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 「クレティオス帝、どうしてアドリエーヌ様の守護の宝輪がシャルロットに効いたんです?守護の宝輪はアドリエーヌ様以外の人は守らないはずでは?」

 ほら、やっぱりです!

 「ああ、それよりアルベルト。どうしてシャルロットを抱きしめていた?」

 「失礼しました。クレティオス帝、シャルロットは私の妻となる女性です。私は彼女を愛してるんです。そう言えばあなたがシャルロットを訪ねて来られたのはどうしてなのですか?守護の宝輪もどうして…?」

 「妻?愛?シャルロットお前はどうなんだ?このアルベルトと結婚したいのか?」

 「はい、彼に求婚されました。私も彼と結婚したかったのです。でも彼が皇王となられたのでやっぱり無理だと思ったんです。それで屋敷を出てここに…でも彼の決心を知ってもう迷いたくないんです。私はアルベルト様と結婚したいのです」

 「そうか。それならばシャルロットの望み通りにすれば良い」

 「でも私は彼にふさわしくな」

 クレティオス帝に話を遮られる。

 「いいかよく聞けアルベルトよ、守護の宝輪が役に立ったのはシャルロットがアドリエーヌの娘だからだ。私はアドリエーヌの亡骸が届いた時赤ん坊も亡くなったと聞かされていた。だが、本当は違ったんだ。カロリーナが無事にシャルロットを連れだしていたのだ。アドリエーヌはランベラート達を欺くためにわざと火を放ち身代わりの者を燃やしたんだろう。火は激しく燃え盛り赤ん坊の骨など残らないほどに燃やされた。それで赤ん坊も一緒に焼け死んだと思わせたのだ。まんまと私も騙された。だが、カロリーナが亡くなりシャルロットが尋ねて来たのだ」

 「では、シャルロットはクレティオス帝の孫娘なんですか?」

 その驚きようはすさまじく…これって…?

 喜ぶべきなのか、それとも悲しむべきなのでしょうか?


 「ああ、私も最初は驚いた。だが、シャルロットはアドリエーヌに生き写しでアドリエーヌの指輪を持っていた。それに守護の宝輪がシャルロットを救った。これが何よりの証拠だろう。母アドリエーヌがわが子を守りたいと願ったからこそ守護の宝輪はシャルロットの命を救った。だからシャルロットは私の孫娘に間違いない。シャルロットもう隠さなくてよい。エストラード皇国はアルベルトという立派な皇王が担っていくことになったのだ。そうなればコンステンサ帝国との関係もますます深くなっていくだろう。そしてお前がエストラード皇国に嫁いだとなればもはや二つの国は揺るぎない関係で結ばれる。これほどうれしい事はない。なあ、そう思うだろうアルベルト」


 「はい、これほどうれしい事はありません。まさか、シャルロットがコンステンサ帝国の王女だったなんて…」

 「まあ、アルベルト様、私は王女には見えないとでも?」

 先ほどからの態度に、つい、こんな言葉が飛び出したのです。

 「とんでもない!君は勇気があって優しくて何より気品に満ちている。最初に出会った時から不思議なほど惹きつけられた。きっと君の中の隠された部分がそうさせたんだろう」

 「まあ、お上手だ事…」

 私はぷいと顔を反らしてやります。


 「シャルロット、もっとアルベルトに優しくしてやれ、でないと嫌われるぞ」

 「と、とんでもありません。私がシャルロットを嫌うことなど未来永劫ありませんから」

 「そうやって甘くすると今に尻に敷かれても知らんぞ!」

 「構いません。シャルロットのためなら!」

 あ、あるべるとさま…

 「ほら、クレティオス帝、アルベルト様は私にはすごーく優しいですからご安心ください!」

 私の胸は感激の嵐が吹き荒れていました。


 「やれやれ…私の出る幕はなさそうだ。シャルロットも、もう安心だろう。となれば改めてまた会おうアルベルト。だが、シャルロット今夜はコンステンサ帝国に帰ってくれないか。結婚式までは私と一緒にいて欲しい」


 私はクレティオス帝の言葉にさらに胸が熱くなりました。


 「いえ、クレティオス帝それは勘弁してください。私だってやっとシャルロットと一緒にいられるんです。彼女がいなくなってどれほど心配したか、お願いですクレティオス帝。せめてもうしばらくは一緒にいたいんです。コンステンサ帝国には必ず連れて行きます。だから今日のところは私にシャルロットを任せて頂きたい!」


 おふたりはまるで子供みたいに私の取り合いをなさって…でも。

 「あの…クレティオス帝?」

 「シャルロット!私の事はおじい様と呼んで欲しい」

 「はい、おじい様。今夜はアルベルト様と一緒に過ごしたいんです」

 おじい様は弱った顔をされて…

 「では、明日はコンステンサに来てくれるか?」

 「あ、あるべると様?」

 「はい、明日シャルロットと一緒にコンステンサ帝国に伺います。いろいろ話しもしなくてはならないこともありますし…そうですね。しばらくシャルロットにはコンステンサで過ごしてもらって、いえ、私も帰ったら色々忙しいと思うのでその方が彼女も寂しい思いをしなくていいでしょうから…でも結婚式の準備が出来次第エストラード皇国に帰って来るというのはいかがでしょうか?…いえ、すぐに結婚式はあげるつもりですが…シャルロット?それでいいかい?」



 「ええ、もちろん。だって私もアルベルト様と離れ離れは寂しいですからなるべく早く結婚式の準備をして下さるというのなら…おじい様ごめんなさい。決しておじい様といたくないわけではないんです。またすぐに会いにも行きますし今度は一緒に出掛けたりもしたいですし…」


 「ああ、わかっておる。私だってそんな野暮なことはするつもりはないから安心しろ。では、私はこれで失礼する」

 「あっ、はい。では明日。お帰りくれぐれもお気をつけてクレティオス帝」

 「おじい様。本当にありがとうございました。明日は一緒に過ごせるのを楽しみにしています。ではお気を付けて」

 クレティオス帝の馬車は夜の闇に消えて行かれました。


 それと行き違いに闇の中から馬が二頭駆け込んできた。

 「どう、どう‥アルベルト陛下。ったく、どういうつもりなんです?俺達は道を知らないって言うのに、いきなり先に走り出して…」

 レオン様がひどくいきまいておっしゃった。

 「そうですよ陛下。ひどいじゃないですか。おかげで道に迷って大変で…シャルロット様?どうかしたんですか。何ですかこの煙は?」

 リンデン様もかなり怒ってます?



 「ああ、すまなかった。でも、おかげで間に合ったんだ。シャルロットが助かったから許してくれ」

 「この方がシャルロット様?アルベルトを骨抜きにした。あの女性か?いや、すごい美人で…陛下にはもったいないというか…」

 「も、もったいない?レオンひどいじゃないか!」


 「クッシュン!」

 「シャルロット?寒いのか?すまん。ここで寝るのは無理そうだな。今晩はムガルに戻って宿を取ろう。さあ、ふたりともせっかくついたばかりで悪いがすぐに出発するぞ!」

 アルベルト様が私のマントを持ってきて下さって、着替えの服もまだトランクに入ったままでしたので、そのままトランクを持って彼の馬に一緒に乗ってムガルを目指すことになりました。


 「レオン驚くな、シャルロットはカールの娘なんだ。アドリエーヌ様の子供が生きていたんだ」

 「うそだろ?じゃ、じゃ…シャルロットは俺の姪っ子って事なのか?おいおい、こんな美人の娘が…まあ、俺はまだ小さかったし年は一回りほどしか…でもこんなうれしいことはない。シャルロットこれからよろしくな。父さんが聞いたら泣くぞ、それにヨーゼフも驚いて腰を抜かすかもな!」

 レオン様は腰を抜かすほど驚かれて大きな声で笑われた。



 「レオン様‥いえ叔父様どうぞよろしくお願いします」

 私は隠していたことは言えなくて。ごめんなさい叔父様。

 「こちらこそ、こんなうれしいことはない。さあ急いで片づけて出発しよう。今夜はお祝いだな」

 「いいからレオン、リンデン手伝ってくれ!」

 「任せろ!」



 アルベルト様たちは薪ストーブの火を消してきちんと片付けて、窓を開け放ち煙をすべて外に出して部屋の中を片付けて下さいました。

 「さあ、こうしておけば大丈夫だ。シャルロット安心しろ、この家は大切な思い出の家だろう?今度時間を作ってゆっくり来よう」

 「アルベルト様…レオン、じゃなかった叔父様、リンデン様ありがとうございます」

 私はそんな気遣いをして下さる彼にまたしても胸が熱くなりました。


 そしていよいよ出発です。

 彼の馬に乗せてもらうとアルベルト様が後ろから優しく包み込まれました。

 「シャルロット愛している。もう二度といなくなったりしないでくれよ」

 「もちろんです。私を生涯愛して下さるなら私は死ぬまであなたのそばを離れませんから、覚悟してくださいね!」

 「ああ、君と一緒ならどんな覚悟でも出来る。安心しろシャルロット!」

 私の胸はうれしさでふるふると高鳴りアルベルト様の体温を感じてさらに熱くなりました。



 思えば、最初はアルベルト様の事をじれったい皇太子だと思っていましたが、こんなに頼もしいお方だったとはちっとも知りませんでした。

 それに私は死んだことになっていましたがこれでようやく私もお母様の娘としてお披露目されるという事ですので、これはもう二重の喜びです。



 馬は私たちを乗せてムガルを目指します。

 私たちはもう二度と離れないと馬の背で固く愛を誓い合ったのです。


 私はそっと目を閉じて祈りました。

 「お母様、カロリーナ、私幸せになりますね」

 私は自然とそう呟いていました。





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