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第1章 縛られた自由

1-2 恐怖と共に

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 いきなり現れた騎士であるアルディスに向き合う父は私たちへの苛立ちをさらに募らせたようだ。眉を釣り上げ床の石材を踏みしめている。
「なんだと。お前は誰だ。私が貴族と分かっての対応なのだろうな」
「いや、別に。この話は身分が関係するものでもないんですけど……あ、団長」

 ガシャガシャとようやく聞き慣れた音を立てて鎧に包まれた団長が現れる。彼が団の拠点から出てることも少ないはずだ。そんなそうそう無いことが更に無い父との遭遇時に重なるなんてことがあるとは珍しいこともあるらしい。
「この者が何か」
 こもった渋い声が父へ降り注いだ。常に戦いでしか見られないような強さが滲む団長を怖く思ったのか父はその低い声にびくりと肩を揺らしていた。

「あ……ああ、そうだ。即刻この者を辞めさせてくれ。私はシルファの親だ。シルファを領地に返すことにしている」
「そうですか。では、とりあえずこちらに。アルディス、シルファ。私が呼ぶまで応接室の前で待ちなさい」
「……っ、はい!」
「はい」
 怒りを現す父とは反対に冷静を極めている団長はスタスタと先に行ってしまう。私はアルディスと2人、騎士団入口に取り残された。


 私の都合でさぞ面倒でうるさかっただろうと、門番係に迷惑をかけたことを小さく謝りながら、2人で指定された部屋へと進む。これからの仕事は団の他の者に任せる他ないだろうか。いや、そんなこと考えてる場合では無いのかもしれないけれど。

 私はその間もぐるぐると悩みを抱え続けていた。
「ねぇ、アルディス。団長に帰るよう言い付けられたらどうしよう。帰りたくないの、あんな所になんて」
「あー、大丈夫だろ。団長ならお前を家に返す以外の方法で何とかしてくれる」
「そうだといいけど。私、まだあの家の籍があるはずなの。だから、あの人の言うことが通ってしまったら……」
「大丈夫だって」
 そう言ってアルディスの手が私の頭に置かれる。何気ない接触に心臓が強く跳ねた。
 私は貴族だったからこそ異性関係になれていないのに、アルディスはそんな私へ当然のように触れてくる。先日のことなど彼には日常なのだろう。

「シルファなら大丈夫だ」
「……そうね」
 アルディスと団長、2人の存在が支えになって心には高圧的な父に追い詰められない程の余裕ができていた。

 私たちが部屋に着くと団長と父が部屋から出てきていた。私たちが会話でそんなに時間をかけても居ないのに彼らの会談はとても早く終えたらしい。
 小走りで部屋へと向かうと早速、団長に呼びかけられた。

「シルファ、アルディス、この部屋に入りなさい」
 私を見て恨ましそうにしながらも、団長の裏から飛び出した父はそそくさと出ていった。あの様子はなにかに怯えている?でも、団長は一般市民には優しく接するはず。では、何に恐れを?あの面倒で意地を張ってウザったらしい父がこんなにすぐ帰るのだから理由がしっかりあるはずなのだ。

 団長が私たちが並んで立っている前の席へと促され、座る。2人がけのソファーのふんわりとした座り心地を前にしても、今から怒られるのではと思わせるほどの気迫だ。
「シルファは今日も巡回ご苦労様。いつも頑張ってるとの話、市民からも君の上司からも聞いているよ。アルディスも、覚えがめでたいようだ。王子とも仲良くやっているらしいな。2人とも騎士として素晴らしい働きだ……っていや、今回はこの話をしに来たのではなかったな。こほん、まぁ、それはそれとしてだな、シルファ。君のお父様とのことだけど、君は領地に戻すことはこちらとしても出来ないんだ。シルファとアルディスにはすまないのだが、我らの国の事情に付き合って貰う」
「我が国の事情でございますか?」
 何時ものように騎士を褒めたたえた団長はぎゅうと手を前に組んだ。

「あぁ。重大なね。ここからは国の重要機密だから当事者と俺達上官しか知ることは出来ない。だから、シルファの父上にも説明をしっかりとした。これ以上、私たちに関わると国からどうされるか、とね」
 鎧の下から鋭い目が煌めく。
 
「そして、ここからが本題なのだが。君たち、アルディスとシルファには結婚してもらうことになる。これは王命だ」
 
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