもりだ。

 ふたりで何でも話をして喧嘩してもきちんと仲直りの出来る夫婦になって行きたい。

 ミーシャ俺まだまだ半人前だけど一生懸命良き夫に慣れるよう頑張るからよろしく頼むな。

 俺、絶対ミーシャを幸せにするって約束する。

 だから幸せになろうなミーシャ。


 ちなみにジロ芋と茶豆はガストン侯爵領でもベルランド子爵領でも重宝され食料不足の解消になると期待された。

 そしてこれが国王の耳にも入り国家を上げてジロ芋と茶豆の栽培に着手することになるなんて今の俺達には想像もつかなかった事だった。

 



                       ~おわり~


 何とか最終話こぎつけました。たくさんの方にご支援いただき本当にありがとうございます。次回作も頑張ります。どうぞよろしくお願いします。はなまる
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす

春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。 所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが── ある雨の晩に、それが一変する。 ※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。

あなたの愛が正しいわ

来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~  夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。  一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。 「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

追放されたけど、もう一度輝く場所を見つけた

ゆる
恋愛
魔物の襲撃が相次ぎ、封印された古代の力が解放されようとしている世界。王国の討伐隊に所属する若き戦士セラフィナは、謎の指揮者が操る陰謀に立ち向かいながら、真実と未来を守る戦いに身を投じる。 仲間との絆、過去の因縁、そして自らの信念――すべてを懸けた壮絶な戦いの果てに、彼女が見つける答えとは? 平和を取り戻すために戦う彼女の姿が、多くの人々に希望をもたらす冒険譚。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

処理中です...