妾に恋をした

はなまる

文字の大きさ
上 下
36 / 44

36仲たがい

しおりを挟む

 
 私の声を聞きつけてカティが走って来た。

 「ミーシャ様大丈夫ですか?若奥様一体何があったんです?」

 カティは私をゆっくり立たせると肩を貸してくれた。

 「何でもないわ!」

 「カティお願い」

 「ふん!あなたここから出て行きなさいよ。カティあなたもこんな女に構うんじゃないわよ」

 若奥様はまだ怒りが収まらないのか私に声を荒げた。

 「メリンダ様もうその辺にして…さあ、行きましょう」

 「だってパミラ。ネイトはこの女の所に入り浸りなのよ。私は妻よ」

 「もちろんです。ですがこの方も侯爵家の子供を身ごもっておいでなのです。どうしようもありません」

 「もう、一体何のために…」

 「ミーシャ様。奥様が申し訳ありませんでした。どうかお許しください」

 若奥様付の侍女パミラはミーシャに頭を下げた。彼女は年の頃なら40代。侯爵家の侍女長と同じ年代の女性だった。

 それだけに行き過ぎたと思ったのだろう。

 「お互い大切な身です。今後こんなことがあれば許しませんから」

 私は何とか気持ちを押しとどめた。

 (それなら先に止めればよかったのに)と思った。

 ふたりはそのまま出かけて行った。


 私は離れに入ると横になった。まだ少し腹部に痛みがあった。

 義理母も来て大騒ぎになった。

 「義理母様、大丈夫です。もう痛みもほとんどありませんし」

 「何を言ってるの。万が一と言うこともあるのよ。すぐに医者を呼ぶわ」

 そうやって医者に来てもらうことになった。


 「転ばれたとか?」

 「はい。先生どうでしょうか?赤ちゃんは無事ですか?」

 私はそこまでとは思ってはいたが何しろ不安だったので医者に聞いた。

 「ううん…少し不安定な状態かもしれません。まあ、きっと大丈夫とは思いますがとにかく安静にして下さい。今すぐ流産にはならないと思いますが今晩一晩は起き上がったり歩いたりしないように、明日もう一度診察に来ますので」

 「わかりました」

 そう言って医者は帰って行った。


 カティが我慢できないと大奥様にしゃべった。

 「若奥様がミーシャ様を突き飛ばされたんです。私は声を聞いて駆けつけた時にはミーシャ様は転んでいてお腹が痛いとおっしゃっていました」

 「まあ、メリンダが?ミーシャそうなの?」

 私は隠し通せることもないと頷いた。

 「まったく、あの嫁は世話ばかりかけるんだから。メリンダには私からきつく言っておきます。今後絶対にこんな事の無いよう十分気をつけるわ。ごめんなさいねミーシャ。とにかく安静にしてなきゃ。カティ、ミーシャに温まるお茶を煎れて」

 「はい、すぐに」


 それから数時間じっとしているとすっかり落ち着いた。

 出血もなく痛みも治まった。

 夕方になりネイト様が帰って来て事情を聞いたのだろう真っ青な顔で走り込んで来た。

 「ミーシャ無事か?」

 「ネイト様?」

 「聞いた。すまんメリンダがひどい事を…子供は大丈夫なのか?」

 「ええ、痛みも出血もありませんからきっと大丈夫だと…」

 「そうか…良かった。今夜は俺はここで付き添うからな」

 「でも、そんな事をしたら若奥様は私に出て行けとおっしゃいました。私はここにはいない方がいいのでは?」

 「あいつはそんな事を言ったのか?もう、許さない。あいつは実家に帰らせる。子が生まれるまで帰ってこないように話をする。だから安心してここにいればいい。そうだ。メリンダが実家に帰ったらミーシャは本邸に来ればいい。そうすれば俺も安心だし日中も誰かが近くにいるからミーシャも安心だろう?」

 「そんな事は困ります。私が実家に帰りますから…これ以上奥様と仲たがいするわけにはいきません。生まれてくる子供の事もあるんです。ネイト様私は妾なんですよ。私が身を引くのが当たり前です」

 
 だが、メリンダは大奥様やネイトからかなり怒られて結局ご自分が実家に帰ると言い出し翌朝実家に出発されてしまった。

 私がそれを知ったのはメリンダ様が出て行かれた後の事だった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす

春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。 所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが── ある雨の晩に、それが一変する。 ※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。

あなたの愛が正しいわ

来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~  夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。  一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。 「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

処理中です...