40 / 61
40アルベルト視点
しおりを挟むーそして3年の時が流れていたー
ある日いきなりアドリエーヌと近衛兵のカールが恋仲だと衝撃的な噂が流れる。
事の真相を問いただすと、アドリエーヌが泣きながらカールを愛してしまったと話してくれた。
泣く彼女を慰める。何も悪い事ではない。若い男女が好き合うのは当たり前のことでいい事なのだから。
ただ、アドリエーヌが純潔を失ったと言わなければ何事もなかったのだろうが。
そのことがランベラートの耳に入ると事は早かった。
すぐにエリザベートを聖女にすると議会で強引に決めてアドリエーヌを聖女の座から引きずりおろした。
おまけに彼女の付けていた守護の宝輪までも奪ってしまった。あれはアドリエーヌのもので彼女の身を守るためにとクレティオス帝が娘に持たせたものだったのに、一体どうする気なんだ?
いくら私がそんな事を言ってもエリザベートは全く取り合わない。
ランベラートも一緒になって私を悪者に仕立て上げてしまう。
聖女の管理もろくに出来ない王だと、そしてエリザベートが占いを行うようになる。
そうなるともうあのふたりの思うままになってしまった。
皆聖女の言うことを信じるのがこの国のしきたりだ。
エリザベートの占いで私は皇王にふさわしくないと言われ幽閉されることになった。
私は王でもあるがまず妻とアルベルトを守らなければならない。
その時アドリエーヌが金色の櫛を私に差し出した。
「これは身を守るお守りです。私のしたことは愚かなことだったのかもしれません。でもどうしてもカールを愛することをやめることは出来なかったんです。コステラート王どうか私をお許し下さい」泣きながらアドリエーヌが言った。
でも私はそんな大事なものを受け取れないと言ったが、彼女はどうしても受け取って欲しいと言って聞かなかった。
私はその金色の美しい櫛を受け取った。
そのおかげか家族は皆無事だった。だが、そのうち私にエリザベートが作った薬湯を飲むようにと言われる。
薬湯には多分毒が入っているのではと思った。だが飲まなければ家族に危害を加えると言われて私は黙ってそのまま薬湯を飲むしかなくなった。
日に日に身体の具合が悪くなった。呼吸がしづらくなり、腹の具合も悪くなった。
妻のビクトリアは飲まないでくれと私に懇願した。だが、私はふたりの命の保証を約束させて何も言わず薬湯を飲み続けた。
きっともうすぐ私は死ぬだろう。残されたビクトリアやアルベルトの事を思うと胸が苦しくなる。
だが、すぐに死ぬだろうと思われた私は意外にもしぶとかったらしい。
きっとアドリエーヌが持たせてくれたあのお守りの櫛のおかげかも知れない。
私は死んだあとこの櫛を肌身離さず持っておくようにとビクトリアに話しておいた。
いくらお守りの力をもってしても、この命はあまり長くは持ちそうにはなかった。きっとエリザベートが毒の効き目が悪いともっと多くの毒を入れているのだろう。
ランベラートが私を訪ねて来た時に、必ず妻と子供の命だけは助ける約束を果たせと確約書を書かせた。
これを一緒にこの日記に入れておく。
ビクトリアにもこの事を話しておかなければ、必ずふたりが無事に生きて行けるようにと私はそれだけを願っている。
身体がだるく意識もあいまいになっている。しっかりしなければと思うが猛毒は私の身体のほとんどをむしばんでいるだろう。
日記もいつまで書いていられるかわからない。
アルベルトお前は次の皇王となる身だということを忘れてはならない。
もしランベラートが間違った行いをしていたら迷わずお前が王になるんだ。
エリザベートの考え方は母親に似たのか底意地が悪いと私は思っている。彼女を聖女にしたくはなかった。
それが一番の問題だろう。エリザベートが悪い考えを起こさなければいいのだが…力不足の父ですまん。
だが、お前には強く正しい王になってほしい。
それにアドリエーヌの事も心配でならん。彼女のお腹には子供がいると聞いた。カールの父ラッセルも宰相をやめさせられて伯爵の爵位も奪われたと聞いた。そしてカールもアドリエーヌをかばって亡くなったとも聞いた。
彼女を助けてやりたいが今の私にはどうすることも出来ない。ラッセルには陰ながらアドリエーヌを支えるように頼んでおいたが、たったひとりで心細い思いをしているだろう。
すべて心残りだ。
こんな終わり方をするなんて私は本当に情けない王だ。
どうか我が息子よ。この国をエストラード皇国を頼む。
また明日も日記が書ければよいが…
日記はそこで終わっていた。
こんなことがあったなんて知らなかった。父が毒殺されたなんて…
俺達を助けるために毒薬と知って毎日、毎日毒を飲み続けていたなんて
俺は…俺は知らなかった。
どうしてもっと早く父の事を知ろうとしなかったんだ。
もっと早く知っていればランベラートとエリザベートをあのままにはしておかなかったのに…
だが、あの時俺はまだ3歳。そんなこと出来るはずもなかった。
涙は信じられないくらい瞳から溢れて、そのまま頬を伝い喉元を流れ落ちて行った。
喉の奥がひきつり胃が押し上げられる。
身体中がわなわなと震え悔しさで唇を力いっぱい噛みしめていた。
こんなことはしてはいられない。
俺は絶対にあのふたりを許さない!
そして俺は大変な事に気づく。
父はアドリエーヌから金色の櫛を渡されたと…?
箱に入っていたのがきっとアドリエーヌの櫛に違いない。
とすればこの俺が持っている櫛は?
まさか…シャルロットのではなくカロリーナの櫛なのか?
ふたりともコンステンサ帝国の王女だった女性だ。こんな高価な櫛を平民が持てるはずがない。
嘘だろ!
じゃ、この櫛は…カロリーナの櫛だったのかもしれない。
だからといって俺はその櫛を離さずにはいられなかった。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
【R18】幼馴染な陛下は、わたくしのおっぱいお好きですか?💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に告白したら、両思いだと分かったので、甘々な毎日になりました。
でも陛下、本当にわたくしに御不満はございませんか?
かつて私を愛した夫はもういない 偽装結婚のお飾り妻なので溺愛からは逃げ出したい
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※また後日、後日談を掲載予定。
一代で財を築き上げた青年実業家の青年レオパルト。彼は社交性に富み、女性たちの憧れの的だった。
上流階級の出身であるダイアナは、かつて、そんな彼から情熱的に求められ、身分差を乗り越えて結婚することになった。
幸せになると信じたはずの結婚だったが、新婚数日で、レオパルトの不実が発覚する。
どうして良いのか分からなくなったダイアナは、レオパルトを避けるようになり、家庭内別居のような状態が数年続いていた。
夫から求められず、苦痛な毎日を過ごしていたダイアナ。宗教にすがりたくなった彼女は、ある時、神父を呼び寄せたのだが、それを勘違いしたレオパルトが激高する。辛くなったダイアナは家を出ることにして――。
明るく社交的な夫を持った、大人しい妻。
どうして彼は二年間、妻を求めなかったのか――?
勘違いですれ違っていた夫婦の誤解が解けて仲直りをした後、苦難を乗り越え、再度愛し合うようになるまでの物語。
※本編全23話の完結済の作品。アルファポリス様では、読みやすいように1話を3〜4分割にして投稿中。
※ムーンライト様にて、11/10~12/1に本編連載していた完結作品になります。現在、ムーンライト様では本編の雰囲気とは違い明るい後日談を投稿中です。
※R18に※。作者の他作品よりも本編はおとなしめ。
※ムーンライト33作品目にして、初めて、日間総合1位、週間総合1位をとることができた作品になります。
隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
グルブランソン国ヘドマン辺境伯の娘であるアルベティーナ。幼い頃から私兵団の訓練に紛れ込んでいた彼女は、王国騎士団の女性騎士に抜擢される。だが、なぜかグルブランソン国の王太子が彼女を婚約者候補にと指名した。婚約者候補から外れたいアルベティーナは、騎士団団長であるルドルフに純潔をもらってくれと言い出す。王族に嫁ぐには処女性が求められるため、それを失えば婚約者候補から外れるだろうと安易に考えたのだ。ルドルフとは何度か仕事を一緒にこなしているため、アルベティーナが家族以外に心を許せる唯一の男性だったのだが――
【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話
もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。
詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。
え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか?
え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか?
え? 私、アースさん専用の聖女なんですか?
魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。
※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。
※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。
※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。
R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話
象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。
ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
色々と疲れた乙女は最強の騎士様の甘い攻撃に陥落しました
灰兎
恋愛
「ルイーズ、もう少し脚を開けますか?」優しく聞いてくれるマチアスは、多分、もう待ちきれないのを必死に我慢してくれている。
恋愛経験も無いままに婚約破棄まで経験して、色々と疲れているお年頃の女の子、ルイーズ。優秀で容姿端麗なのに恋愛初心者のルイーズ相手には四苦八苦、でもやっぱり最後には絶対無敵の最強だった騎士、マチアス。二人の両片思いは色んな意味でもう我慢出来なくなった騎士様によってぶち壊されました。めでたしめでたし。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる