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 翌日ヨーゼフ先生が夜会に行くならとお母様のドレスを私に持って来てくれた。

 ヨーゼフ先生のお母様も公爵の称号はく奪の一件の後すっかり気を弱くして病で亡くなったのだと。

 一体どれほどの人があのふたりのせいで犠牲になったのだろう。

 絶対に夜会でロベルトの真意を聞かせてもらわなければ…



 「シャルロット、夜会に行くならドレスが必要だ。母のドレスなんだが、どうかな?」

 「まあ、素晴らしいドレスですけど、私に入りますかね?」

 「どうだろう。そんな事はさっぱりわからないから」

 「そうだ。ルミドブール家の侍女のアビーに相談してみます。きっと何とかなります」



 私はその日の午後こっそりルミドブール家の裏口からアビーを呼んだ。

 「アビー相談があるの」

 「まあ、シャルロット様、何ですか?」

 「あのね。私今度の夜会に出席することになって」

 「まあ、すごいじゃないですか。それでどなたと?」

 「ええ、マール様が誘ってくださって」

 「まあ、素敵。それでドレスは?ドレスはどうなさいます?」

 「ヨーゼフ先生がね…」

 事情をすべて話すわけにもいかずそんな説明するとアビーは快く引き受けてくれた。



 そっとルミドブール家のアビーの部屋に忍び込むとヨーゼフ先生が出してくれたドレスを何着か着てみた。

 「まあ、サイズは少し詰めれば何とかなりそうですが…このデザインではねぇ…」

 「まあ、それは…少し色もあせているし…」

 よく見ると胸元のレース部分が黄ばんでいたり、別のドレスは袖のあたりが色あせていた。



 「どうでしょう。ドレスのきれいな部分を使ってリメイクしてみます?」

 「ええ、そんなこと出来るのアビー」

 「ええ、これでも洋裁は得意なんです」

 「私も手伝うわ。何をしたらいいかしら?」

 私たちは3着のドレスを見ながらデザインを考えて、ほどいたり切り開いたりし始めた。



 ベースは淡いマスカットグリーンのドレス。

 私がグリーンの瞳にしているからで、髪が淡いピンク色なので濃い色は会わないだろうと。

 それにオフホワイト色のレースを腰から下にたっぷりギャザーを入れてかぶせるようにする。

 首周りはデコルテのデザインにして胸周りはぴったりとさせて、そこにはホワイトの豪華なレースを使う。

 そのレースに沿って淡いオレンジやレモン色のようなきれいな黄色や同じレースの生地で小さなユリの花を作ってそれをあしらうことにする。



 ユリの花は私が持ち帰って作ることになった。

 アビーに全部やってもらうわけにはいかないわ。それに時間もないもの。

 ユリの花弁は小さな二等辺三角形に切った生地を縫い合わせて作った。

 一片一片のそれを合わせてユリの花を作って行く。それはお母様が好きだったニオイイリスにも似ていてシャルロットは胸が熱くなった。

 思わず花を作りながら涙がこぼれる。

 アビーがいなくて良かった。そんな事を思いながらひとつひとつ花を仕上げて行った。



 スカート部分のレースにもユリの花を散らしたらどうかという話になってますます作る数が増える。

 もちろん髪飾りも同じ小さなユリの花をあしらえばと。

 私は寝る間も惜しんでその花々を作った。

 これを着ていよいよふたりを倒すための行動が起こせるなんて…

 ああ…お母様…



 そして夜会の前日ドレスは仕上がった。

 「うわー素敵。これ本当にリメイクなのアビー?」

 「ええ、なんだか想像よりすごくいいですわシャルロット様」

 「まるでお姫様みたい。こんな素敵なドレスが着れるなんて夢みたいだわ」

 私は子供みたいにはしゃいでくるくる回って見せる。



 「さあ、シャルロット様、まだ仕上げがありますよ。ほんとにシャルロット様が作ったこのユリの花すごくきれい。私は最後にこれを胸周りにきれいに飾り付けますから、それからレースにも散らして…きっといちばんきれいです」

 私はビクリとする。

 マール様にエスコートしてもらえるのはすごくラッキーだったけど、もしアルベルト様がエスコートしてくれたら…

 そんな考えが頭をよぎった。

 そんな事あるはずもないのに、何を期待しているのよ私ったら…

 お母様やカロリーナの事できっと感傷的になってるせいね。

 ああ…いやだ。いやだ。あんな人の事なんか忘れてしまいなさい!

 と思っていたらいきなり声がした。



 「アビー一体何をしている?」

 声を掛けたのはアルベルト様だった。

 あまりに騒いでいたので見つかってしまう。

 アビーは急いで部屋から出て旦那様に謝る。

 「すみません旦那様。いとこが来ていて今度の夜会に行けることになってドレスを…」

 「そうか。あの夜会は女性なら誰でも行けるからな。そうだアビーも行けばいい。それにベルやルナたちも」

 「滅相もありません。ドレスもないですし仕事もありますから…それにあんなところ緊張して肩が凝ってしまいますから私は結構です」

 「そうなのか?私は女性なら誰しも行ってみたいと思うのかと思っていた。そうではないのか…ではシャルロットはどうだろう?」

 「シャルロット様は行ってみたいんじゃないでしょうか。あんなに美しいんですからドレスを着たらどれほどお美しいか知れませんもの」



 「そうか…」

 「あの…旦那様。シャルロット様をお誘いして見てはいかがですか?」

 「私がか?」

 しばしの沈黙。

 「無理だ!シャルロットを夜会になど…あんな美しい人を他の男の目に晒すなんて…出来るわけがないだろう。ああ…やっぱりだめだ…」

 「だ、旦那様…血が…大丈夫ですか、すぐにトルーズ様を…」

 「これくらい平気、だ…」

 そう言った矢先アルベルト様は倒れてしまう。

 「旦那様。旦那様…誰か助けて」

 アビーの叫び声がして私は急いで様子を伺う。

 「アビー?」



 
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