妾に恋をした

はなまる

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19看病します(2)

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 それから少し薬が効いてきたようなので頼んでおいたパンがゆとスープを少しずつ彼に食べさせる。

 クッションをたくさん置いて上半身を起こし首にはよだれかけのように布をかけてこぼしてもいいようにしてスプーンを運ぶ。

 「はい、あ~んして下さい」

 「あ~ん。ごくん。いてっ!」

 「喉が痛いんですか?」

 「ああ、ミーシャ。でも我慢する。君が食べさせてくれるんだ。はい。あ~ん」

 彼は少し楽になったのかそんな冗談を言いながらすべて食べ終えた。

 「すごいです。完食ですね」

 彼の顔がエッヘンと言う顔になる。

 (おかしい。可愛すぎるではないか。これはもう兵器なのでは?)

 きっと私の顔は鼻の舌が伸びるという表現がぴったりだったのではと思う。

 どうして私はこの人を前にするとこうもおかしな気分になるのか。

 つい数日は芋の栽培など落ち着いた日々だったというのに…

 「コホン。薬湯を…」

 それから気を取り直してもう一度咳止めの薬湯を飲ませてまた横になってもらう。


 「食器を下げて来ますから」

 ついでに夕食をぱっぱと食べて来ようと思った。

 「廊下に置いておけばいい」

 「もう、すぐに帰りますから」

 「ほんとに?すぐ?」

 「ええ、じゃあ私も何か摘まめるものでも貰って来ます」

 「ああ、でも早くしてくれよミーシャ」

 「はいはい、そんなわがままも今夜だけですからね」

 「やだ。ずっとがいい」

 「ご主人様。怒りますよ。クスッ」

 甘えん坊なご主人に母性本能をくすぐられまくり笑みがこぼれる。

 ちっとも怒ってないとばれてしまうではないか。

 「ミーシャ」

 「あっ、声出るようになりましたね」

 「あぐっ、痛い!」

 「ばれてますよ」

 私はそんな事を言いながらも急いでキッチンに行く。


 夕食のローストチキンをパンにはさむ。

 こんな事をしなくてもと使用人が言ってくれたが貧乏性なのだろう何でも自分でやってしまう癖なのと言って笑ってキッチンからご主人の元に駆け戻った。

 彼は眠っていた。

 ほっとした。

 私はパンを食べまた額の当てた布を変える。そんな事を繰り返し看病した。


 しばらく調子が良くなったと思ったらまた熱が高くなった。

 私は彼の額の布を取り替え汗をぬぐい、咳をする彼の胸をさすっていると大奥様が様子を見に来られた。

 「ミーシャもう休みなさい。今度は私が変わりましょう」

 「いえ、こんなの慣れてますから、大奥様は休んでください。きっと明日には良くなります」

 「そう?じゃあ、お願いするわ。あっ、これを掛けて」

 大奥様は肩にかけていたショールを私に手渡した。

 「ありがとうございます」

 私はそのショールを肩にかけた。

 そして何時しか疲れて眠っていた。


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