魔王討伐パーティのご飯係は幼馴染の勇者に流される転生者

月下 雪華

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2-2 彼と再会

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 魔王討伐の噂を聞きつけた町の者達に歓迎され、勇者一行は夜遅くスキンファクシ騎士団の練習棟へたどり着く。
 ラズにとっては数ヶ月ぶり、勇者になってからは初めてのことだった。
 そこで私、エリナ・フランシュは初めて彼のパーティを目にする。彼らは戦闘続きであったはずなのでボロボロの格好をしているのかと思いきや、彼らにとってのいつも通り、美しく華やかな身なりと見た目をした青年、少女達であった。誰も彼も、平民それも元孤児であったラズ以外は皆貴族らしくきらびやかだ。顔がしっかり見えずとも整っているのであろうことは広間を覗く廊下の端からも確認できた。騒ぎ方が貴族というだけではならないほど激しい。

 彼らにスキンファクシ騎士団の騎士や手伝いの人たちが集まっている。
「お疲れ様!ラズ、お前はやるって信じてたぞ!」
「おー、まぁな」
「王子様も凄かったですね。ご婚約者様も喜ばれますよ」
「そうか。ありがとう」
 私は煌びやかかつ華やかな空気に押されながらもそろそろと彼らに近寄る。彼らはまだ着いたばかりで、うちの団長とも会っていないようだし椅子に座ったりして休んでもいないようだ。ゆっくり人々の中から彼らを覗き込む。

「それにしても、やっぱりここは変わんないな。まぁ、出てからそんな経ってないもんな。魔王までが短すぎて感覚の違いってやつだな」
「そうだな。活気だって季節だって君とここを出る時となんら変わらないだろう。私が城を出て、この街に来て、君たちと魔王に会うまではとても長く感じたのに」
「そうだな、って……あ」
 囲みの奥で箱を抱え眺めていた私を見つけ、駆け寄られる。その瞳に赤い光が走る。

 そのまま目の前に立ち止まったラズは強く私の腕を引っ張られ、ぎゅうぎゅうと彼のアーマーへきつく抱きしめられる。こんな態度を取る人ではなかったはずだが、私はそれが嬉しかった。
「……ラズ。おかえりなさい」
「エリナ、ただいま……なぁ。俺、今から寝るから他はお前らに任せたわ」
「……え?」
「ああ。それは相分かったが、急ぐなよ。その鎧は脱げ」
「おー」
「……っ!?わっ!」
 私をわしっとお腹の横に抱えるとラズはだんだんと勢い強く彼の部屋に競歩で向かいはじめた。

 周りの視線を集めながらラズは進んでいく。それ以上に周囲からは彼の素晴らしい結果への感謝と賛美、私を連れ去っている状況への困惑の声が聞こえてくる。流石に恥ずかしいが私が彼を止められるはずもなく。
 酔ってしまいそうで閉じていた目を彼が静止したと同時に開けるとガチャガチャとラズの部屋を開ける所だった。
 私はボフンとベッドに転がる。
「えっと、ラズ。貴方、どうしたの?」
 私はずっと困惑して動かなかった口を動かす。

「俺は眠い。だから、寝る。それと飯、美味かった。ありがとう」
「え?あ、うん」
 カシャカシャ、ガシャン。ドシャッ!
 手荒く固く重い鎧を落とし、私を押し倒し、抱きしめるようにして彼もベッドに転がる。

「……おやすみ」
「お、おやすみ?」
 ラズはぎゅうぎゅうと私を抱き抱えて、腕の檻に捕えた。私は何をしてもここからは出られなさそうだ。

 私もラズもお風呂に入っていないし汗と泥で汚れたままだし汚い。でも、彼はもう寝いってしまったようで寝息が聞こえてきた。
 まぁ、後で布団とかは洗えばいい。ラズがやっと帰ってきたのだ。彼がしたいようにしてもらうのがいいのだ。この行動への気持ち悪さよりも彼への安堵が強く思える。

 ふと、鼻につく臭いが温かな肌から香る。……これは血の香り。危機を感じさせるその臭いに、私はそんなことにも気づいていなかったことに気づいた。彼は必死に生きていたのだ。
 落とした涙は彼の服へ染み込んでいく。


 これからの世界が彼にとって良いものでありますように。
 そう思いながら私は目を瞑った。
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