7 / 61
7
しおりを挟むパニックになった。
何とかしなきゃ…落ち着いて。カロリーナだったらどうする?
脳内に声が聞こえた気がする。
(しっかりして!彼の様子をよく見て、脈はある?息はしてる?もしかして毒かもしれないわ。何か匂いとかはしてないか確かめて)
なぜか死んだはずのカロリーナの声が聞こえたような。
まさか…
とにかくアルベルトの様子を観察しながら、苦しそうなので彼の襟のボタンをゆるめる。
アルベルトは意識はなかったが、脈もあったし、息もしている。顔に近づいて匂いを嗅いでみる。さっき飲んだオオバコとヨモギかしら?ちょっと待って…これは‥‥スズラン?
でもどうしてスズランの匂いが?
はっとして、彼の持っていた水筒に駆け寄った。
その中にはぜんそくに効く薬湯が入っていると彼は言っていた。
中の液体の匂いを嗅いでみる。
おかしいわ。レモングラスにコリアンダー、そしてやっぱりスズランが入っている。
でも、スズランってかなり毒性が強いはず。頭痛や下手をしたら心臓麻痺を起こす可能性だってあるのに?
もしかしてスズランの匂いをごまかすためにコリアンダーやレモングラスを入れてるの?
そうだとしたら、私は大失敗をしたことになる。
オオバコには血液の循環を良くする作用があって、心臓麻痺を起こしやすいスズランと一緒に身体に入れたら…
ああ…たいへん!
私はもう一度アルベルトの胸に耳を当てて心臓の鼓動を確かめる。
たくましい筋肉の下で脈打つ音は弱々しかった。
「どうしよう。脈がかなり弱ってるみたい…」
(いいから落ち着いて。心臓には何が効く?)
まるでカロリーナとやり取りしているみたいに脳内でやり取りをする。
ううん?確か心臓の薬と言えば…あっ!トリカブトだわ。
私は急いでリビングの奥にある仕事部屋に走る。
棚からトリカブトの根を乾燥させて粉末にしてあるビンを取り出す。
もちろん薬として使えるようにした粉末をひとさじすくいそれを容器に入れる。
それを持って湯冷ましで溶かしアルベルトのそばに近づく。
「アルベルト様しっかりして。目を覚ましてこれを飲んで」
身体を揺すっても彼はピクリとも動かない。仕方なく唇を無理に開かせて匙ですくった液体を流し込んでみるが、液体は口の端から零れ落ちてしまう。
ああ…もうどうすればいいの?
あぁ、もう…アルベルト…
早くしないと死んじゃう!?
思い余った私はその液体を口に含んだ。
そしてアルベルトの唇に自分の唇を重ねる。
とにかく彼を助ける事だけを考える。
(お願いアルベルト様これを飲み下してちょうだい)そんな願いを込めながら私は彼の口の中に液体を流し込んで行く。
彼は少しずつ液体を喉に流し込んで行く。
そうやって何度か液体を彼に飲ませた。
しばらくするとアルベルトの顔に赤みがさしてきた。
脈もしっかりして来たように思う。
でも意識が戻らない。
きっと大丈夫よ。私にできるのはこれしかないんだし、他の手の施しようがないもの。
床に寝かせておくのはかわいそうだけど私ひとりじゃとてもこんな大きな体。
彼を抱き上げるのは無理だわ。
仕方なくクッションを頭の下に差しこんで、しまった毛布を取り出して彼にかけると彼のそばに座り込む。
(おへそに力を込めてそこにパワーを集めるの。そしてそのパワーをあなたの手の平から彼の身体に注ぐつもりで、彼の体の上にかざして念じるのよ。意識を取り戻せって、毒よ消え去れって念じて)
また誰かの声がした気が。
「そんなの無理よ。だってカロリーナは何も教えてくれなかったじゃない!」
天井に向かって叫ぶけど、そこには誰もいない。
(あなたしかいないの。彼を救えるのはあなただけ。絶対に出来るわ。さあやって!)
いきなりやってだなんて戸惑うが、目の前にいる人を放っておくことなんて出来るはずもない。
私はおへその周りに力を込める。
ぎゅっとパワーを集めるとそのパワーをアルベルトに向かって放出するみたいに手を前にかざした。
目を覚ましてアルベルト様。あなたはこんなところで死んではだめよ。さあ、目を覚まして…忌々しい毒なんか消えてしまいなさい!
何度もそうやって彼にパワーを送る。
「…・・はぁ、はぁ、はぁ‥」何でもない事みたいに思えたが何度もそうやってパワーを送っていると身体中の力がなくなって行くみたいで呼吸が乱れた。
とうとう身体のバランスを崩して彼の上に倒れ込んでしまった。
「…ぅうう‥……ん?」
アルベルトが目を開けた。瞳と瞳が合う。
私は彼の上にかぶさっていて、一気に心臓がバクバクしてかぁっと熱くなる。
「……あの、私。違うのこれは…」
バタバタと彼の上から下りようとするが慌て過ぎて要領を得ない。
もがいていると彼の腕がぎゅっと私の腰に回された。
「危ない!待て、俺はどうしたんだ…」
アルベルトがぐるりと頭を回す。
自分が床に転がっていることに気づくと話は早かった。
「そうだ。俺は胸が苦しくなって床に転がって…」
「そ、そうよ。あなた意識を失って、私もう驚いて…っていいから離してくれない?」
「あっ!すまん…」
アルベルトが手を貸してくれて私はゆっくり彼の身体から上体を起こす。
なぜか彼も私が起き上がるのと同時に起き上がって、私たちはくっついたまま重なり合うように起き上がる。
彼は、はにかんだようにほほ笑んでまた目が合う。
見つめ合うふたり。
ちょっとそんな場合じゃぁ?
「コホン、もう、大丈夫みたいね」
「ああ、そうだな。げっ!口の中がおかしな味がする。何か飲ませたのか?」
彼の顔が面白いほどしかめっ面になっているが。
「ええ、でも取りあえず離れてくれない?」
「いやだって言ったら?それより何だこの味は?」
「あのね。あなたはスズランを飲まされてたのよ。スズランは心臓マヒを起こす恐ろしい毒なのよ。知らなかったの?」
「そんなものいつ?」
「ぜんそくの薬湯って言ってた水筒の中身よ。他にもレモングラスとコリアンダーが入ってるみたいだけど。きっと匂いをごまかすためね。でもほんとに危なかったんだから、私がトリカブトを飲ませなかったら…」
ため息が出た。ほんとに助かって良かったわ。
「噓だろう?それでいつも頭痛がしてたのか?やっぱりレオンが言っていた事は本当なのか?」
彼はぶつぶつ言う。
「何の事?」
「いや、こっちの事だ。気にしないで。それより俺に意識がなかったのにどうやってそんなもの飲ませたんだ?」
今度は不思議そうな顔をした。
そんな事言えるわけないわ!
「それは…秘密です」
思いっきりキスしたことを思い出し顔を背ける。
そんな私はさっきから彼の膝の上に座り腰に腕をまわされて完全に確保された状態だ。
どうしようもないほど恥ずかしい姿なのに、なぜかその温かい感触が気持ちいい。
どうなってるの?
「もしかしてカロリーナ?キスしたのか?嘘だろ!?」
「いえ、違うの。あれはキスじゃなくって医療行為よ。だってあなたに薬を飲ませなきゃ命の危険だってあったんだもの。背に腹は代えられないわ!」
「君の唇がお、おれの…いや、その…悪いけど俺のファーストキスを奪ったのか?」
「そんな事知る訳ないじゃない。あなたがファーストキスなら私だって…」
そう言った瞬間、しまったと思うがもう遅かった。
「カ、カロリーナは120歳なんだよな?それなのにその年でファーストキスなんて嘘だろ?じゃあ、まだ、その、経験はないって事なのか?まあ見かけは10代だけど…」
アルベルトが全身を舐め回すような目つきで見る。
「やめてよ!そんないやらしい目で見るのは」
慌てて彼の膝から離れようとしたが、その前にアルベルトの唇が私に唇に重なってきた。
軽く合された唇はすぐに激しいキスになった。
離れようと思うのに彼の唇は甘くて抱き留められた感触は感じたこともない心地よさで…
ぞくぞくする身体。内側から熱が上がって彼に触れている下半身がジンジン痺れたような感じがして。
しばらくしてやっと唇を解放されるとわたしの唇は蕩けそうなほど気持ちよくて。
思わずもっと欲しいと…な、何を馬鹿な事を。そして口から出た言葉は。
「もぉ、何するのよ!ばっしーん!!」
部屋中に彼の頬をはたいた音が響き渡り、私は彼を突き飛ばして立ちあがった。
「120歳でそんなに動揺するなんて…カロリーナ可愛すぎる…」
アルベルトがそんなことをつぶやき、不思議そうな顔で見つめる。
「今すぐ出て行ってよ!」
何よ!この男。こんな猛獣みたいな男なんかもう知らないんだから!
たじろぎながらも私は叫んだ。
でも身体が熱くて何だかおかしい。
ざわつく感じ。もっとキスしたい。胸が苦しくて、それなのにもっと刺激されたい気がしてくる。
私、どうしたの?
こんなのおかしいはずなのに!?
1
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。
石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。
ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。
そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。
真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる