よりによって人生で最悪な時に再会した初恋の人がじれじれの皇太子だったなんておまけに私死んだことになってましたから

はなまる

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25アルベルト視点

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 「ヨーゼフ!マールの容体はどうなんだ?」

 俺はヨーゼフの家の診察室にどかどか入って行く。

 「あっ、アルベルト様。邪魔です。心臓が‥とにかく心臓マッサージを」

 ヨーゼフはマールの心臓を両手で体重をかけて押していた。

 周りにはマールを連れて来た騎士隊の奴らが取り囲んでいた。

 「おい、お前ら先生と変われ、次々に変わってマッサージを続けるんだ」

 「はい、先生変わります」

 「いいか、ここを強く押すんだ」

 「はい」

 騎士隊の人間が心臓をマッサージをする。



 シャルロットはマールに近づいて匂いを嗅いでいる。

 はっとなにかに気づいたかのように「先生!私トリカブトを持ってます」と言った。

 シャルロットは急いで部屋を出ていった。


 「トリカブト?」

 そう言えば俺が倒れた時もトリカブトを飲ませたって…

 まさかまた今度も口移しで?いやシャルロットがしなくてもこれだけいるんだから。

 俺の頭にあの時の記憶が蘇る。


 シャルロットは走って帰って来たのか息が荒い。

 「先生、心臓にはトリカブトを飲ませればもしかしたら…」

 「そうか。シャルロットよく気づいた。すぐに」

 「はい、すぐに」

 シャルロットは小さな小瓶から耳かきひとさじほどの粉を二回ほどカップに入れて水を入れてかき混ぜた。


 「これを…」

 「シャルロットこれをどうやって飲ませるんだ?」

 ヨーゼフ先生がバカな質問をする。

 何を言ってるんだ。

 「ああ…いいです。私がやります。ちょっとどいて下さい!」


 シャルロット?まさか君は自分で…だめだ。だめだ。だめだ。

 「待て、俺がやる。そんな危険なものを君の口に入れるわけにはいかない!」

 「アルベルト様が?」


 俺は何か言いたげなシャルロットからカップを奪い取るとカップの液体を口に含む。

 マールの体を起こして彼の口を開く。そしてその液体を口移しで流し込む。

 そうやって何度かトリカブトを飲ませた。



 「あ、アルベルト様…」

 「俺は大丈夫だ」と言ったが気分は最悪だ。男にキスするなんて…

 周りの騎士隊の奴らは面白がってにやけている。

 「おい、これは立派な医療行為なんだからな。マールを助けたいだろう?」

 「もちろんです」

 マールにトリカブトを飲ませると次はシャルロットがマールの体に手のひらをかざして魔力を送り始めた。

 初めて見るが何だか神秘的なそれはとても神聖なものに思えた。

 みんなマールが助けるように祈りを一つにしてシャルロットと一緒にパワーを送る。

 シャルロトがすべての力を注ぎ込んだかのようにふらついた。

 俺は思わず手を差しだして彼女の身体を支えた。

 「あ、ありがとう…大丈夫ですから…」

 シャルロットは俺からすぐに離れた。

 マールの意識は戻らない。みんなが固唾をのんで見守る。


 「マールは?マールはどうなんです?」

 「あんなものを飲ませて大丈夫なのか?」

 隊員たちが口々に聞いた。

 「皆さん。トリカブトは少量なら心臓の薬になるんです。もし薬が効けば心臓が動き始めるはずです…」

 ヨーゼフ先生が話をしている途中でマールが「ゲホゲホ」咳をした。

 「マール?」

 「隊長。しっかりしてください」



 みんながマールを見つめる中マールが目を開けた。

 「マール、ゆっくり息を吸って…吐いて…もう一度吸って…吐いて…ああ、顔色が良くなってきた。どうだ気分は?」

 「僕は一体…?」

 「良かった。君の心臓は止まっていたんだよ。でももう大丈夫だ。でもしばらく安静にしててくれ」

 「みんなマールをベッドに運んでくれないか?」

 診察室の隣にはベッドが置かれていた。

 そこにマールが運ばれて先生も付いて行った。

 そしてマールの無事を確かめると安心して隊員たちは帰って行った。



 入れ替わりにブランカスター公爵が見えた。

 「先生。息子は?マールは?」

 「公爵。無事です。でも危なかったんです。心臓が止まっていたんです。でも彼女がトリカブトを持っていたおかげで助けりました。それからルミドブール公爵も助けて下さったんですよ。でもマールはまだ安静が必要です。今夜はここで様子を見させて下さい」

 「もちろんです。ありがとうございました」



 ブランカスター公爵が部屋から出てくると俺とかち合った。

 「これはルミドブール公爵、マールが世話になったそうで助かりました」

 「いえ、こちらの女性のおかげです」

 「この方は?」

 「あ、あの…私はここでお世話になっているものでシャルロットと言います。実はこんなことを言うのは…マール様から薬草の匂いがしまして…あの匂いアルベルト様が飲んでいたものと似ていると思って、もしかしてマール様もエリザベート様から薬湯を?」

 「どうしてそれを?マールは肺炎を起こしてそれをエリザべーと様に助けてもらってから彼女の作る薬湯をいつも持ち歩いていて、常にそれを飲んでいるんだ」



 俺は驚いた。

 「待って下さい。マールもあの薬湯を?」

 「ああ、マールだけじゃない。他にもたくさんの伯爵のご婦人や子供などが薬湯を頂いていると聞いている」

 シャルロットが驚いて口を開いた。

 「こんなことを言ってはどうかと思いますが…あの薬湯にはスズランが入っていたんです。スズランは心臓の働きを悪くする効果があって、何かの拍子に心臓に負担がかかると一瞬で心臓発作を起こす可能性があるんです」

 「まさか…君、失礼だぞ」

 ブランカスター公爵がシャルロットを睨みつけた。



 「……」

 「ブランカスター公爵。聞いて下さい。実は私も同じ目に遭ったんです。彼女がいなかったら死んでいたでしょう。同じ薬湯を私もエリザベートから貰っていたんです。ぜんそくに効く薬湯だと言われて…」

 「ルミドブール公爵…ではマールは命を狙われていたことに?」

 「恐らく…」

 「くっそ!ランベラート皇王はリシュリート公爵と手を組んで私を潰すつもりなのか…ルミドブール公爵近いうちにお話が」

 「……今はマールの事が先ですよ」

 「ええ、もちろんです。ではまた近いうちに…」

 ブランカスター公爵は一度帰って来るらしい。慌ただしく出て行った。

 俺は公爵が思っていることが何となくわかった。

 勘弁してくれ!俺にはそんなつもりはないんだ。



 俺はほっと息をついた。

 そしてシャルロットを見た。俺は彼女が誇らしかった。

 もう待ってなんかいられなかった。

 謝るなら今しかない。

 俺はシャルロットの前に立って彼女を手をそっと取った。

 シャルロットは手を払いのけることもなく俺に手を預けてくれた。


 「シャルロット…君はすごい人だな。前回は俺の命を救ってくれた。今回も大切な仲間を助けてくれてありがとう。それから…あんなに怒ってすまなかった。俺はいつも人から傷つけられてばかりだったから…君はそんな事をする人じゃないってわかってたのに悪かった」

 俺は深く頭を下げた。

 俺は人に頭を下げたことがあっただろうか?きっと初めてだ。でも悪かったことを素直に謝るのは気持ちがいいとこの時初めて知った。



 「いいえ、アルベルト様、私が最初に嘘をついたのがいけなかったんですから…私こそごめんなさい。あの後本当のことを言うつもりだった事は本心です。それにあなたがずっと心配でした。でもルミノブール公爵様が貴方だったなんて驚きました」

 「ああ…ルミドブールは、母の姓なんだ。それにしても…シャルロット…すごくきれいな名前だ。シャルロット…シャルロット」

 「もう、アルベルト様ったら…私…その…先生のお手伝いがあるので」

 「ああ、そうだな。それで今夜は帰って来てくれる?」

 「あのでもこちらに置いて欲しいって言ったばかりで…ちょっとそれは言いにくいかも…」



 「シャルロットまさか…ヨーゼフ先生が好きなのか?」

 「もちろん先生は好きですけど」

 「わかった。悪かったよ無理を言って、俺は帰る」

 また頭に血が上った。

 シャルロットはヨーゼフが好きなんだ。俺の事なんか!すぐに身体がくるりと回って玄関に向かった。

 シャルロットなんか嫌いだ。櫛は絶対に返さないからな!



 「はぁ…アルベルトさ、ま?」

 

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