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第3章 現れた聖女は
3-2 傷つく心、気づかれない言葉
しおりを挟む「エミー・ワット様、アーヴリル様がお待ちしておりました」
「そう。それで貴方、アルディス様とはどうなの?」
「貴方様にお伝えすることは何も」
「そう。つまらないのね。私にはあんなに甘く接してくれるのに」
エミー様の扇の奥には嘲笑。
彼女は魔法使いの中でも数年に1度しか現れない聖女だ。聖女の地位はこの国でしか通用しないものであっても彼女はこの国でも有数な公爵令嬢でもある。私なんかにアルディスを取られたことをよほど根に持っているらしい。お会いする度詰るように言葉をかけられ続けていた。
私の前では禍々しい空気を作りながらも彼女はマナーを守りながらアーヴリルに会うため扉を開けた。
「アーヴリル様、お久しゅうございます。ずっとお会いしたくて思っておりましたわ」
「エミー様。私もお話したかったですわ」
今日も彼女たちによる和やかな会話が始まる。
この空間で傷ついているのは私だけだ。私が我慢すれば何もかも丸く収まる。
遠くで鳥が鳴いている。
ようやく来た休日、私はアルディスの家に来ていた。
この赤い屋根の可愛いお家はこれから私の家になるらしい。
彼は玄関の前で門にもたれ掛かり私を待っていた。
「えっと、お、お邪魔します……」
「うん。よし、君の部屋の用意はメイドに任せろ。この家は俺が案内する」
私は手を引かれかけ、自ら触れられないよう外した。
「いや、そういう訳にはいかないわ。私は騎士だもの。できることは自分でするわ。とりあえず今日は、自分の部屋に荷物を置いて、ご飯を食べるだけにして、家の細かな色々は明日以降に紹介してもらうわ」
「……そうか。でも、一応俺の妻となる者には紹介しとかないとな。この家は4人の手伝いで回ってる」
そう言いながらアルディスは玄関扉を開けた。
「お帰りなさいませ」
私は並び立つ使用人たちに体を固まらせた。
「こほん。お嬢様!私、メイドのアシェルと申します!お嬢様のお世話楽しみしておりました!」
「執事のハーマンです。よろしくお願いします」
「コックのジュウェルです。ディナーがございますので、ご趣味など後でお聞かせください」
「庭師のデビンと申します。庭師と言っても雑事ばかりですが精一杯努めます」
皆の前のめりな挨拶にそわつきながら、上手くもない笑みを浮かべた。
「えっと、ありがとう。私はシルファ。貴方達が仕えていて良かったと思えるような人になれるよう頑張っていくわ」
「……シルファ、部屋に行くぞ」
「ええ」
彼女達が並ぶ玄関を抜け、美しいカーペットが敷かれた階段を登り始めた。それにしても、使用人があんなに笑顔なんて……私の家ではそんな人いなかったな。
「君の部屋は俺の隣だ。準備もそこにしておけ。君は片付けに時間がかかるだろうから俺は部屋に戻っている」
部屋に入ると私の好きな桃色の花柄の壁紙で飾られた日当たりの良さそうな所だった。
これは私への気遣いなのだろうか。妻の存在への待遇を考えてのことなのだろうか。
タンスも棚も開いて、自らの少ない持ち物を片付けてると、時間もかなり過ぎ夕方になっていた。実家から持ってきたものはほとんど無いけれど軍での生活で必要なものは多かったらしい。武器の手入れを始めれば時間なんて一瞬だ。
「シルファ、もうそろそろ食事だぞ」
「えっ、あ、はい!」
時間の感覚が薄まり始めていた私は扉の外声のする方へ駆けた。
机に着くと既に料理が用意されていた。
アルディスは席に着くなりすぐご飯を食べ始める。
「シルファも食べるといいよ」
「え、わぁ、凄い!……美味しいわね」
「そうか」
「騎士団や家での食事は冷たかったから……ご飯ってこんなに美味しいものなのね」
ジュウェルにはなんでも良いから得意なものをとは言ったけどにしても特別美味しい。使用人の質もいいようだ。彼は持っている人なのだとさらに思い知らされる。
「あぁ。彼の作るご飯はいつでも美味しいよ」
アルディスは私の顔を覗き微笑んだ。
カチャン。アップルパイを食べ終えフォークを置いた私は彼に語りかける。
「ねぇ……今日はどこで寝るの?」
「……各自の部屋だ。隣の部屋にはいるつもりだから何かあったら俺に……」
「そう。じゃあ、おやすみ」
「あぁ」
「ふっ……あはは、私、なんで……」
1人になった部屋の中、涙が頬をつたっていた。
「そう。それで貴方、アルディス様とはどうなの?」
「貴方様にお伝えすることは何も」
「そう。つまらないのね。私にはあんなに甘く接してくれるのに」
エミー様の扇の奥には嘲笑。
彼女は魔法使いの中でも数年に1度しか現れない聖女だ。聖女の地位はこの国でしか通用しないものであっても彼女はこの国でも有数な公爵令嬢でもある。私なんかにアルディスを取られたことをよほど根に持っているらしい。お会いする度詰るように言葉をかけられ続けていた。
私の前では禍々しい空気を作りながらも彼女はマナーを守りながらアーヴリルに会うため扉を開けた。
「アーヴリル様、お久しゅうございます。ずっとお会いしたくて思っておりましたわ」
「エミー様。私もお話したかったですわ」
今日も彼女たちによる和やかな会話が始まる。
この空間で傷ついているのは私だけだ。私が我慢すれば何もかも丸く収まる。
遠くで鳥が鳴いている。
ようやく来た休日、私はアルディスの家に来ていた。
この赤い屋根の可愛いお家はこれから私の家になるらしい。
彼は玄関の前で門にもたれ掛かり私を待っていた。
「えっと、お、お邪魔します……」
「うん。よし、君の部屋の用意はメイドに任せろ。この家は俺が案内する」
私は手を引かれかけ、自ら触れられないよう外した。
「いや、そういう訳にはいかないわ。私は騎士だもの。できることは自分でするわ。とりあえず今日は、自分の部屋に荷物を置いて、ご飯を食べるだけにして、家の細かな色々は明日以降に紹介してもらうわ」
「……そうか。でも、一応俺の妻となる者には紹介しとかないとな。この家は4人の手伝いで回ってる」
そう言いながらアルディスは玄関扉を開けた。
「お帰りなさいませ」
私は並び立つ使用人たちに体を固まらせた。
「こほん。お嬢様!私、メイドのアシェルと申します!お嬢様のお世話楽しみしておりました!」
「執事のハーマンです。よろしくお願いします」
「コックのジュウェルです。ディナーがございますので、ご趣味など後でお聞かせください」
「庭師のデビンと申します。庭師と言っても雑事ばかりですが精一杯努めます」
皆の前のめりな挨拶にそわつきながら、上手くもない笑みを浮かべた。
「えっと、ありがとう。私はシルファ。貴方達が仕えていて良かったと思えるような人になれるよう頑張っていくわ」
「……シルファ、部屋に行くぞ」
「ええ」
彼女達が並ぶ玄関を抜け、美しいカーペットが敷かれた階段を登り始めた。それにしても、使用人があんなに笑顔なんて……私の家ではそんな人いなかったな。
「君の部屋は俺の隣だ。準備もそこにしておけ。君は片付けに時間がかかるだろうから俺は部屋に戻っている」
部屋に入ると私の好きな桃色の花柄の壁紙で飾られた日当たりの良さそうな所だった。
これは私への気遣いなのだろうか。妻の存在への待遇を考えてのことなのだろうか。
タンスも棚も開いて、自らの少ない持ち物を片付けてると、時間もかなり過ぎ夕方になっていた。実家から持ってきたものはほとんど無いけれど軍での生活で必要なものは多かったらしい。武器の手入れを始めれば時間なんて一瞬だ。
「シルファ、もうそろそろ食事だぞ」
「えっ、あ、はい!」
時間の感覚が薄まり始めていた私は扉の外声のする方へ駆けた。
机に着くと既に料理が用意されていた。
アルディスは席に着くなりすぐご飯を食べ始める。
「シルファも食べるといいよ」
「え、わぁ、凄い!……美味しいわね」
「そうか」
「騎士団や家での食事は冷たかったから……ご飯ってこんなに美味しいものなのね」
ジュウェルにはなんでも良いから得意なものをとは言ったけどにしても特別美味しい。使用人の質もいいようだ。彼は持っている人なのだとさらに思い知らされる。
「あぁ。彼の作るご飯はいつでも美味しいよ」
アルディスは私の顔を覗き微笑んだ。
カチャン。アップルパイを食べ終えフォークを置いた私は彼に語りかける。
「ねぇ……今日はどこで寝るの?」
「……各自の部屋だ。隣の部屋にはいるつもりだから何かあったら俺に……」
「そう。じゃあ、おやすみ」
「あぁ」
「ふっ……あはは、私、なんで……」
1人になった部屋の中、涙が頬をつたっていた。
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