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42アルベルト視点

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 その夜遅くに表で騒ぎがあった。

 近衛兵が大きな声で「入ることは出来ない!」と誰かを追い返そうとしている声が寝室にまで届いた。

 俺はガウンをはおると急いで部屋を飛び出した。

 表の近衛兵に大声で尋ねる。

 「何の騒ぎだ?」

 「何でもありません。あなたは休んでいてください」近衛兵に押し戻されて部屋に連れ戻される。

 そう言われても気になる。

 トルーズに言って様子を見に行かせる。



 マリーは何度も近衛兵に頼んだ。

 「ここはアルベルト・ルミドブール・エストラード様のお屋敷なんでしょう?いいから急いでるの。ここを通してください」

 だが、近衛兵は一歩も譲ってくれない。

 「誰も入ることは出来ません。どうぞお帰りを」



 マリーは非常手段に出た。というのもこの屋敷には姉のアビーがいるのだ。

 マリーは幼いころから魔力があって、なぜか姉のアビーとだけは念じただけで話が出来た。

 一度門から離れるとマリーはアビーに向かって念じる。

 ”アビー私よマリーよ。あなたこの屋敷にいるんでしょう?返事してよ。お願い私シャルロットさんに頼まれてきたの。”


 アビーはもう休もうとベッドに入ろうとしていたが、表が騒がしく何が起きたのかとそわそわしていた。

 そこにマリーの声が聞こえて来た。

 アビーとマリーは姉妹でマリーだけが魔女としても素質を持って生まれた。幼いころはいつも一緒だったが、数年前に王城に連れて行かれてエリザベート様の所で働くようになっていた。

 それにアビーもマリーのことを誰にも話していなかった。



 ”マリーなの?いきなりどうしたのよ。”

 数年ぶりにいきなりマリーの声が聞こえておまけにシャルロット様に頼まれたって?

 ”アビー聞こえたのね。良かったわ。シャルロットさんが危ないの。急いで居場所を知らせに来たのよ。”

 ”シャルロット様が危険ってどういう事?いいから話してマリー”



 ”彼女は王城の北の塔の地下牢にいるの。早く助けないと毒を飲まされていてとても動ける状態じゃないの。すぐにアルベルト・ルミドブール・エストラード公爵にそう伝えて、シャルロットが彼に伝えて欲しいってだから私急いで来たの。すぐに助けに行かないと危険なの。場所は私が案内するからって、お願い急いでるの”


 ”ええ、すぐに旦那様に伝える。それであなたはどこにいるのよ?”

 ”表にいるわ。でも近衛兵がいて入れてくれなくて、仕方がないからこうやってあなたを呼んだのよ”

 ”分かった。マリー私が行くまで近衛兵に見つからないようにしてて、すぐに伝えるから”

 ”ええ、お願いアビー”


 しばらくして俺の寝室のドアを叩いてアビーが起こしに来た。

 「アビーどうしたんです。こんな夜中に」

 「旦那様大変なんです。私の妹は魔女で王城で働いているんですがさっき私に呼びかけて来てシャルロット様が大変だと」

 俺は急いでアビーを部屋に入れて話を聞く。

 「シャルロットがどうしたんだアビー?」

 アビーはマリーから聞いた話を伝えた。


 「じゃあ、シャルロットは王城の北塔にいるんだな」

 「はい、毒を飲まされて動けないそうです。急がないとシャルロット様が…あのマリーが案内すると言ってます」

 「分かった。すぐに助けに行くと伝えてくれ」

 「はいわかりました」


 そこにトルーズが入って来た。

 「旦那様、どうやら騒がせていたのはこの女性のようです」

 「マリー」

 「アビー」

 「えっ?おふたりはお知り合いなんですか?」

 「トルーズ様すみません。妹のマリーなんです」

 「こちらが妹さん?」


 「トルーズいいから、マリーはシャルロットの事を知らせに来たらしい。今からシャルロットを助けに行く。マリー君が案内をしてくれるって言うのは本当か?」

 「はい、急がないとシャルロット様は毒を飲ませれていて動けなくて…」

 「トルーズ、リンデンを呼んできてくれないか?」

 「はい、ですが旦那様この方の言うことを信じるんですか?今動くのは危険だとリンデンさんも言ってたじゃありませんか!」

 俺はシャルロットの事となるとおかしくなる。

 だが、トルーズの言うことも一理ある。



 「悪いがマリー君の話は信じていいのか?いきなりそんな事を言って俺達を騙すつもりとか?」

 「まあそう思われても仕方がありません。私はずっとエリザベート様の元であの方の言いなりでした。でもずっと嫌でした。あの方は自分の魔力が弱いのを隠すために私たちに魔力を使わせてあたかもそれが自分の力のように見せかけるのです。夜会の催しもそうでした。それに私たちはあんなことになるなんて思ってもいなかったんです。私たちは皆さんに渡す薬湯の中にスズランの毒を混入していました。ずっと決まった貴族の方々に、そしてあの夜会のカクテルにはオオバコが入っていたんです。オオバコ自体は毒はありません。でも…」

 「ああ、そうだったな。スズランを飲んでいる人に取ったら命取りになるんだろう?」

 「どうしてそれをご存知で?」


 「シャルロットが教えてくれた。俺に渡されていた薬湯にスズランが入っている事に、俺も死ぬところだった。だから」


 「まあ、でもご無事でよかった。それで今日も私がシャルロットさんのところに薬を飲ませるようにと言われて、彼女を見て驚きました。夜会の夜みんなを助けた魔女だったから、私もうこんな事したくないんです。エリザベート様はみんなを助けるためだと言うけどこんなのおかしいってずっと思ってました。でも逆らうことが恐くて…でも、もう私、嫌なんです。悪くもない人に毒を飲ませることもエリザベート様の為に魔力を使うことも…だから…」

 マリーは必死でそう言った。


 今度はアビーが話始めた。

 「旦那様、私ずっとマリーの事が皆さんに話せませんでした。それはきっとマリーがエリザベート様のために働いていると知ってたから、色々なうわさはエリザベート様が何か悪いことをしているって噂ばかりでマリーもその悪いことを手伝っているんじゃないかって思ったから…でもマリーは本当は優しくて正直な子なんです。ずっと辛かったと思います。でもこうやって勇気を出して私のところに来てくれた。だからマリーの言うことに嘘はないって、信じてやってもらえませんか?マリーは嘘をつく子じゃないんです」



 「ああ、アビー君の言う通りだ。マリーを信じる。どうだトルーズ?」

 「ええ、そうですね。彼女が嘘を言ってるふうには見えません」

 「よし、決まりだ。リンデンに伝えてくれ、王城に行くと近衛兵の目をかすめてここを出ると、それにマールにも連絡をしたい。俺ひとりではシャルロットを連れ出すのは無理だろう」

 「当たり前です。旦那様は大切なお方なんです。無茶はやめていただきます。すぐにリンデンにもマールにも伝えます。いいですか、ここで少しお待ちを!アビーここで旦那様を見張っていてください。ひとりで行かせるなんて絶対にだめですから、わかってますよねアビー?」

 「もちろんですトルーズ様お任せください。旦那様が部屋を出ようとしたら大声を上げます」

 「頼みましたよ。私はすぐに…わかってますよね旦那様!!」

 トルーズは急いで部屋を出て行った。



 ああまで言われたら…とにかく急いで支度をするとマリーにシャルロットの居場所を詳しく聞き出し始めた。

 トルーズ、お前の気持ちはわかる。いいから急いでくれ!

 シャルロットが危険なんだから…

 俺ははやる気持ちを押し殺しながらその時を待った。

 待っていてくれシャルロット、君を必ず助けるからと何度も何度も心の中でつぶやいた。



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