上 下
38 / 54

37アルナンドの決意一瞬で崩れる

しおりを挟む
 
 そこにばたばたと人が入って来た。

 「殿下お怪我はありませんか?」

 きっと彼の護衛の者だろう。騎士の姿はしていないが身のこなしは近衛兵のものだと思われた。 

 彼はセザリオの前に跪き彼の様子を伺っている。


 そこにもうひとり男が。

 「プリムローズ大丈夫か。おい、お前何をしている。嫌がっている女を無理やりどうにかしようなどと。クッソ!いいから表に出ろ!俺が片を付けてやる」


 こちらはアルナンドだった。

 彼はプリムローズを諦めて別の女性と付き合おうと決めてやっと縁結び処にやって来たところだった。

 中から声が聞こえたと思ったら悲鳴が聞こえて急いで飛び込んだのだ。

 見れば男がプリムローズに無理やり抱きつこうとしていて彼女はそれを拒んでいた。


 かぁっと頭に血が上った。

 男と引きずり表に連れ出す。その後をその男の護衛がやめろとばかりに絡んで来る。

 3人三つ巴になりながら表に出た。

 「あなた。この方がどなたかご存じなのですか?この方はメルクーリ国第2王太子のセザリオ殿下なんですよ。すぐに手を離しなさい。そうでなければ…」

 「そうでなければどうする?言っとくが俺はゼフェリス国竜帝。アルナンド・エステファニアだ。身分で言えば俺の方が上だと思うが?」


 驚いたのはセザリオの方だった。

 「あなたがゼフェリス国の竜帝。アルナンド・エステファニア様?あの生贄の儀式を取りやめると宣言された?」

 「ああ、そうだ」

 「これは失礼したしました。知らなかったとはいえ申し訳ありません。ですがあなたがどうしてこんな所に?」

 「どうしてって。ったく。ここは俺の仕事場だ。プリムローズはここで働いている従業員だが。何か問題か?」

 「いえ、確か…これからはメルクーリ国とゼフェリス国都は友好関係を築いて行こうと言われたと聞いています。なので何に問題もありません。ああ…申し訳ありません。これから急ぎの用があったのを忘れておりました。では、私はこれで失礼します」

 セザリオは恐ろしく慌ててその場から立ち去った。



 アルナンドはセザリオが立ち去るとすぐに中に入って来た。

 「プリムローズ大丈夫か?」

 アルナンドはプリムローズの顔を用心深く見つめた。

 「ええ、すみません。少し驚いただけですから」

 プリムローズは何でもないとついてもいない服のほこりを払う。

 アルナンドは顎に手を当ててその様子を伺っている。

 「それであいつは何だって?」

 「それが…私と婚約したいと…」プリムローズは困った顔でそう言うと首をかしげて「まったく殿下の考えが分かりません」と首を振った。

 「こんやく?まさかあいつが結婚したいと言ったのか?」

 「はい、そうです」

 アルナンドは顎に乗せた手が滑ってがくんと身体を前のめりにずっこけた。


 アルナンドの数時間に及ぶ思慮は一瞬で崩壊する。脳内で激しい嫉妬が吹き荒れ怒りとイライラがむらむらと湧き上がる。

 (プリムローズを嫁に欲しいだと?何をふざけたことを…だ、誰があんな奴に。それくらいなら俺が嫁にするに決まってるだろうが!)

 アルナンドの怒りは頂点に達し魔力がふつふつと湧き起こり紫の瞳に一筋のダイアモンドのような光が宿る。

 「ひぇ~…アルナンド恐いです」

 「あっ!」

 気づけばアルナンドはフロアの半分を氷の海にしていた。

 「もう、どうするんです?私、知りませんからね」

 「いや、こ、これは。そうだ。レイモンドに片付けさせる。何せ俺は竜帝だ。あいつらは俺の言うことは何でも聞くから」

 「どうだか?」


 「こんにちは~」

 そこにやって来たのはカイトだった。

 「あっ、カイトどうしたの?」

 「どうしたって、そっちこそどうしたんだ?これ…」

 「あっ、いいのいいの。これは所長責任で片付けるって言ってるから。それより何?」

 「いきなりで悪いけどちょっと話があるんだ。プリムローズ少し出れないか?」

 「ええ、いいけど。ここじゃ出来ない話?とは言ってもねぇ…」

 プリムローズはそうはいったが周りを見てため息をつく。

 カイトは髪をがしがしかき回した。

 「いや、その…ふたりきりで話が…」

 プリムローズ(あっ、言いにくい事なんだと気づく。きっとだれか気に入った子がいたとか…男ってどうしてこうわかりやすいかな…)とも思うがそこは気づかぬふりで。

 「いいわよカイト。ちょうどひと息つきたっかの。でもそこのカフェは…アルナンド後はよろしくお願いしますね。じゃあ、ちょっと出てきます」

 プリムローズはアルナンドに向かって指先で床を指し示す。

 (帰ってくるまでにここを片付けて下さいよ)と合図を送った。

 「ああ、わかってる。気をつけろよ。まだあいつがその辺りにいるかもしれんからな」

 「ええ、ありがとう。意外と優しいんですね。行ってきます」

 アルナンドはしょんぼり手を振るしかなかったがふと気づく。

 これでも竜人。アルナンドの耳はすごくいい。

 (カイトとか言ったよな。あいつさっきふたりきりで話をしたいって言わなかったか?おい、結婚前の男女がふたりきりでなど…あってはならん事だろう?こうしてはいられない)

 アルナンドはすぐにプリムローズたちの後を追った。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!

恋愛
 男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。  ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。  全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?! ※結構ふざけたラブコメです。 恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。 ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。 前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。 ※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。

ご愛妾様は今日も無口。

ましろ
恋愛
「セレスティーヌ、お願いだ。一言でいい。私に声を聞かせてくれ」 今日もアロイス陛下が懇願している。 「……ご愛妾様、陛下がお呼びです」 「ご愛妾様?」 「……セレスティーヌ様」 名前で呼ぶとようやく俺の方を見た。 彼女が反応するのは俺だけ。陛下の護衛である俺だけなのだ。 軽く手で招かれ、耳元で囁かれる。 後ろからは陛下の殺気がだだ漏れしている。 死にたくないから止めてくれ! 「……セレスティーヌは何と?」 「あのですね、何の為に?と申されております。これ以上何を搾取するのですか、と」 ビキッ!と音がしそうなほど陛下の表情が引き攣った。 違うんだ。本当に彼女がそう言っているんです! 国王陛下と愛妾と、その二人に巻きこまれた護衛のお話。 設定緩めのご都合主義です。

お金目的で王子様に近づいたら、いつの間にか外堀埋められて逃げられなくなっていた……

木野ダック
恋愛
いよいよ食卓が茹でジャガイモ一色で飾られることになった日の朝。貧乏伯爵令嬢ミラ・オーフェルは、決意する。  恋人を作ろう!と。  そして、お金を恵んでもらおう!と。  ターゲットは、おあつらえむきに中庭で読書を楽しむ王子様。  捨て身になった私は、無謀にも無縁の王子様に告白する。勿論、ダメ元。無理だろうなぁって思ったその返事は、まさかの快諾で……?  聞けば、王子にも事情があるみたい!  それならWINWINな関係で丁度良いよね……って思ってたはずなのに!  まさかの狙いは私だった⁉︎  ちょっと浅薄な貧乏令嬢と、狂愛一途な完璧王子の追いかけっこ恋愛譚。  ※王子がストーカー気質なので、苦手な方はご注意いただければ幸いです。

【完結】悪役令嬢に転生したのでこっちから婚約破棄してみました。

ぴえろん
恋愛
私の名前は氷見雪奈。26歳彼氏無し、OLとして平凡な人生を送るアラサーだった。残業で疲れてソファで寝てしまい、慌てて起きたら大好きだった小説「花に愛された少女」に出てくる悪役令嬢の「アリス」に転生していました。・・・・ちょっと待って。アリスって確か、王子の婚約者だけど、王子から寵愛を受けている女の子に嫉妬して毒殺しようとして、その罪で処刑される結末だよね・・・!?いや冗談じゃないから!他人の罪で処刑されるなんて死んでも嫌だから!そうなる前に、王子なんてこっちから婚約破棄してやる!!

処理中です...