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22看病します(5)
しおりを挟む料理が出来上がり部屋に様子を見に行く。
ご主人様と目が合う。
私は急いで走り寄る。
「起きたんですね。どこか痛みます?」
「いや、お腹が減った」
「ええ、朝から何も召し上がっていませんから。ちょうどスープが出来上がったところです。すぐにとろふわオムレツも作ってお持ちしますね」
「ああ、楽しみだ。こうなると病気もいいかもしれんな」
「ご主人様怒りますよ」
「冗談だ。ミーシャの作ったその…とろふわ食べたい」
「ええ、もちろん。気に入って頂けるといいんですけど」
私はすぐにとろふわオムレツを作ってかぼちゃのクリームスープと一緒に部屋に運んだ。
「置き上がれます?」
「ああ」
ご主人様は朝よりしっかりと起き上がった。
「さあ、どうぞ」
トレイを彼の前に置く。
「やだ、ミーシャ食べさせて」
「もう、ご主人様ったら…仕方ありません。夕食は自分で召し上がって下さいよ」
「無理かも」
「じゃあ、熱いですから…ふぅふぅ…あ~ん」
「あ~ん…」
ご主人様の目が見開かれる。
「う、うまい!これは…口に入れるととろけてしまうな」
「気に入りました?」
「ああ、いくらでも食べれそうだ。あ~ん」
「はい、あ~ん」
そうやって”あ~ん”する事十数回。
かぼちゃのクリームスープもきれいに平らげ薬も飲んだ。
「すっかり完食ですね。少しは楽になりました?」
「ああ、かなり…ミーシャ」
ご主人様がぐっと腰を引き寄せて抱きついた。
「ご、ご主人様…」
私はそわそわした感情のままくしゃくしゃになった髪をそっと撫ぜつける。
「気持ちいいな。ミーシャの身体は柔らかでいい匂いだ。病気が治ったら君のところに行く」
「…ええ、そうですね。そのための妾ですから…」
「そのためだけじゃない…俺は君を…いや、いいんだ。すまん」
ご主人は急によそよそしくなって私を離した。
温もりを失った身体がプルリと震えた。
「…さあ、少し横になって…食器片づけますね」
私は彼への慕情を押し込めるとテキパキと食器を片付ける。
それからご主人様は熱も下がって行きすっかり体調は落ち着いた。
夕食は料理長が作ったチキンのソテーも食べれて顔色も良くなった。
食べさせてと言われたが熱も下がったしひとりで食べれそうだった。
「ご主人様ひとりで食べれますよね?」
夕食には大奥様もそばにいた。
「ああ、そうだな…むしゃむしゃもぐもぐ…」
「まあ、ネイトすっかり良くなったみたいね。良かったわ。ミーシャのおかげよ。ありがとう。あなたは今夜はゆっくり休んでね。こんな大きな子供の世話で疲れたでしょう」
「母さん、俺は子供じゃないけど」
「そう?かなり甘えん坊だったらしいけど…でも、ほんとに良かった。さあ、ネイトの夕食がすんだらあなたも食べてゆっくり休んでちょうだい」
「はい大奥様、ありがとうございます」
大奥様はそう言うと部屋を後にした。ガストン侯爵模様を様子にやって来て安心して出て行った。
「ご主人様、この後プディング食べます?苦いお薬のお口直しにいかがです?」
「ミーシャの手作りか?」
ご主人様が破顔する。
私は急いで準備して彼の前にプディングを持って来たがまず薬を飲んでもらった。
「お口直しにどうぞ」
「ミーシャ。これはあ~んだろう?」
「そうです?もうひとりで召し上がれますよね?」
「いやだ。あ~んして」
「はいはい、最後のあ~んですからね」
ご主人様は美味しそうにプディングを少しずつ食べた。
そしてベッドに横になってもらう。
私はもう一度額に触り熱が下がっている事を確かめると上掛をきちんとかけた。
「では、ご主人様ゆっくりお休みください。ここにお茶も起きておきます。咳に聞く薬草茶です。夜中に何かあったら使用人を呼んで下さい」
「もう行くのか?」
「はい、少し疲れました」
「ああ、そうだろうな。ありがとうミーシャ君がいてくれてほんとに良かった。しっかり治したら部屋に行く」
「もちろんです。お待ちしています。ではおやすみなさい」
「ああ、ゆっくり休んでくれ。ありがとうミーシャ」
そして私の看病は終わった。
なぜかご主人と離れてしまうのが寂しい。
こんな気持ちを持ってはいけないのに。
これは仕事なのだからと私は離れの冷たいベッドの中で思いながら何度も寝返りを打つ。
少し身体がだるい。疲れているのだろう。そんな事を思いながら眠りについた。
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