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第2章
声と記憶
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ここ四国と言う島国は、4つの国に分かれており、各国に【神獣】と言う守護神が住んでいる。
それが【神の住む国】と呼ばれるそもそもの由縁である。
神獣とはその名の通り動物の姿であるが、元は自然そのものであり、万物の化身と言えるだろう。
そして、四国に点在する神獣達を総称【四神獣】と呼び、さらには陰と陽を司る神獣として崇められている事から、人々は彼らの事を通称【陰陽神】と呼んでいる・・・。
ここは上空・・・。冷たい風が顔をかすめる。鳳凰はポン達を背中に乗せて順調に、かつ快調に空路を飛行中である・・・。
「しかし、鳳凰さまの背中ってとっても温かいんだにゃ~、オイラ寒いの苦手だから助かるにゃ~。」
「本当だね~、ポクは寒いの平気だけど、羽毛がふわふわで気持ち良いねぇ。」
「お家でもこんな羽毛布団で寝たいなぁ~、ねぇみさ?」
「う・・・うん・・・。」
「どうしたの~?みさ~。あっ!もしかして高い所苦手だったっけ?大丈夫?」
「ちょ・・・ちょっとね、でも下向いてるから大丈夫・・・。」
「みさちゃん高い所が苦手なの?
気持ち良いのになぁ~。」
「きもち・・・わるい・・・。」
「みさ!出る?出ちゃう?やばいよ?こんな所で!」
「いや・・・なんとか大丈夫そう。」
「本当?無理しないでね?」
心配したりりがみさの背中をさすっている。
「ありがとうりりくん、肉球が気持ち良い。」
「どういたしましてだにゃ~男は女に優しくするもんなんだにゃ!
にゃははは~。」
その時だった。
突然りりの耳元で声が聞こえ始めた。
『りり・・・りり・・・。』
「ん?誰かオイラの事呼んだかにゃ?」
「誰も呼んでないよ?どしたの?」と、後ろのりりを見てみさが言った。
「あれぇ?おかしいにゃ~?今、女の声がしたにゃ。」
そしてまた声が聞こえてきた。
『りり・・・わたし・・・ヨーコよ・・・。』
「??・・・確かに今ヨーコって!ヨーコさんの声が聞こえたにゃ!みんなも聞こえたかにゃ?」
「いいえ、空耳じゃない?」
「ポクも何も聞こえなかったよ?」みさとポンは眉をひそめて不思議そうに答えた。
「おっかしいにゃ~、確かにハッキリ聞こえたにゃ!」
『りりよ、まさかヨーコの声が聞こえたのか?』そこへ、ホーオスが顔左半分をこちらに向けて話しかけてきた。
「あっ、はい、ハッキリと。」
それを聞いたホーオスは何かを考えるように目を閉じ少し間を置いた。そして再び目を開けると、おもむろに話し始めた。
『本来、りりの守護霊であるヨーコは普通は直接話しかけたり触れたりする事は出来ない、ただ。』
「ただ・・・?」りりは生唾を飲み込みホーオスの話に耳を傾けた。
『ただ1つ例外として【神格化】したとすれば、それは可能なのだ。』
「シンカクカ?・・・それは一体何ですかにゃ?」りりは初めて聞く言葉に首を傾けた。
『端的に言えば、霊体から神体へと位が上がる事だ。ヨーコは何かしらの手段を使い、神格化に成功したという事になる。』
「にゃ、にゃんですと~~!!」
「要するにヨーコさんは神様になったってこと?!りり~凄いじゃん!」
『だが初めは会話出来る時間に制限がある、せいぜい3分程度。
だからりり、ヨーコの話を良く聞いておくのだ!何か大事なメッセージを伝えようとしているのかもしれん!』
「はい!分かりましたにゃ!」
そしてまたりりにヨーコの声が聞こえてくる。
『りり・・・あなたに私の真実を伝えたい・・・だから・・・。
ここから南へ2キロの場所にある
神社に行って・・・行けば分かるわ・・・伊予イナリ神社・・・。」
「ヨーコさんの声が聞こえなくなったにゃ。ポン、鳳凰さまお願いしますにゃ!!」
りりはヨーコからの話の内容をみんなに伝えた。
「りり!当たり前だよ!行こうよ!!僕の事は気にしないで!」
『我らもヨーコが伝えたい事があるのならば知っておきたい!』
「あ、ありがとうございますにゃ!」
こうして急遽一行はヨーコの指示する、伊予イナリ神社へと、一時進路変更する事となった。
『見えてきたぞ!あそこだな!』
その場所には大きな鳥居が見える。鳳凰はゆっくりと大きく旋回しながら下降し、目的地へと無事着陸した。
「みさ大丈夫?」さきがみさを心配そうにしている。
「うん、大丈夫、ありがとう。」
みさは小さく頷きながら答えた。
伊予イナリ神社に到着した一行は大きな鳥居を通り抜けると、目の前に2体、狐の石像が見えてきた。皆はそれに近づき鳳凰以外は、見上げるように見ている。
『これは狛狐だな。』
「コマギツネ?コマイヌみたいだね。」
『そうだ、狛犬が寺の番をしているのに対してイナリ神社は狐が番をしているのだ。』
『その通り!そして偶然にも、こいつらは俺の知り合いなんだ。おい!右近!左近!出てこいよ~!』
銀次郎がそう言うと2体の石像から、スーっと前に向かって2匹の狐が姿を現した。
『相変わらずですね銀さん、紹介が雑と言うか・・・。とにかく、皆さん初めまして向かって右手のわたくしが右近と申します。そして向かって左手が左近と申します。私達は双子の狛狐、以後よろしくお願い致します。』
「初めましてだにゃ狛狐さん!
お聞きしたいんですが、ヨーコさんからここに来れば分かるって言われて来たんですが何か知っていますかにゃ?」
『もちろんです、お待ちしていました。姉さまからはすでにお話は聞いております。』
「あ、姉さま?・・・右近さんと左近さんたちとヨーコさんは一体どう言う関係なんだにゃ?」
『今からそれも含めて、姉さまと私達の【記憶】をあなた方に見て頂きます。左近!行くよ!』
『ええ!いいわよ右近!』
フワァァァァ。右近と左近は周囲に黄色いオーラのような光を放ち始めた。右近は右手、左近は左手から大きなオーラのサークルを作り出し、その中に皆を包み込んだ。
鳳凰はサークルから頭がはみ出てしまうため朱孔雀で小さくなり、パタパタ~っとポンの頭の上に乗った。
「すご~い!何か温かいなぁ
鳳凰さまがお守りから出てきたときの光と似てる~!」
「おぉぉ!何だかドキドキするにゃ~!!」
『皆さん!目を閉じて下さい。記憶の映像が終わるまで決して目を開けないで下さいね。では、私達の記憶の中へとご案内しましょう・・・。』
そして一同は目を閉じたまま記憶の映像の中へと誘われた。
・・・カサカサ・・・カサカサ。
どこかの雑木林の中。草木をかき分けながら進んでいる誰かの目線の映像から始まった。
「いい?決してあいつらには捕まってはダメよ!右近、左近!分かってるわね?さぁ、お行きなさい!」
「姉さまも、ご無事で・・・。」
「では、2手に分かれるわよ!」
「ササササ・・・。」
右近と左近は離れて行く。
場面変わり、違う場所の雑木林。
「あの女狐達は一体どこに隠れた?1匹は妖狐だ!奴が何かに化けちまったら見つけるのに苦労するぞ!」【陰陽導師範・クウコウ】
「確かにそうなればやっかいですね。この辺りに逃げ込んだはずなのですが!一体何処へ隠れたのか。」【陰陽道師・カンコウ】
女狐は、白い野ウサギに化けて左近と右近が追われないように草むらの茂みから敵の様子を伺っている。キョロキョロ、ピョンピョン!とウサギさながらの動作でクウコウらの目を欺いている。
「あぁ!面倒だ、いっその事ここら一面焼きはらうぞ!!ジョー!お前がやりなさい。」
「・・・父上、それは出来ません。」【陰陽導師・ジョー】
「出来ないだと?!また何をふざけた事を!師範であり、父であるワシの命令が聞けんのか?!」
「いえ、すみません。実はまだ火の術が苦手で・・・。」
「フンッ!情けない奴だ、我が子ながら恥ずかしいわ!・・・仕方ない。では、カンコウ!兄であるお前が手本を見せてやれ!」
「はい、父上!お任せを!ジョー、よく見ておけよ・・・。」
カンコウは指で印を結んだ。「朱雀の印!陰陽導術!陽火の術!」
すると印を結んだ手から火が放たれ、ブォーーーーォ!!と勢いよく周りの草木を焼き払った。ウサギに化けて身を隠していた女狐は、火の熱気を一瞬浴びたが、間一髪の所でその場を離れ、火が逆に目くらましになり、ウサギの脚力でピョンピョンと飛び跳ねながら、元の狐の姿に戻り、見えない距離まで逃げることが出来た。
「やはり、奴ら陰陽道師は危険だわ!今のうちに遠くに逃げないと!右近と左近は無事逃げられたかしら・・・。」
「お~お~!派手に焼き払ったなぁ!カンコウ!これでは見つけても焼け焦げて生け捕りにはならんなぁ!ぶぁっはっはっは~!」
「兄さん、どうやら逃げられたようですね。」
「あぁ?ジョー何故分かる。」
「分かりませんか?確かに女狐は茂みに身を隠していましたが今はその気配を感じません。」
「では尚更捕らえに行くぞ!
今度こそジョーお前が行け!」
「分かりました・・・。」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。ここまで来れば追ってはこないでしょう。」
力の限り走る女狐。すると後ろから物凄いスピードでこちらに向かってくる人影が。
「何てスピード?!私より速いなんて!」
「お~い!待ってくれ!頼む!話をさせてくれ!」
ジョーは女狐に追いつき横並びになった。
「話合いたい!止まってくれ!」
女狐は無視しさらにスピードを上げた。ジョーは女狐をさらに追い越してクルッと回り込み両手を広げて真正面に立ち塞がった。
「何考えてるの?!もう曲がれない!!ぶつかるっっ!!」
急には止まれない女狐はジョーに衝突した。
「バフッ!!!ガシッ!」
なんと、ジョーは女狐を体で受け止め、さらに逃げないように抱き締めた。
「離しなさいよ!もう!離しなさい!」
「今は君を離せないよ。落ち着いて話を聞いてくれるなら離してやる。」
すると女狐はジョーの首筋にガブッと噛みついた。首にはキレイに歯痕がついた。
「いくらでも噛みつけ!痛くもかゆくもない。君たちが負った心の傷に比べたらこんなの。僕はただ話を。」
「分かったわよ!話を聞けば良いんでしょ?聞くから離して!」
ジョーは抱きしめた腕をほどき、
女狐を離した。
「さっきはすまなかった。」
「何?わたしを無理やり抱きしめた事?」
「いや、それもだが、僕の家族が君たちを捕まえようと追回して・・・。僕は、本当はこんなことしたくないんだ。」
「えっ?何それ?あなたあいつらの仲間でしょ?」
「あぁそうだ、だから話を聞いて欲しかったんだ。僕の本当の気持ちを。」
「あなた変わった人間ね。人間なんて皆、敵だと思ってた、私達の自由を平気で奪ってしまう
悪魔だと思ってた。」
「僕は父上や兄上のやり方や考え方に以前から違和感を感じていたんだ。君達【妖狐】には善狐と悪狐がいる。人間に悪さをする悪狐を捕まえ罰を与えるのは仕方ない、後で更生させればいい。だけど何も危害を加えない君たちの様な善狐にも同じことをするのは間違っている!だから僕は君たちを捕えたくはない!助けたいんだよ!」
「本当変わった人間ねあなた、
じゃ私はこのまま逃げても構わないという事ね。」
「あぁ・・・話を聞いてくれてありがとう。」
「お礼は言わないわよ、それじゃ。」立ち去る女狐。
「・・・ん?この気配は・・・。
君の家族が父上達に接触してしまった!!僕は助けに行く!!」
ジョーは立ち去る女狐に叫び急いで気配のする方向へ向かった。それを聞き女狐は、立ち止まった。
「はぁ、はぁ、父上!兄上!ちょっと待って下さい!」
右近が左近がクウコウらに追い詰められている。
「何だ?ジョー、女狐はどうした?また捕り逃したか?」
「はぁ、はぁ、彼女は・・・逃しました・・・。」
「なんだと?!何故逃した!?
どう言うつもりだ?!」
「はぁ、はぁ、・・・もう、もう止めましょうよ!!」
ジョーは間に割り込み、両手を広げて右近と左近に背中を見せる様にクウコウとカンコウの前に立ちはだかった。
「お前~!!・・・それは一体どう言うつもりだと聞いているんだ!!」
怒り心頭するクウコウ。
「出来損ないのお前にワシに逆らって何の得があるのだ!!素直にワシの言う通りにしておれば良いものを!」
「確かに・・・父上や兄上に逆らえば、後で罰を受けて僕の身体が痛いだけ・・・。でも、罪もない者達の自由を奪い傷つける事の方が、僕にとってその何倍も痛いんだ!!心が!!心が痛むんだよ!!」
ジョーは感情をあらわにして目に涙を浮かべながら叫んだ。
「何なの!この人間は!?」
泣きながら守ってくれているジョーに左近と右近は、ただ驚いていた。
「分かったもう良い。お前の様な息子を持ってワシは屈辱を感じている。もう顔も見たくない、ワシの前から消え失せろ!!!カンコウ!やれ!」
「はい父上!残念だ、弟よ。」
カンコウが印を結び、術を発動しようとしたその時、木の上に隠れて一部始終を見ていた女狐が
「塵旋風の舞!!!」
パラ、パラ、カサ、カサカサカサ
ヒュルルルルル~~~、ブォォォォォォォオオ!!
突然、強いつむじ風が巻き起こり枯れ葉や木の枝などが砂埃と共に巻き上がり、クウコウらの視界を遮った。
「何?うぉあーー!!め!目がー!」
「これは?!女狐の仕業か!!」
「父上、兄上。
朱雀の印!陰陽道術!太陽炎の術!!」
つむじ風で巻き上がる枯れ葉や木の枝に凄まじい炎が放たれ、さらに燃え上がり火ダルマになるクウコウとカンコウ。
「ジョー・・・お前・・・火は出せないはずじゃぁ・・・」
「ええ確かに。でも・・・炎が出せないとは言ってませんよ?」
「おのれーー!!うぉーーーー!!」
「お前の方が兄の俺よりうわてだったか・・・。」
「脳ある鷹は爪を隠せ。でしたか?あなたの教えですよ。あの日母上を殺めたのは、父上あなたですよね。僕は許せなかった!あなたのことが、そしてそんなあなたに忠実に従う兄上の事も!母上が亡くなっても尚、平気でこんな事が出来るその神経が理解出来なかった!」
「わっはっは・・・ジョー・・・そういう所が・・・母親似・・・だな。」
そう言ってクウコウは燃え盛る炎を纏ったままカンコウと共に倒れ、そしてジョーは膝をつき、力尽きたように倒れ込んだ。妖狐は、ジョー、そして右近と左近に駆け寄りその場を離れていった。ジョーは目が覚めると違う場所にいる事に気付いた、どうやらどこかの狭い洞窟のような所だ。そこには女狐達が一緒に寄り添って寝ていたが女狐も目が覚めた。
「ん~?あんた目が覚めたんだね、良かった。あの時急に倒れるんだもの、死んだんじゃないかって心配したよ。」
「あぁ・・・すまん心配をかけたな。」
「まぁね、少しだけ。」
「あの時僕を助けてくれたんだろ?ありがとう。」
「いや、お礼を言わなきゃいけないのは私達の方よ!ありがとう!
本当にありがとう!妹達を守ってくれて・・・。」
「たしか、お礼は言わないんじゃ?」
「いじわるな人ね!フフフ。
わたし、あなたの事を誤解してたわ、だって仕方ないじゃない?
人間を信じられなかったのは人間のせいだもの・・・。でも、あなたは違ったわ!本気で、命懸けで私達を守ってくれた!」
「いや、僕は僕の、正しいと思う事をやっただけさ、別に感謝する必要はないよ。」
「何て寛大な人なの?でも、ありがとう!あなたは命の恩人よ。」
「いやいや、それはお互い様だよ。こちらこそ、ありがとう。」
「フフフ、あなたジョーって呼ばれてたわよね?」
「あぁ僕の名はマツヤマ ジョー。
君の名は?」
「わたしの名前は・・・ヨーコ。って言ってもわたしの名前は無いの、生まれてすぐに親に捨てられたから・・・。私、人間から妖狐って呼ばれていたから、ヨーコ。今からそう名乗ることにするわ!」
「そうだったのか・・・。ヨーコとても素敵な名前だよ。」
「ありがとう。姉として慕ってくれる妹達とわたしは本当は血は繋がってないわ、でも家族同然なの。右近と左近は昔、人間に親を殺され、互いに身寄りが無くなり、そして3人は出会い、それから今まで助け合って生きてきたの。でも今日はわたしのワガママのせいで2人を危険な目に合わせてしまった。」
「ワガママって?」
「ええ・・・夢が出来たの。
人間になりたいという夢が。」
「人間になりたい?君たちを傷つけた人間に?一体、何故?」
「変革よ!!わたしが人間になって、この荒んだ世の中を争いも偏見も無い聖なる世の中に変えるの!」
ジョーは驚いた顔をしたがすぐにニコっと笑顔になった。
「素晴らしいよ!ヨーコなら、きっと出来る!僕は応援するよ!」
「ありがとう、何か熱くなっちゃった。」
「ヨーコはこれからどうするの?」
「わたしはもっともっと強くなりたいの!どこかでひっそり修行するわ。」
「それじゃぁ丁度いい場所があるから紹介するよ。」
ここは土佐ノ国と伊予ノ国の丁度国境付近。
「この道を下れば伊予ノ国だ。
はいこれ、この手紙を神主に渡せば分かるはずだ、僕の母方の遠い親戚の神社なんだ。」
「ありがとう、私達ね行く宛てまで紹介してくれて。ジョーは?」
「僕は宛てはないけど大丈夫。心配ないよ!」
「また会えるかな?」
「あぁ、生きていればきっとね・・・また会えるさ。」
こうしてジョーとヨーコ達は別れを告げ、別々の道を歩いて行った。その後ヨーコ達は伊予イナリ神社の手伝いをしながら住職にお世話になり、その後ヨーコだけはある場所に戻ると言って妹達を残し、独り神社を後にした・・・。
ここで記憶の映像は終わった。
「パンッ!パンッ!」
「皆さん、目を開けて下さい。」
右近と左近は二拍手を鳴らした。
フッと黄色いオーラのサークルが消え皆が目を開けた。
「これが、姉さまが伝えたかった私達の記憶の全てです。」
「ヨーコさんは・・・狐だったにゃんて・・・にゃんだか狐につままれた猫みたいだにゃ。全然気付かなかったにゃ。」
「私たちはあの後このイナリ神社にたどり着き修行をしながら住職に仕えていました。住職も紹介したかったのですが、あいにく今日は留守でして。そして、今日この記憶をお見せしたのには姉の過去だけではなく、重要なことをお伝えしなくてはならないからです。実はあの日、父クウコウと兄カンコウはジョーの手により焼け死んだのですが、ある神により彼らは神格化し再び神として蘇ってしまったのです!」
『何だと!もしや、奴が?!』
「お察しの通りです、鳳凰殿。阿波ノ国の狸ノ神。金長力土の手によって彼らは復活したのです!」
「何ということだ!よりによって奴らが組んでしまうとは、悪い予感しかせんぞ!」
「みさ?!みさ!!大丈夫?!
まだ気分悪いの?」
「何だか頭が・・・あぁ眠たい・・・くぅーー。」
みさは、さきの腕に仰向けでもたれかかり、ぐったりしたまま眠ってしまった。
「みさ!み~さ?こんな時に寝ちゃったよ~!どうしよ~・・・。
あたしら以外動物ばかりなんだから~!みさが居ないと困るよ~!
・・・えっ!?何?この感じ。
何か温かいし。みさの中から何か感じる・・・。」
『さき!みさから離れるのだ!』
何かを感じた鳳凰はさきに助言をした。
「えっ?あっ、はい!」
さきはみさを仰向けにそっと寝かせた。
「え?ってか今の、鳳凰様の声?あたしにも聞こえた!」
すると、みさの体は桃色のオーラに包まれ、ふわっとゆっくり宙に浮き始めた。
銀次郎は何かを感じ何故か怯えるようにして狛狐の右近と左近の石像の後ろに隠れて見ている。
「えっ!?どうなってんの!みさが浮いてる!?」
そして、みさの胸の辺りからスーっと縦にピンクの光が伸び、徐々に人の形を成していった。その姿がはっきりと現れ始めた時、それは十字架のように見えた。そして十二単に長い黒髪でとても美しく麗しい女性が姿を現した。
「皆の者、お初にお目にかかる。わらわの名は、愛比売命。かつてこの国を創りし者じゃ。
なにやら、わらわの愛する伊予ノ国が危ぶまれるかもしれぬという言伝があってのぉ、聞き捨てならぬとこうして出て参った。」
一同驚愕の表情をしている。
『えっ愛比売命様?!何故あなた様が?!・・・みさの中から?』
「あぁ鳳凰よ、単純な話じゃ。この子はわらわの転生者なのじゃ。」
さらに一同驚愕の表情。
「テンセイシャって生まれ変わりってことよね?じゃ、みさは、この国を作った人の生まれ変わり?!」
『そういうことか!みさが動物と話せるのは・・・。』
「転生者はどうしても、わらわと似てしまうのじゃ、わらわは、生まれた頃から万物の声が聞けた。それゆえにこの子はその一部である”獣と対話できる能力”が生まれながらに備わっておる。あとは、高所が苦手な所もな。」
「それでか~!!空飛んでくるときに酔ってたの~!!納得!」
『最初におっしゃっていた、危ぶまれるかもしれないと、あなた様に伝えたのは誰なのですか?』
「あぁ、それならそこにおるであろう。黒猫の後ろに、名を何と申したかのぉ。」
「愛比売命様様、ヨーコでございます。」
りりの後ろに現れたのは神格化したヨーコだった。
「ヨーコさん?!」
りりは振り返り、足元から上に向かってゆっくりと見上げた。その姿は一見人間のようではあるが、頭にはピンと尖った耳、尻にはフワッとした大きな尾が生えており、言わば狐と人の間の様な姿をしていた。
「りり、ビックリさせてごめんなさい。私たちの記憶を見てもらった通り・・・私、狐なの。」
「にゃ・・・にゃんて言えば良いか分からないにゃ・・・。
でも、また会えて嬉しいにゃ!」
「そう言ってくれて、良かった。
わたしもリリと同じ様に親に捨てられた身だから、あの雨の日あなたに出会って昔の自分を思い出したの、寂しくて、辛かった頃を・・・。でもね、りりが一緒に居てくれただけでどれだけ救われたか。」
「そんにゃぁ・・・救われたのはオイラの方だにゃ。そのお陰で、こうやって生きてこれたにゃ!生きてこれたお陰で、大切な仲間や家族ができたにゃ!」
「そうね・・・私も嬉しいわ。」
「ヨーコとやら、懐かしむのはその位にするのじゃ。国の危機についてじゃが、もっと詳しく教えてくれぬか?」
「はい、率直に申し上げます・・・。四国中央山・仙獣・麒麟のジャン爺様の座が危ぶまれております!」
「は?何と?!あのジャンの危機だったのか?確かにあやつの座が狙われるとなればこの四国の危機に直結してしまうのぉ、一体何故その様な事態になっておるのじゃ?!」
「どうやら、現在の阿波ノ国の守護神である金長と、かつての土佐ノ国の陰陽導師クウコウとカンコウ親子が手を組み、ジャン爺様の首を獲ろうとしているとのことです。」
「何を馬鹿げた事を!!麒麟とは四国の中央に位置付けられ四神獣の指揮官じゃぞ!まだ陰陽神になったばかりの新神に何が出来る!!もしや四神獣達を征服しようとでもいうのか?!おっほっほっほ~、いやいや、笑わせるのぉ!!」
「それが・・・愛比売命様のご推察の通り、奴らは四国を征服するつもりの様なのです。」
『アイツは何を考えてるのだ!
4年前、狸ノ神として初めて陰陽神になり、それから今まで良からぬ企てをしていたと言うことか?!解せぬ!そんなことは絶対に我らが阻止致します!!』
「指揮官である麒麟のジャンがこの様な危機に面しておるのに、今年の四神選をしている場合ではない!一旦中止じゃ!ジャンがおらんと始まらんからのぉ。あの大会はわらわ密かな楽しみなのじゃ。あやつにその邪魔はさせぬ。して当の本人、麒麟のジャンは今どこへ?」
「はい、ジャン爺様は今、とべ動物園に身を隠しておられます。」
「動物園に?まさか麒麟だけにキリンに憑依っているという事はないじゃろうな?」
「はい、愛比売命様のご推察通り、ジャン爺様はキリンの中に憑依られています。」
「何を?!その様な事をしたら奴らにバレバレではないか!!」
「はい、ですがジャン爺様は、“逆にバレんじゃろう”と仰っておりました。」
「なにを!?...まぁ良い。ジャンらしい判断じゃ。では早速とべ動物園へ向かうのじゃ。わらわはそろそろみさの中に戻る、誰ぞ、この浮いておるみさを受け取ってくれよの。それではのぉ。」
愛比売命の姿は再びピンクの光になり徐々にみさの体の中に入って行った。
そして浮遊状態が解除され、フッと落ちるみさを大きくなった鳳凰が羽根を使い、手ですくう様にしてみさを受け止めた。
『みさ!大丈夫か?』鳳凰は、みさに優しく声をかけた。
「ん、ん~~?」するとみさは眠りから覚めた。
「あれ?私、夢でも見てたのかな?」みさは周りをキョロキョロ見回しながら言った。
「みさ!おはよ~!やっとお目覚めね。どんな夢をみたの?」さきはみさに近寄りながら言った。
「なんかね。キリンが大変で。それで悪いタヌキがやって来るって言う夢。そうだ動物園に行かなきゃ!!」みさは夢の話を思い出しながら話した。
『もしや、さっき愛比売命様が話された内容は、みさも夢の中で共有していたと言うことなのか?!』
「なんか良くわかんないけどとてもハッキリ覚えてる。」
「みさちゃん、スゴイ人の生まれ変わりなんだよ~!」ポンもみさに駆け寄りながら声をかけた。
「えっ?そうなの?スゴイ人?」みさは不思議そうな表情をした。
「みさちゃんが寝てる時じゃないと出て来られないのかもね~。」ポンはみさにニコッと笑いながら言った。
「じゃぁあたしその人に一生会えないじゃ~ん。」みさは眉を垂らし頬を膨らませて残念そうな表情を見せた。
「みさちゃん。大丈夫だにゃ!愛比売命様はいつでもみさちゃんと一緒にいらっしゃるんだにゃ。」りりはみさに優しい言葉をかけた。
「そっかぁ。それなら良いや。」りりの言葉を聞いたみさはコロッと笑顔になりケロッとした表情に変わった。
「みさちゃんは笑顔が似合うんだにゃ。」りりはみさの笑顔に癒されていた。するとヨーコがりりの耳元に顔を近づけて来た。
「りり?ひとつお願いがあるの、良いかしら?・・・」ヨーコはりりになにやら耳打ちをしている。
「・・・はい!ヨーコさん。了解だにゃ。」ヨーコから何を言われたのかは分からないが、りりは走って境内の方へと向かって行った。
りりの向かった本堂の右側の道を入ると右手に【夜泣き石】がある。りりはその夜泣き石を見てふと、何故か夜泣きをするポンを思い浮かべてひとりでクスっとニヤけながら走って行った。すると、その先には鳥居が連なった階段に突き当たった。りりはその鳥居階段をスタタタっと軽やかに上って行くと、少ししてからまた鳥居階段を跳ねるように降りて来た。そしてりりはみんなのいる場所に戻って行った。
「りりどうしたの?それ!」戻って来たりりを見るなり、一番にポンがさっきまでのりりとの違いに気付いてすかさず聞いた。
「これはヨーコさんからのプレゼントだにゃ。」りりは嬉しそうな表情で答えた。
「わぁ!それって新しいお守りだね!りり良かったね!」ポンも嬉しそうに言った。
「またお守りを首にかけれるにゃ。にゃはは。ヨーコさんありがとうだにゃ!」ポンとりりは一緒に喜んだ。そしてヨーコはニコっと微笑み安心した顔でりりの中に入って行った。
『では、とにかく急ごう!偶然か必然か。これも何かの因果であろう。ポンの両親のいる動物園が奴らとの決戦の場所になるやもしれん!そこでは陰陽神達が集結する事になる!お前達の事は我らが全力で守るから安心しなさい!』
鳳凰はみんなに真剣な表情で話した。
「はい!分かりました!ところで。あれぇ?銀次郎はどこへ行ったにゃ?」りりは辺りを見渡したが銀次郎の姿が見えないようだ。
「みさの前世の人が出てきた時あそこに隠れてたけど、どっか行っちゃったみたい!困ったわねぇ。」飼い主であるさきは困った腕を組み困った顔をしている。
『では左近、右近。世話になったな!感謝する!あと悪いが銀次郎が居たら我らが戻るまで世話してやってくれんか。』
「えぇ、仕方ありませんね。」
「承知しました。お任せ下さい。」右近と左近はしぶしぶ了承した。
『では、とべ動物園へ向かうぞ!!』
ホーオスの掛け声と共に一行は再び動物園へと飛び立った・・・。
それが【神の住む国】と呼ばれるそもそもの由縁である。
神獣とはその名の通り動物の姿であるが、元は自然そのものであり、万物の化身と言えるだろう。
そして、四国に点在する神獣達を総称【四神獣】と呼び、さらには陰と陽を司る神獣として崇められている事から、人々は彼らの事を通称【陰陽神】と呼んでいる・・・。
ここは上空・・・。冷たい風が顔をかすめる。鳳凰はポン達を背中に乗せて順調に、かつ快調に空路を飛行中である・・・。
「しかし、鳳凰さまの背中ってとっても温かいんだにゃ~、オイラ寒いの苦手だから助かるにゃ~。」
「本当だね~、ポクは寒いの平気だけど、羽毛がふわふわで気持ち良いねぇ。」
「お家でもこんな羽毛布団で寝たいなぁ~、ねぇみさ?」
「う・・・うん・・・。」
「どうしたの~?みさ~。あっ!もしかして高い所苦手だったっけ?大丈夫?」
「ちょ・・・ちょっとね、でも下向いてるから大丈夫・・・。」
「みさちゃん高い所が苦手なの?
気持ち良いのになぁ~。」
「きもち・・・わるい・・・。」
「みさ!出る?出ちゃう?やばいよ?こんな所で!」
「いや・・・なんとか大丈夫そう。」
「本当?無理しないでね?」
心配したりりがみさの背中をさすっている。
「ありがとうりりくん、肉球が気持ち良い。」
「どういたしましてだにゃ~男は女に優しくするもんなんだにゃ!
にゃははは~。」
その時だった。
突然りりの耳元で声が聞こえ始めた。
『りり・・・りり・・・。』
「ん?誰かオイラの事呼んだかにゃ?」
「誰も呼んでないよ?どしたの?」と、後ろのりりを見てみさが言った。
「あれぇ?おかしいにゃ~?今、女の声がしたにゃ。」
そしてまた声が聞こえてきた。
『りり・・・わたし・・・ヨーコよ・・・。』
「??・・・確かに今ヨーコって!ヨーコさんの声が聞こえたにゃ!みんなも聞こえたかにゃ?」
「いいえ、空耳じゃない?」
「ポクも何も聞こえなかったよ?」みさとポンは眉をひそめて不思議そうに答えた。
「おっかしいにゃ~、確かにハッキリ聞こえたにゃ!」
『りりよ、まさかヨーコの声が聞こえたのか?』そこへ、ホーオスが顔左半分をこちらに向けて話しかけてきた。
「あっ、はい、ハッキリと。」
それを聞いたホーオスは何かを考えるように目を閉じ少し間を置いた。そして再び目を開けると、おもむろに話し始めた。
『本来、りりの守護霊であるヨーコは普通は直接話しかけたり触れたりする事は出来ない、ただ。』
「ただ・・・?」りりは生唾を飲み込みホーオスの話に耳を傾けた。
『ただ1つ例外として【神格化】したとすれば、それは可能なのだ。』
「シンカクカ?・・・それは一体何ですかにゃ?」りりは初めて聞く言葉に首を傾けた。
『端的に言えば、霊体から神体へと位が上がる事だ。ヨーコは何かしらの手段を使い、神格化に成功したという事になる。』
「にゃ、にゃんですと~~!!」
「要するにヨーコさんは神様になったってこと?!りり~凄いじゃん!」
『だが初めは会話出来る時間に制限がある、せいぜい3分程度。
だからりり、ヨーコの話を良く聞いておくのだ!何か大事なメッセージを伝えようとしているのかもしれん!』
「はい!分かりましたにゃ!」
そしてまたりりにヨーコの声が聞こえてくる。
『りり・・・あなたに私の真実を伝えたい・・・だから・・・。
ここから南へ2キロの場所にある
神社に行って・・・行けば分かるわ・・・伊予イナリ神社・・・。」
「ヨーコさんの声が聞こえなくなったにゃ。ポン、鳳凰さまお願いしますにゃ!!」
りりはヨーコからの話の内容をみんなに伝えた。
「りり!当たり前だよ!行こうよ!!僕の事は気にしないで!」
『我らもヨーコが伝えたい事があるのならば知っておきたい!』
「あ、ありがとうございますにゃ!」
こうして急遽一行はヨーコの指示する、伊予イナリ神社へと、一時進路変更する事となった。
『見えてきたぞ!あそこだな!』
その場所には大きな鳥居が見える。鳳凰はゆっくりと大きく旋回しながら下降し、目的地へと無事着陸した。
「みさ大丈夫?」さきがみさを心配そうにしている。
「うん、大丈夫、ありがとう。」
みさは小さく頷きながら答えた。
伊予イナリ神社に到着した一行は大きな鳥居を通り抜けると、目の前に2体、狐の石像が見えてきた。皆はそれに近づき鳳凰以外は、見上げるように見ている。
『これは狛狐だな。』
「コマギツネ?コマイヌみたいだね。」
『そうだ、狛犬が寺の番をしているのに対してイナリ神社は狐が番をしているのだ。』
『その通り!そして偶然にも、こいつらは俺の知り合いなんだ。おい!右近!左近!出てこいよ~!』
銀次郎がそう言うと2体の石像から、スーっと前に向かって2匹の狐が姿を現した。
『相変わらずですね銀さん、紹介が雑と言うか・・・。とにかく、皆さん初めまして向かって右手のわたくしが右近と申します。そして向かって左手が左近と申します。私達は双子の狛狐、以後よろしくお願い致します。』
「初めましてだにゃ狛狐さん!
お聞きしたいんですが、ヨーコさんからここに来れば分かるって言われて来たんですが何か知っていますかにゃ?」
『もちろんです、お待ちしていました。姉さまからはすでにお話は聞いております。』
「あ、姉さま?・・・右近さんと左近さんたちとヨーコさんは一体どう言う関係なんだにゃ?」
『今からそれも含めて、姉さまと私達の【記憶】をあなた方に見て頂きます。左近!行くよ!』
『ええ!いいわよ右近!』
フワァァァァ。右近と左近は周囲に黄色いオーラのような光を放ち始めた。右近は右手、左近は左手から大きなオーラのサークルを作り出し、その中に皆を包み込んだ。
鳳凰はサークルから頭がはみ出てしまうため朱孔雀で小さくなり、パタパタ~っとポンの頭の上に乗った。
「すご~い!何か温かいなぁ
鳳凰さまがお守りから出てきたときの光と似てる~!」
「おぉぉ!何だかドキドキするにゃ~!!」
『皆さん!目を閉じて下さい。記憶の映像が終わるまで決して目を開けないで下さいね。では、私達の記憶の中へとご案内しましょう・・・。』
そして一同は目を閉じたまま記憶の映像の中へと誘われた。
・・・カサカサ・・・カサカサ。
どこかの雑木林の中。草木をかき分けながら進んでいる誰かの目線の映像から始まった。
「いい?決してあいつらには捕まってはダメよ!右近、左近!分かってるわね?さぁ、お行きなさい!」
「姉さまも、ご無事で・・・。」
「では、2手に分かれるわよ!」
「ササササ・・・。」
右近と左近は離れて行く。
場面変わり、違う場所の雑木林。
「あの女狐達は一体どこに隠れた?1匹は妖狐だ!奴が何かに化けちまったら見つけるのに苦労するぞ!」【陰陽導師範・クウコウ】
「確かにそうなればやっかいですね。この辺りに逃げ込んだはずなのですが!一体何処へ隠れたのか。」【陰陽道師・カンコウ】
女狐は、白い野ウサギに化けて左近と右近が追われないように草むらの茂みから敵の様子を伺っている。キョロキョロ、ピョンピョン!とウサギさながらの動作でクウコウらの目を欺いている。
「あぁ!面倒だ、いっその事ここら一面焼きはらうぞ!!ジョー!お前がやりなさい。」
「・・・父上、それは出来ません。」【陰陽導師・ジョー】
「出来ないだと?!また何をふざけた事を!師範であり、父であるワシの命令が聞けんのか?!」
「いえ、すみません。実はまだ火の術が苦手で・・・。」
「フンッ!情けない奴だ、我が子ながら恥ずかしいわ!・・・仕方ない。では、カンコウ!兄であるお前が手本を見せてやれ!」
「はい、父上!お任せを!ジョー、よく見ておけよ・・・。」
カンコウは指で印を結んだ。「朱雀の印!陰陽導術!陽火の術!」
すると印を結んだ手から火が放たれ、ブォーーーーォ!!と勢いよく周りの草木を焼き払った。ウサギに化けて身を隠していた女狐は、火の熱気を一瞬浴びたが、間一髪の所でその場を離れ、火が逆に目くらましになり、ウサギの脚力でピョンピョンと飛び跳ねながら、元の狐の姿に戻り、見えない距離まで逃げることが出来た。
「やはり、奴ら陰陽道師は危険だわ!今のうちに遠くに逃げないと!右近と左近は無事逃げられたかしら・・・。」
「お~お~!派手に焼き払ったなぁ!カンコウ!これでは見つけても焼け焦げて生け捕りにはならんなぁ!ぶぁっはっはっは~!」
「兄さん、どうやら逃げられたようですね。」
「あぁ?ジョー何故分かる。」
「分かりませんか?確かに女狐は茂みに身を隠していましたが今はその気配を感じません。」
「では尚更捕らえに行くぞ!
今度こそジョーお前が行け!」
「分かりました・・・。」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。ここまで来れば追ってはこないでしょう。」
力の限り走る女狐。すると後ろから物凄いスピードでこちらに向かってくる人影が。
「何てスピード?!私より速いなんて!」
「お~い!待ってくれ!頼む!話をさせてくれ!」
ジョーは女狐に追いつき横並びになった。
「話合いたい!止まってくれ!」
女狐は無視しさらにスピードを上げた。ジョーは女狐をさらに追い越してクルッと回り込み両手を広げて真正面に立ち塞がった。
「何考えてるの?!もう曲がれない!!ぶつかるっっ!!」
急には止まれない女狐はジョーに衝突した。
「バフッ!!!ガシッ!」
なんと、ジョーは女狐を体で受け止め、さらに逃げないように抱き締めた。
「離しなさいよ!もう!離しなさい!」
「今は君を離せないよ。落ち着いて話を聞いてくれるなら離してやる。」
すると女狐はジョーの首筋にガブッと噛みついた。首にはキレイに歯痕がついた。
「いくらでも噛みつけ!痛くもかゆくもない。君たちが負った心の傷に比べたらこんなの。僕はただ話を。」
「分かったわよ!話を聞けば良いんでしょ?聞くから離して!」
ジョーは抱きしめた腕をほどき、
女狐を離した。
「さっきはすまなかった。」
「何?わたしを無理やり抱きしめた事?」
「いや、それもだが、僕の家族が君たちを捕まえようと追回して・・・。僕は、本当はこんなことしたくないんだ。」
「えっ?何それ?あなたあいつらの仲間でしょ?」
「あぁそうだ、だから話を聞いて欲しかったんだ。僕の本当の気持ちを。」
「あなた変わった人間ね。人間なんて皆、敵だと思ってた、私達の自由を平気で奪ってしまう
悪魔だと思ってた。」
「僕は父上や兄上のやり方や考え方に以前から違和感を感じていたんだ。君達【妖狐】には善狐と悪狐がいる。人間に悪さをする悪狐を捕まえ罰を与えるのは仕方ない、後で更生させればいい。だけど何も危害を加えない君たちの様な善狐にも同じことをするのは間違っている!だから僕は君たちを捕えたくはない!助けたいんだよ!」
「本当変わった人間ねあなた、
じゃ私はこのまま逃げても構わないという事ね。」
「あぁ・・・話を聞いてくれてありがとう。」
「お礼は言わないわよ、それじゃ。」立ち去る女狐。
「・・・ん?この気配は・・・。
君の家族が父上達に接触してしまった!!僕は助けに行く!!」
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「はぁ、はぁ、父上!兄上!ちょっと待って下さい!」
右近が左近がクウコウらに追い詰められている。
「何だ?ジョー、女狐はどうした?また捕り逃したか?」
「はぁ、はぁ、彼女は・・・逃しました・・・。」
「なんだと?!何故逃した!?
どう言うつもりだ?!」
「はぁ、はぁ、・・・もう、もう止めましょうよ!!」
ジョーは間に割り込み、両手を広げて右近と左近に背中を見せる様にクウコウとカンコウの前に立ちはだかった。
「お前~!!・・・それは一体どう言うつもりだと聞いているんだ!!」
怒り心頭するクウコウ。
「出来損ないのお前にワシに逆らって何の得があるのだ!!素直にワシの言う通りにしておれば良いものを!」
「確かに・・・父上や兄上に逆らえば、後で罰を受けて僕の身体が痛いだけ・・・。でも、罪もない者達の自由を奪い傷つける事の方が、僕にとってその何倍も痛いんだ!!心が!!心が痛むんだよ!!」
ジョーは感情をあらわにして目に涙を浮かべながら叫んだ。
「何なの!この人間は!?」
泣きながら守ってくれているジョーに左近と右近は、ただ驚いていた。
「分かったもう良い。お前の様な息子を持ってワシは屈辱を感じている。もう顔も見たくない、ワシの前から消え失せろ!!!カンコウ!やれ!」
「はい父上!残念だ、弟よ。」
カンコウが印を結び、術を発動しようとしたその時、木の上に隠れて一部始終を見ていた女狐が
「塵旋風の舞!!!」
パラ、パラ、カサ、カサカサカサ
ヒュルルルルル~~~、ブォォォォォォォオオ!!
突然、強いつむじ風が巻き起こり枯れ葉や木の枝などが砂埃と共に巻き上がり、クウコウらの視界を遮った。
「何?うぉあーー!!め!目がー!」
「これは?!女狐の仕業か!!」
「父上、兄上。
朱雀の印!陰陽道術!太陽炎の術!!」
つむじ風で巻き上がる枯れ葉や木の枝に凄まじい炎が放たれ、さらに燃え上がり火ダルマになるクウコウとカンコウ。
「ジョー・・・お前・・・火は出せないはずじゃぁ・・・」
「ええ確かに。でも・・・炎が出せないとは言ってませんよ?」
「おのれーー!!うぉーーーー!!」
「お前の方が兄の俺よりうわてだったか・・・。」
「脳ある鷹は爪を隠せ。でしたか?あなたの教えですよ。あの日母上を殺めたのは、父上あなたですよね。僕は許せなかった!あなたのことが、そしてそんなあなたに忠実に従う兄上の事も!母上が亡くなっても尚、平気でこんな事が出来るその神経が理解出来なかった!」
「わっはっは・・・ジョー・・・そういう所が・・・母親似・・・だな。」
そう言ってクウコウは燃え盛る炎を纏ったままカンコウと共に倒れ、そしてジョーは膝をつき、力尽きたように倒れ込んだ。妖狐は、ジョー、そして右近と左近に駆け寄りその場を離れていった。ジョーは目が覚めると違う場所にいる事に気付いた、どうやらどこかの狭い洞窟のような所だ。そこには女狐達が一緒に寄り添って寝ていたが女狐も目が覚めた。
「ん~?あんた目が覚めたんだね、良かった。あの時急に倒れるんだもの、死んだんじゃないかって心配したよ。」
「あぁ・・・すまん心配をかけたな。」
「まぁね、少しだけ。」
「あの時僕を助けてくれたんだろ?ありがとう。」
「いや、お礼を言わなきゃいけないのは私達の方よ!ありがとう!
本当にありがとう!妹達を守ってくれて・・・。」
「たしか、お礼は言わないんじゃ?」
「いじわるな人ね!フフフ。
わたし、あなたの事を誤解してたわ、だって仕方ないじゃない?
人間を信じられなかったのは人間のせいだもの・・・。でも、あなたは違ったわ!本気で、命懸けで私達を守ってくれた!」
「いや、僕は僕の、正しいと思う事をやっただけさ、別に感謝する必要はないよ。」
「何て寛大な人なの?でも、ありがとう!あなたは命の恩人よ。」
「いやいや、それはお互い様だよ。こちらこそ、ありがとう。」
「フフフ、あなたジョーって呼ばれてたわよね?」
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君の名は?」
「わたしの名前は・・・ヨーコ。って言ってもわたしの名前は無いの、生まれてすぐに親に捨てられたから・・・。私、人間から妖狐って呼ばれていたから、ヨーコ。今からそう名乗ることにするわ!」
「そうだったのか・・・。ヨーコとても素敵な名前だよ。」
「ありがとう。姉として慕ってくれる妹達とわたしは本当は血は繋がってないわ、でも家族同然なの。右近と左近は昔、人間に親を殺され、互いに身寄りが無くなり、そして3人は出会い、それから今まで助け合って生きてきたの。でも今日はわたしのワガママのせいで2人を危険な目に合わせてしまった。」
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「人間になりたい?君たちを傷つけた人間に?一体、何故?」
「変革よ!!わたしが人間になって、この荒んだ世の中を争いも偏見も無い聖なる世の中に変えるの!」
ジョーは驚いた顔をしたがすぐにニコっと笑顔になった。
「素晴らしいよ!ヨーコなら、きっと出来る!僕は応援するよ!」
「ありがとう、何か熱くなっちゃった。」
「ヨーコはこれからどうするの?」
「わたしはもっともっと強くなりたいの!どこかでひっそり修行するわ。」
「それじゃぁ丁度いい場所があるから紹介するよ。」
ここは土佐ノ国と伊予ノ国の丁度国境付近。
「この道を下れば伊予ノ国だ。
はいこれ、この手紙を神主に渡せば分かるはずだ、僕の母方の遠い親戚の神社なんだ。」
「ありがとう、私達ね行く宛てまで紹介してくれて。ジョーは?」
「僕は宛てはないけど大丈夫。心配ないよ!」
「また会えるかな?」
「あぁ、生きていればきっとね・・・また会えるさ。」
こうしてジョーとヨーコ達は別れを告げ、別々の道を歩いて行った。その後ヨーコ達は伊予イナリ神社の手伝いをしながら住職にお世話になり、その後ヨーコだけはある場所に戻ると言って妹達を残し、独り神社を後にした・・・。
ここで記憶の映像は終わった。
「パンッ!パンッ!」
「皆さん、目を開けて下さい。」
右近と左近は二拍手を鳴らした。
フッと黄色いオーラのサークルが消え皆が目を開けた。
「これが、姉さまが伝えたかった私達の記憶の全てです。」
「ヨーコさんは・・・狐だったにゃんて・・・にゃんだか狐につままれた猫みたいだにゃ。全然気付かなかったにゃ。」
「私たちはあの後このイナリ神社にたどり着き修行をしながら住職に仕えていました。住職も紹介したかったのですが、あいにく今日は留守でして。そして、今日この記憶をお見せしたのには姉の過去だけではなく、重要なことをお伝えしなくてはならないからです。実はあの日、父クウコウと兄カンコウはジョーの手により焼け死んだのですが、ある神により彼らは神格化し再び神として蘇ってしまったのです!」
『何だと!もしや、奴が?!』
「お察しの通りです、鳳凰殿。阿波ノ国の狸ノ神。金長力土の手によって彼らは復活したのです!」
「何ということだ!よりによって奴らが組んでしまうとは、悪い予感しかせんぞ!」
「みさ?!みさ!!大丈夫?!
まだ気分悪いの?」
「何だか頭が・・・あぁ眠たい・・・くぅーー。」
みさは、さきの腕に仰向けでもたれかかり、ぐったりしたまま眠ってしまった。
「みさ!み~さ?こんな時に寝ちゃったよ~!どうしよ~・・・。
あたしら以外動物ばかりなんだから~!みさが居ないと困るよ~!
・・・えっ!?何?この感じ。
何か温かいし。みさの中から何か感じる・・・。」
『さき!みさから離れるのだ!』
何かを感じた鳳凰はさきに助言をした。
「えっ?あっ、はい!」
さきはみさを仰向けにそっと寝かせた。
「え?ってか今の、鳳凰様の声?あたしにも聞こえた!」
すると、みさの体は桃色のオーラに包まれ、ふわっとゆっくり宙に浮き始めた。
銀次郎は何かを感じ何故か怯えるようにして狛狐の右近と左近の石像の後ろに隠れて見ている。
「えっ!?どうなってんの!みさが浮いてる!?」
そして、みさの胸の辺りからスーっと縦にピンクの光が伸び、徐々に人の形を成していった。その姿がはっきりと現れ始めた時、それは十字架のように見えた。そして十二単に長い黒髪でとても美しく麗しい女性が姿を現した。
「皆の者、お初にお目にかかる。わらわの名は、愛比売命。かつてこの国を創りし者じゃ。
なにやら、わらわの愛する伊予ノ国が危ぶまれるかもしれぬという言伝があってのぉ、聞き捨てならぬとこうして出て参った。」
一同驚愕の表情をしている。
『えっ愛比売命様?!何故あなた様が?!・・・みさの中から?』
「あぁ鳳凰よ、単純な話じゃ。この子はわらわの転生者なのじゃ。」
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「テンセイシャって生まれ変わりってことよね?じゃ、みさは、この国を作った人の生まれ変わり?!」
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「転生者はどうしても、わらわと似てしまうのじゃ、わらわは、生まれた頃から万物の声が聞けた。それゆえにこの子はその一部である”獣と対話できる能力”が生まれながらに備わっておる。あとは、高所が苦手な所もな。」
「それでか~!!空飛んでくるときに酔ってたの~!!納得!」
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「あぁ、それならそこにおるであろう。黒猫の後ろに、名を何と申したかのぉ。」
「愛比売命様様、ヨーコでございます。」
りりの後ろに現れたのは神格化したヨーコだった。
「ヨーコさん?!」
りりは振り返り、足元から上に向かってゆっくりと見上げた。その姿は一見人間のようではあるが、頭にはピンと尖った耳、尻にはフワッとした大きな尾が生えており、言わば狐と人の間の様な姿をしていた。
「りり、ビックリさせてごめんなさい。私たちの記憶を見てもらった通り・・・私、狐なの。」
「にゃ・・・にゃんて言えば良いか分からないにゃ・・・。
でも、また会えて嬉しいにゃ!」
「そう言ってくれて、良かった。
わたしもリリと同じ様に親に捨てられた身だから、あの雨の日あなたに出会って昔の自分を思い出したの、寂しくて、辛かった頃を・・・。でもね、りりが一緒に居てくれただけでどれだけ救われたか。」
「そんにゃぁ・・・救われたのはオイラの方だにゃ。そのお陰で、こうやって生きてこれたにゃ!生きてこれたお陰で、大切な仲間や家族ができたにゃ!」
「そうね・・・私も嬉しいわ。」
「ヨーコとやら、懐かしむのはその位にするのじゃ。国の危機についてじゃが、もっと詳しく教えてくれぬか?」
「はい、率直に申し上げます・・・。四国中央山・仙獣・麒麟のジャン爺様の座が危ぶまれております!」
「は?何と?!あのジャンの危機だったのか?確かにあやつの座が狙われるとなればこの四国の危機に直結してしまうのぉ、一体何故その様な事態になっておるのじゃ?!」
「どうやら、現在の阿波ノ国の守護神である金長と、かつての土佐ノ国の陰陽導師クウコウとカンコウ親子が手を組み、ジャン爺様の首を獲ろうとしているとのことです。」
「何を馬鹿げた事を!!麒麟とは四国の中央に位置付けられ四神獣の指揮官じゃぞ!まだ陰陽神になったばかりの新神に何が出来る!!もしや四神獣達を征服しようとでもいうのか?!おっほっほっほ~、いやいや、笑わせるのぉ!!」
「それが・・・愛比売命様のご推察の通り、奴らは四国を征服するつもりの様なのです。」
『アイツは何を考えてるのだ!
4年前、狸ノ神として初めて陰陽神になり、それから今まで良からぬ企てをしていたと言うことか?!解せぬ!そんなことは絶対に我らが阻止致します!!』
「指揮官である麒麟のジャンがこの様な危機に面しておるのに、今年の四神選をしている場合ではない!一旦中止じゃ!ジャンがおらんと始まらんからのぉ。あの大会はわらわ密かな楽しみなのじゃ。あやつにその邪魔はさせぬ。して当の本人、麒麟のジャンは今どこへ?」
「はい、ジャン爺様は今、とべ動物園に身を隠しておられます。」
「動物園に?まさか麒麟だけにキリンに憑依っているという事はないじゃろうな?」
「はい、愛比売命様のご推察通り、ジャン爺様はキリンの中に憑依られています。」
「何を?!その様な事をしたら奴らにバレバレではないか!!」
「はい、ですがジャン爺様は、“逆にバレんじゃろう”と仰っておりました。」
「なにを!?...まぁ良い。ジャンらしい判断じゃ。では早速とべ動物園へ向かうのじゃ。わらわはそろそろみさの中に戻る、誰ぞ、この浮いておるみさを受け取ってくれよの。それではのぉ。」
愛比売命の姿は再びピンクの光になり徐々にみさの体の中に入って行った。
そして浮遊状態が解除され、フッと落ちるみさを大きくなった鳳凰が羽根を使い、手ですくう様にしてみさを受け止めた。
『みさ!大丈夫か?』鳳凰は、みさに優しく声をかけた。
「ん、ん~~?」するとみさは眠りから覚めた。
「あれ?私、夢でも見てたのかな?」みさは周りをキョロキョロ見回しながら言った。
「みさ!おはよ~!やっとお目覚めね。どんな夢をみたの?」さきはみさに近寄りながら言った。
「なんかね。キリンが大変で。それで悪いタヌキがやって来るって言う夢。そうだ動物園に行かなきゃ!!」みさは夢の話を思い出しながら話した。
『もしや、さっき愛比売命様が話された内容は、みさも夢の中で共有していたと言うことなのか?!』
「なんか良くわかんないけどとてもハッキリ覚えてる。」
「みさちゃん、スゴイ人の生まれ変わりなんだよ~!」ポンもみさに駆け寄りながら声をかけた。
「えっ?そうなの?スゴイ人?」みさは不思議そうな表情をした。
「みさちゃんが寝てる時じゃないと出て来られないのかもね~。」ポンはみさにニコッと笑いながら言った。
「じゃぁあたしその人に一生会えないじゃ~ん。」みさは眉を垂らし頬を膨らませて残念そうな表情を見せた。
「みさちゃん。大丈夫だにゃ!愛比売命様はいつでもみさちゃんと一緒にいらっしゃるんだにゃ。」りりはみさに優しい言葉をかけた。
「そっかぁ。それなら良いや。」りりの言葉を聞いたみさはコロッと笑顔になりケロッとした表情に変わった。
「みさちゃんは笑顔が似合うんだにゃ。」りりはみさの笑顔に癒されていた。するとヨーコがりりの耳元に顔を近づけて来た。
「りり?ひとつお願いがあるの、良いかしら?・・・」ヨーコはりりになにやら耳打ちをしている。
「・・・はい!ヨーコさん。了解だにゃ。」ヨーコから何を言われたのかは分からないが、りりは走って境内の方へと向かって行った。
りりの向かった本堂の右側の道を入ると右手に【夜泣き石】がある。りりはその夜泣き石を見てふと、何故か夜泣きをするポンを思い浮かべてひとりでクスっとニヤけながら走って行った。すると、その先には鳥居が連なった階段に突き当たった。りりはその鳥居階段をスタタタっと軽やかに上って行くと、少ししてからまた鳥居階段を跳ねるように降りて来た。そしてりりはみんなのいる場所に戻って行った。
「りりどうしたの?それ!」戻って来たりりを見るなり、一番にポンがさっきまでのりりとの違いに気付いてすかさず聞いた。
「これはヨーコさんからのプレゼントだにゃ。」りりは嬉しそうな表情で答えた。
「わぁ!それって新しいお守りだね!りり良かったね!」ポンも嬉しそうに言った。
「またお守りを首にかけれるにゃ。にゃはは。ヨーコさんありがとうだにゃ!」ポンとりりは一緒に喜んだ。そしてヨーコはニコっと微笑み安心した顔でりりの中に入って行った。
『では、とにかく急ごう!偶然か必然か。これも何かの因果であろう。ポンの両親のいる動物園が奴らとの決戦の場所になるやもしれん!そこでは陰陽神達が集結する事になる!お前達の事は我らが全力で守るから安心しなさい!』
鳳凰はみんなに真剣な表情で話した。
「はい!分かりました!ところで。あれぇ?銀次郎はどこへ行ったにゃ?」りりは辺りを見渡したが銀次郎の姿が見えないようだ。
「みさの前世の人が出てきた時あそこに隠れてたけど、どっか行っちゃったみたい!困ったわねぇ。」飼い主であるさきは困った腕を組み困った顔をしている。
『では左近、右近。世話になったな!感謝する!あと悪いが銀次郎が居たら我らが戻るまで世話してやってくれんか。』
「えぇ、仕方ありませんね。」
「承知しました。お任せ下さい。」右近と左近はしぶしぶ了承した。
『では、とべ動物園へ向かうぞ!!』
ホーオスの掛け声と共に一行は再び動物園へと飛び立った・・・。
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