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34ガストン侯爵邸での生活
しおりを挟む私は元の離れで生活を始めた。
使用人たちは優しく、翌日には早速ジロ芋と茶豆の収穫をした。
私は試しに肥料をしっかり与えた土と肥料をほとんど与えない土とに分けて二つを植えていた。
確かに肥料を与えたほうが大きく育っていたが、肥料なしでもジロ芋はいくつもの芋をつけていた。
これなら実家の痩せた土地にでもうまく順応できるのではと思った。
早速父にこちらでお世話に慣れる事とジロ芋と茶豆の結果を報告する手紙を書いた。
私は食事はすべてこちらで取ることにしていたので若奥様とはあれから顔を合わせていなかった。
翌日からは早速ネイト様が夕食の後で顔を出してお茶を飲んでいくようになった。
「あの…奥様とは?」
「ああ、メリンダは調子が悪いからと部屋から出てこない」
「それは悪阻で辛いからですよ。少しは優しくししてあげないと」
「ああ、そうかもな。でも、何を言っても嫌だ。勝手なことするな。私に関わらないで何て言われたらなぁ」
「きっと照れ臭いんじゃないんですか?今まではずっと、冷たい態度だったんですよね?でも、何とかうまく行くようにって歩み寄られたんでしょう?」
「そ、それは…ミーシャとは別れた方がいいと思ってたしあいつが一回だけって言うから…つい…あっ、でも勘違いしないでくれ。俺はミーシャが妊娠してすごくうれしいんだ。これからも一緒にいたいしし子供だって楽しみだ」
「私だってそう言っていただいてうれしいですが…それを奥様にも言ってあげて下さい。きっと喜ばれますよ。私は前の夫とは閨こそうまく行きませんでしたが口うるさい義理母との間に入ってくれて時には花をくれたり、食事にも連れ出してくれました。妻はそう言う小さなことがうれしいんですよ」
ネイト様はうつむく。
まあ、私が言うのも余計なお世話だとは思うけど。
「ああ…そう言えばミーシャは花は何が好きなんだ?今度買って来る」
「ネイト様!私はこうやって日に一度でも来て下さる事がうれしいのです。花は奥様に買って来てあげて下さい。それからお食事にでも一緒に行かれては?」
「ぷっ!外食は無理だ。あいつは潔癖症で店の食事には手を付けられないんだ。まったく厄介な性格だよな。俺がバカだった。あいつに手を付けていなければ今頃離縁してミーシャを妻に出来たのに…」
「それは無理ですよ。私は子爵家の人間ですから。ネイト様いいですか。まず一番に奥様を大事にして下さい。私はおまけみたいなものです。たまたま妊娠したからここにいるだけで…ネイト様もそのつもりだったんですよね?」
「だからそれはミーシャの為にと思ったから、でも妊娠したんだ。もう離さないから」
ネイト様は私をぐっと引き寄せると唇を奪った。
何度も唇を吸われ口腔内を舌で蹂躙された。
私はうっとりしてそのキスを受け入れてしまった。
いけない。急いで唇を離す。
ぐっと腕を伸ばしてネイト様の胸を押した
「いけません。私との契約をお忘れですか?」
「わ、忘れてなんか…」
「ここにいると決まった時もう一度契約をしましたよね。私とはもう閨をしないと、そして子供が生まれたら私はここを去ると…お忘れではないですよね?」
「ああ、わかっている。でも、ミーシャはほんとにそんな事が出来るのか?子供を置いて去るだなんて…俺はそんな事を望んではいないんだ。ずっといて欲しい。でもこの話は子供が生まれてからにしないか。今すぐ絶対こうしようなんて決めれるはずもない事だ。いいね?」
「そんなのずるいです。私の決心が揺らぐじゃないですか!ネイト様もう帰って下さい!」
「ああ、すまん。ミーシャの言う通りにする。ゆっくり休めいいな?」
「はい、ネイト様も。おやすみなさい」
「ああミーシャおやすみ」
ネイト様はいつものように本邸に帰って行った。
私はここに来た日に新たな契約をしていた。
ネイト様との閨はなし。子供が生まれたら子供を置いてここを去ると契約書に書いた。
奥様が妊娠した以上これ以上揉め事は増やしたくなかった。
私も一度目の結婚で夫の前妻の事でいろいろ苦労した。
ネイト様に妻と妾。これでは争いの元になるのは確実。
奥様はきっと彼とやり直すつもりで決意したのだろう、私の妊娠でそんな決意に水を差すようなことになって本当に申し訳ないと思っている。
だからこそ私はこうするのが一番だと思ったから。
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