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33説得される
しおりを挟むガストン侯爵がリビングルームに入って来た。
「ガストン侯爵様。お久しぶりでございます」
「ああミーシャ、大変だったね。身体は大丈夫なのか?少しやせたみたいだが…」
侯爵は顔色を伺うように私を見つめた。
「はい、母の事はもう落ち着きましたのでご心配には及びません。そんな事より手紙では失礼なことを書きまして申し訳ございません」
そこで大奥様が入って来た。
「ミーシャ、夕食は一緒にしましょうね。料理長が張り切ってるの。あなた話が終わったらダイニングに来て下さいね」
「ああ、わかった。ミーシャそう言うことだから…それで話と言うのは?」
私は迷い始めた。
(若奥様が妊娠したなんて知らなかったから…この話をしていいのだろうか?)
「ミーシャわかってる。言いにくいんだろう?お金の事ならある程度なら用意するつもりなんだ。ほら、いくら必要なのか言ってごらん?」
私は唖然として侯爵を見た。
「ち、違うんです。お話と言うのは…私も身ごもったのです。も、もちろんネイト様の子供です。誓ってうそではありません」
「……」
そこにネイト様が帰って来たらしく扉を開けて入って来られた。
彼は急いできたのだろう。髪が乱れて額に落ちていて目尻にしわが寄っていた。
「ミーシャが来ているって聞いた。ミーシャ元気か?」
「…ネイト。お前も座れ」
「はっ?でも、話しがあるんだろう?俺はいいから挨拶だけしたら出て行くから」
「いいから座れ。話はお前に大いに関係あるんだ」
「一体何だよ」
「ミーシャ、もう一度はっきり言ってくれ」
私は覚悟を決めて話をし始めた。
「はい、実は妊娠しました。気づくのが遅くなって申しわけありません。体調がおかしかったのですが母の事もありましたので…先日医者に行って初めてわかって3か月だそうです」
「あの時の…」
ネイトは顎が落ちそうなほどあんぐりと口を開いた。
「お前いつの間にそんなに?」
「父さん俺達は一度きりだ」
「それで妊娠。まあ、めでたい事だ。正妻と妾が同時に妊娠とは、ネイトお前相当持ってるんじゃないのか?」
「なに言ってるんだ。そんな冗談言ってる場合か…そんな事ならメリンダなんか相手にしなきゃよかった。メリンダとだって一度きりだ」
「はっ?お前百発百中じじゃないか」
ネイト様がジト目で侯爵を見た。
すぐにネイト様が駆け寄って私の手を掴んだ。
「…ミーシャ産んでくれるよな?間違いなくお腹の子は俺の子供だ。だから安心してくれ」
「はぁ…もちろん子供は産むつもりですが…若奥様も妊娠中と伺ってここに居させていただくのはどうかと…先ほども用が済んだら帰ってくれとけんもほろろの勢いで」
私は決して若奥様の行動をチクるつもりではなかった。そういう状態だからここにいるのは無理ではないかと言いたかっただけで…
「はっ?あいつがミーシャにそんな事を言ったのか。許さん!」
「ネイト様。落ち着いてください。ほら、そのような事になるから」
「だめだ。絶対ミーシャから離れたくない。俺はミーシャが好きなんだ。あいつとは仕方なく…ほんとだ。ミーシャとはもう終わりにするつもりだった。だから…一度だけと言われて…養子でも貰うつもりだったところにそんな事を言われてつい!まさか妊娠するとは思ってもいなかったんだ」
「責めているわけではありません。夫婦なんです。当然の事ですから」
(ほんとはすごく悲しくて辛いのに)そんなそぶりは見せたくなかった。
「そんな事どうだっていい。とにかくミーシャはここにいるんだ。いいな?父さんもそれでいいだろう。何しろ妾を頼んだのは父さんたちなんだからな!」
「ああ、こうなった以上は当然ここで生活して欲しい。子供が無事に生まれるように全面的に世話をする。ミーシャ安心してくれ」
「分かりました。では、元住んでいた離れで過ごします。私はどこにも出ませんからご安心ください」
「ああ、でも散歩や息抜きは大切だからな。俺がきちんと世話をする。いいねミーシャ」
私はネイト様の嬉しそうな顔を見るとそれ以上は何も言えなくなった。
(だってすごくうれしかったから…奥様と子を成した男でも好きだから…)
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