よりによって人生で最悪な時に再会した初恋の人がじれじれの皇太子だったなんておまけに私死んだことになってましたから

はなまる

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 その夜夕食が終わると私は何だか寝付けなくてヨーゼフ先生に誘われてワインをごちそうになった。

 リビングではなくダイニングでワインを飲んでいると、ヨーゼフ先生のお父様が入って来られた。

 「ああ、父だよ。父さんこちらはシャルロット・カッセル。家で働いてもらってるんだ、すごくよく働いてくれて助かってるんだ」

 「あの、ご挨拶が遅れまして申し訳ありません。シャルロットです。どうぞよろしくお願いします」

 「ああ、私はラッセル・ジェルディオンだ。最近食事の支度がきちんとしてあったのは君のおかげだったのか?」

 「いえ、口に会えば良かったんですが、差し出がましいことをして申し訳ありません」

 「とんでもない、すごく美味しかったよ。久しぶりにまともな食事が出来てこんなうれしいことはない」



 「あのジェルディオン様…お食事まだですよね?すぐに支度しますから座ってて下さい」

 「すまん。シャルロット私の事はラッセルでいいから」

 「はい、ラッセル様」


 私はすぐにポトフを温め直してテーブルの上に置いた。

 ラッセル様はどれもおいしそうに平らげた。

 具合もそんなに悪いふうにも見えなくて安心した。

 それからラッセル様も加わって3人でワインを飲み始めた。


 しばらくするとラッセル様は昔の話を始めた。

 ヨーゼフ先生はもういいからと言ったが、私は初めて聞くのでとても聞きたかった。

 「ラッセル様、是非お話聞かせてください」

 「ほらみろ。シャルロットは優しいな」

 そう言って嬉しそうに話を始めた。

 それはラッセル様がまだ宰相をしていたころの話で、コンステラート皇王に子供が生まれ、聖女アドリエーヌを迎えた頃の話だった。



 国はますます発展してコンステンサ帝国との取引も順調でおかげで国の水道整備や道路整備着々と進んで、ブランカスター公爵やリシュリート公爵ともうまく行っていた。

 石炭事業や鉄鉱石事業も各公爵の手助けもあって新しい鉱山の開拓にも着手していた。

 燃える水のおかげで街の外灯や台所事情も良くなり各地の領地もすべて順調だった。

 だが、弟のランベラートが何かにつけて手厳しい事を言っては事業が頓挫することもしばしばで皇王も困っていた。

 それに聖女を自分の娘にしなかったことも妬んでいてアドリエーヌ様を追い落とそうと何かにつけて文句を言ったのだと。



 そしてラッセル様は辛そうな顔をして話をつづけた。

 「だが、アドリエーヌ様がカールとそんな仲になっていたとは思いもよらなかった。カールもそれがどういう事かわかっていたはずなのに…私も責任を取らされて宰相の地位を奪われ公爵の称号も領地も奪われた。アドリエーヌ様が純潔でなくなったとの噂はあっという間に広まった。その噂もきっとランベラートが流したのだろう。そしてアドリエーヌ様が聖女の座から降ろされると変わってランベラートの娘エリザベートが聖女となった。エリザベートは占いでアドリエーヌ様を死刑にしないと悪いことが起きると言って、でもコンステラート様はアドリエーヌ様がコンステンサ帝国の大事な王女と分かっていたから、全力でそれを止めたんだ。その頃からコンステラート様も幽閉されて身体の具合も悪くなり始めたんだ。聖女がみんなに体に良い薬湯だと言って進めたのもその頃で、具合が悪くなったコンステラート様の目をかいくぐってアドリエーヌ様は投獄されることになって、カールはそれをやめさせようとして殺された。後で知ったんだ。アドリエーヌのお腹にはカールの子供がいたと…それで私は彼女に差し入れを頼むことにした。これでも宰相と言う職にあったせいか、牢番の一人は元うちの雇人だったり、悪いことをしたが穏便にすませた伯爵の息子が近衛兵にいたりしてそんな人たちに助けられながらアドリエーヌを見守った。でもコンステラート様が亡くなるとエリザベートはアドリエーヌをすぐにでも殺してしまいそうで、だが妊娠している女性を殺すなど神をも恐れる所業だとコンステラート様寄りの貴族院の議員もかばってくれて、それで処刑は引き延ばされた。だがエリザベートは、生まれた子供はすぐに彼女から引き離すと言って聞かなかった。私はアドリエーヌが逃げれるようにカロリーナに協力を頼んだんだ。彼女はコンステンサ帝国の秘密機関で働いていたから彼女ならアドリエーヌを連れて逃げれると思ったんだが…」



 私は話しを聞きながらお母様がどんな辛い目に遭っていたかを知って涙が流れた。

 そしてカロリーナがそんな組織で働ていたと知って思わず声が出た。

 「まさか…カロリーナがそんな組織で…知らなかった。私…」

 思わずお母様の事もしゃべってしまいそうになって慌てて口を閉じた。

 「子供の時にカロリーナに拾われて彼女が育ての親なんです」

 

 「そうか、カロリーナも傷ついただろう。アドリエーヌが赤ん坊もろとも自ら火を放って炎に包まれたのを見たと聞いた。それで君を育てたのかもしれんな…」

 えっ?お母様は自分で火を放ったの?それで遺骨だけが…

 ああ…お母様どんなにお辛かったか。

 私は嗚咽を漏らしそうになる。

 こんなことを知られるわけには、私が泣いているのは育ての親のカロリーナの事で動揺してるから…って思わせなければ。

 思考を全力でカロリーナに向ける。

 でも…

 「でも、カロリーナほどの力があればアドリエーヌを救い出せたのではないんですか?」

 「ああ、私もそう思う。でもアドリエーヌは長く牢獄で過ごすうちにすっかり希望を失っていたのかもしれない。カールも死に国に帰って自分だけが王女として生きていくことは耐えられなかったのかも知れない。それにエリザベートはすぐに処刑するといきまいていたし…」

 「ええ、きっと耐えられないほどの苦しみを味わったんでしょうね。でも、でも赤ちゃんはカロリーナに助けれたのでは?」

 あっ、余計なことを言った。思わず口元を手で押さえた。



 「ああ、当たり前に考えればそうかも知れん。だが、あの状況ではきっとまともな判断など無理だったんだろう。可哀想に…私は幽閉されていたしレオンやヨーゼフもまだ小さかった。私が殺されてでも彼女を守るべきだったのに…死んだ彼女や赤ん坊の事を思うと…今でも胸が張り裂けてしまいそうで…いや、すまん。こんな話するつもりではなかったんだ。おいしい料理をありがとう。私はもう部屋に戻る」

 ラッセル様はすっかり元気をなくして椅子から立ち上がると自分お部屋に戻ろうと立ち上がった。

 彼の部屋は一階の一番西側にあるらしい。



 その時だった。ラッセル様が私を見て目を見開いた。

 「シャルロット…君はアドリエーヌによく似ている。その髪色といい緋色の瞳なんか…もしかして…いや、すまん。そんなはずがあるはずがない。こんな話をしたから感情が高ぶったのかもしれないな…」

 私の顔は驚きで固まった。

 だが、彼は苦笑すると部屋に戻って行った。


 もぉぉ、私ったら…自分でも墓穴を掘るようなことを…心臓が冷水を浴びせられたみたいにひやりとした。



 「まったく…悪かったね。気分悪い話で」

 「いえ、とんでもありません。ヨーゼフ先生。私の気持ちは決まりました。今度の夜会でロベルト様とふたりきりになれるようにします。それに私たちが聞いたことを他言できないようにしなくてはなりません。眠り薬を使って私とロベルトさまの間にそのような事があったように見せかけるのはどうでしょう?そして彼の考えをはっきり聞いて‥それに、彼には弱みを持たせこの話が絶対に誰にも漏れないようにしたらいいのでは…」



 「ああ、それはそうだが…シャルロット本当にいいのか?そんな真似。下手したら君の純潔が…」

 「だから眠り薬を使うんです。眠っている間にロベルトの服を脱がせて、私も少し髪や服を乱れさせて…ロベルトが起きたら事が終わった後だと思い込ませればいいんです。それは先生たちの役目ですからね。お願いしますよ」

 「ああ、任せてくれ。よし、では綿密な作戦を立てなくてはな」


 それにしてもお母様と私は似ているって、お母様も私の様な顔立ちだったのかしら…そういえばクレティオス帝もそんな事をおっしゃっていたわ。

 私は部屋に戻って鏡を見た。

 そして鏡に向かって言った。

 「お母様、あなたの仇は取りますから、天国でカロリーナと私を見守っていて下さい」





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