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21看病します(4)
しおりを挟むすぐに医者が呼ばれて診察を受ける。
私の予想通り肺が炎症を起こしていると診断が下された。
ここからは薬も医師の処方したものを飲ませるようにと指示が出た。4時間おきに炎症を抑え菌を殺す作用のある薬だ。
「それからこの熱さましとしっかり水分を取るようにして下さい。なるべく栄養のあるものを無理なら流し込めるようスープ状にしてでも飲ませるようにして下さい。今日、明日が山場でしょうが成人男性なら体力もあるきっと大丈夫ですよ。何か急変があったらすぐに呼んで下さい」
医者はそう言って帰って行った。
大奥様は肺炎と聞いてすっかり元気がなくなった。
ガストン侯爵は王宮の仕事がどうしても外せないらしく「なるべく早く帰って来るから、マーガレット頼んだぞ」
「ええ、でもネイトにもし何かあったらどうすればいいんです」
「しっかりしろ、医者も言ってただろう。水分と栄養のあるものを食べさせるんだ。大丈夫、ネイトは鍛えてる。これくらいの事乗り切れるに決まっている。だろう?」
「そうよねあなた。何か栄養のあるものね…」
それを聞いていた料理長が口をはさんだ。
「奥様ミーシャさんがすごく美味しいオムレツが作れるんです。きっとネイト様も喜んで食べられますよ」
「ああ、そうね。ミーシャがいてくれたわ。ミーシャ一緒に看病頼んでもいいかしら?」
「もちろんです大奥様。何でも言いつけて下さい。そうだ。私、カボチャのクリームスープ作ります。あっオレンジゼリーも出来上がってる頃です。ご主人に食べてもらいますから」
私は急いでオレンジゼリーを持って部屋に行く。
せっかく作ったとろふわオムレツはすでに固くなっていた。
ご主人はうつらうつらしていた。医者から薬を投与されたせいだろう。
「ご主人様」
彼は私の声に反応した。
「ミー‥シャ?」
「何か食べます?私オレンジゼリー作って見たんですけど」
「ミーシャが?」
彼の瞳がパチッと開く。
「はい、とろふわオムレツも作ったんですけど冷めてしまいましたから、また後で作り直しますね」
「とろふわオムレツ?食べたい」
「食欲あるんですか?」
「ミーシャが作ったなら…何でも食べたい」
「うぅっ…うれしいです。では、まずオレンジゼリーから…」
私はご主人の容体を考え無理は出来ないとオレンジゼリーを人さじすくって彼の口に運ぶ。
「あ~ん」
「あ~ん…うまい」
ご主人様の口元がほころぶ。
「良かった。もう少し?」
こくんとうなずくご主人様。(か、可愛すぎる。いや、病人にそんな事を思うとは…)
「はい、あ~ん」
「あ~ん。ごくん。もう一口」
そうやってオレンジゼリーは彼の口の中にすべて消えて行った。
「気分はいかがです?」
「ああ、少し楽になった」
「お茶を飲んでしばらく様子を見て食事が出来そうならとろふわオムレツ作りますから」
「ああ…楽しみだ」
「はい。すこし起きれます?」
彼のベッドにクッションを差し込んで座れるように整える。そしてお茶のカップを渡す。
「飲ませて…」
「もう、今だけですからね。ほんとにご主人様甘えん坊になっちゃいましたね。クス」
「病気になるなんて久しぶりだし…気分は悪いし…ミーシャがいると思うとつい…すまん」
「いえ、責めてるわけじゃ…いいんです。辛いときは甘えて下さい。さあ、ゆっくり…」
私は渡されたカップをゆっくりご主人の口元に運んだ。
彼は満足そうにゴクンとお茶を飲んでまた横になった。
まだ熱はかなり高い。汗もかいているので着替えの準備を頼む。
着替えが終わると彼は眠り始めた。
私はその間にプディングとかぼちゃのクリームスープを作りながら思う。
こんなに可愛い姿を見せつけられると嫌でも彼に気持ちが傾いてしまう。
ずっとそばにいたい。この人に尽くしたいなどと不埒な考えが脳内を埋め尽くす。
しっかりしなさい!これは仕事なんだから。
私は子を産むのが仕事の妾なんだ。
鍋をかき混ぜながら何度も言い聞かせる。
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