25 / 44
25近づいて離れる距離
しおりを挟む私は翌日には離れに戻った。体調はほとんどよくなった。
また、ジロ芋や茶豆の世話をしながらしばらくゆっくりした。
ジロ芋も茶豆もしっかり根付いてもうひざ上まで育っている。
ネイト様は仕事に復帰されて帰って来ると私の所に顔を出してお茶を飲む。
向かい合って座り距離は取ったままだ。
「今日も変わったことはなかったか調子はいいのか?」
「はい、おかげさまでもうすっかり」
「そうか…できればまたミーシャの作ったとろふわオムレツが食べたい。明日の朝食に作ってくれないか?」
「ええ、いいですが。料理長に話をしておいて下さい」
「わかった。では、明日。早く休め。おやすみ」
ネイト様はそう言うと私のそばに回り込んで唇を奪って何度もキスをして帰って行く。
でも、決して隣に座りこむような真似はしない。
もしそうすれば私たちはそのまま身体を繋ぐ可能性があると思うっているからだろうか?
きっと。多分。
でも、私は妾で子を作るのが目的なのに。何を遠慮するのかとも思うが自分が大切にされている気がして悪い気はしない。
翌日はネイト様にとろふわオムレツを作った。
聞けば今日は会議で忙しく昼食も食べに行けないくらい忙しいと聞いて急きょお弁当も作った。
きっとしばらく休んだせいだろう。
昨夜の残り物のビーフやサラダは朝食に浸かった残りだったが飾りにラディッシュとピクルスで飾り切りをしたものを添える。
少しは彩りが良くなっただろうか。
ネイト様が帰って来てお弁当の事をすごく褒めちぎったのでそれ以降私がお弁当作ることになってしまった。
特に仕事をしているわけでもなくネイト様のお弁当を考えるのも作るのも楽しかった。
チキンのから揚げや肉の炒め物、魚のソテーやジャガイモのサラダなど料理長も協力してくれて朝から楽しい時間を過ごした。
そしていつの間にかネイト様が帰って来ると庭を散歩したり夜には月を見たりするようになった。
もちろんいつも手は繋ぐ。
木陰でそっと抱き寄せられてキスされるとどうしようもない感情が沸き上がって今度は私がその感情を持て余してしまう。
困ったものだ。
病気が治って1週間。もうそろそろではないかと思い始めた頃メリンダ様が帰ってこらえた。
丁度その時ネイト様はいつものように私の所に来られて庭を散歩している時だった。
メリンダ様に見られた。
彼女はつかつか私に近づく。
ネイト様はばつが悪いように私の手を離した。
「ちょっと貴方。夫には距離を置いてちょうだい。あなたはただの妾なのよ。それなのにこんな事をして。わきまえなさいよ」
メリンダ様が私の胸を手でずんと押した。
私はふらついて倒れそうになりネイト様がそれを支えた。
「メリンダ謝れ!ミーシャに失礼だぞ」
「あなたまでなによ。私はあなたの妻なのよ。どっちの味方なのよ!お父様にも散々嫌味を言われた私の身にもなりなさいよ。もぉぉ!ネイトすぐに屋敷に入ってよ」
メリンダ様はそう言うとさっさと本邸に入って行った。
侍女のパミラも急いで後を追う。
かなり早いお帰りみたいで、
「奥様はきっと孫はまだかとか言われたのです。きっと気にしておられるのです。私はいいですからネイト様も早くお帰り下さい。私は離れに戻ります」
ネイト様が私の手をぎゅっと掴んだ。
向かい合わせになってじっと見つめられる。
「すまん、メリンダとはきちんと話をするつもりだ。まだはっきりするまで言いたくはなかったがメリンダとは離縁するつもりだ。そしたら俺と結婚して欲しい。ミーシャ君とずっと一緒にいたい。妾なんかじゃいやなんだ」
「そんな事無理に決まってます。侯爵様だってお許しになるはずがありません。ですからそんな事は考えないで下さい」
「君は心配しなくていい。もし俺が離縁したら結婚してくれる?」
「そんな事出来ません」
私は彼の手を振り払って離れに戻った。
私だってネイト様の事を…でも、それは出来ない事。
そんな高望みはしてはいけないと何度も言い聞かせた。
私はネイト様の手を振り切って走って離れに戻った。
彼は後を追っては来なかった。
これでいい。
扉の内側でほっと息を吐く。
でも、私はその場に頽れた。
そしてしばらく動けなかった。
ぎゅっとワンピースのポケットに手を当てた。
ネイト様にいつもよくしてもらうのでお礼をしたいとハンカチに刺繍したものをワンピースのポケットに忍ばせていたのだ。
図柄は彼のイニシャルÑ・G銀色の糸と青い糸で刺しゅうしたものだ。
でも、なかなか渡すきっかけがなかった。
奥様のあんな姿を見てほんとに渡さなくてよかったと思う。
私はやっと立ち上がってそのハンカチをポケットから出すとベッドサイドの引き出しにしまった。
翌朝早く実家から知らせが届いた。
急ぎの手紙だと使用人が届けてくれた、なんだか胸騒ぎがして急いで手紙を開けた。
=母危篤、すぐ帰れ~
うそ…先日は元気にしていると手紙を貰いほっとしていたのに…と手紙を握りしめる。
私はとにかく急いで荷物の準備をして大奥様に事情を話して朝早くに屋敷を出た。
366
お気に入りに追加
1,025
あなたにおすすめの小説
【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす
春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。
所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが──
ある雨の晩に、それが一変する。
※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。
あなたの愛が正しいわ
来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~
夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。
一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。
「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

ワケあり令嬢と騎士
リオ
恋愛
とある子どものできない貴族に養子として引き取られた娘ーーノノアント。しかし一人の女の子が産まれ、姉となった。貴族の血筋の引く妹ができたことにより『いらない子』となってしまったノノアント。元から自分の存在意義を求めることをやめていた。そんな時、少年の暖かさがノノアントの冷めきった心を微かに温めた。唯一気を許せる存在となりつつあった少年はある日から姿を見せなくなり、十年後にその姿を現した。妹の騎士として。
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

いつかの空を見る日まで
たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。
------------
復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。
悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。
中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。
どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。
(うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります)
他サイトでも掲載しています。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。
彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。
そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。
やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。
大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。
同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。
*ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。
もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる