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酒にめちゃくちゃ弱いらしい俺はいつも記憶がない
久しぶりと記憶(終)
しおりを挟む絶望に飲まれていても、折角の休日だし、日用品も足りないしで今日は仕方なくも外に出てみることにした。
激しく眩しい太陽が目にしみる。
顔の浮腫だって取れてないし目元もぐちゃぐちゃだが生活に必要なものは必要であって、買い物は今日にでもしなくてはならないことであった。
「あ」
顔を隠しながら通り過ぎる花屋の脇、久しぶりに見たのは1人でいる過去の想い人。目敏くこちらに気付き向かってくる姿がわかりやすくベルンハルトに似ていることに気づいてため息を吐く。彼も彼だ。自分で振った男に声をかけに来るな。気まずそうにしろ。
「エルンスト。久しぶりだな」
「……そうだな。久しぶり。ユルゲン」
「お前の方も元気にやってたかって……お前、泣いてたのか?」
ユルゲンが俺の目元を撫でてくる。
「え、や、違くて、その……」
真剣そうな彼にどきりと心臓が動く。こういう接触に俺は落ちていったのにこいつはまだそれを続けているようだった。
それにしてもあいつのことで揺らいでいる時に過去の想い人に会うなんてなんて日なんだ。彼に会わないように隣町にベルンハルトと2人で越してきたと言うのになんでよりによって今日なんだ。そんなこんなで現実逃避をしているとユルゲンよりさらに聞き覚えのある声がした。
「エルンスト、貴方何してるんですか?」
ユルゲンの後ろの路地から現れたのは先程から頭に居る1人の男。ベルンハルト・ブラウンであった。
「ベル、どうしてここに?」
「早く仕事が終わったんで買い物をしようかと。そしたら、エルが居たから声をかけに来たんです。エルの方でも買ってくれていたんですね」
数歩ベルンハルトが歩みを進めるとユルゲンが俺を守るようにベルンハルトの前に立ち塞がる。
「お前……俺からエルンストを奪うって言ってたのにエルのこと大事にはしねぇのな」
「貴方に言われることでは無いですけれど」
「いや。言うことだね。俺はこいつの幼なじみだ。それは変わらない事実だろう」
「……そうですか。ですが、貴方よりもオレにとって大事な人です。離れてください」
何か白熱しているようであったが、俺はそれに戸惑った。2人ともの穏やかでない様子など見たことがなかったからだ。2人の間に何があったかと思うが、とりあえず声をかけやすい方であるベルンハルトに静止の言葉をかけた。喧嘩なんてなったら周りになんて言えばいいか分からない。
「ベルンハルト、いいよ。俺たち一緒にいるべきじゃなかっただけだろ。俺がずっと間違ってたんだから」
「は?」
「ベル、俺だって分かってるよ。俺の事、本当に好きだと思ってないって」
「は?」
その声を聞いた途端、ベルンハルトの頬に一筋涙が溢れて行く。
「な、何?」
「オレは、おれは……」
「?ベル、元々オレって言ってたっけ。俺、それは知らない顔だったな。それに、ユルゲンのこと直ぐに分かるなんてどういう付き合いで知ったんだ?俺の知らないとこで会ってたのか?」
「はぁ?……貴方もしや、オレとした会話覚えてないんですか」
「え?そんなつもりないけど」
ユルゲンの体を押しのけ詰めかかってくる。彼の虚ろで異様な様子にユルゲンさえ呆けたように眺めていた。
肩を掴まれて、顔を見合わせる。
「貴方もしかして酒入ってると記憶が無いんですか?」
「うん、そうみたいだけど、それで何かあるか?夜の記憶の一部がないだけだろ?」
「……帰ります。ユルゲンさん、貴方はエルンストのことを思うなら去ってください。この人の勘違いを治して、説得します」
「……俺はいた方がいいと思うから、ここにいたんだが。エル、お前はどうなんだ」
ギリギリと聞こえる歯ぎしりと圧を感じ続ける手のひら。
「お、俺は……だ、大丈夫。だから帰っていいよ」
「……今度、顔見せに来いよ。ペラと待ってる」
ズキリ、心臓が傷んだ。
家に着くと俺の体はベッドへと放り投げられる。
「ベル、なにがあったんだ?俺何かしてたか」
「……エル、そんなに酒に弱いならもう酒飲まないでください。好きで毎夜記憶飛ばしてるの異常ですよ」
「そうじゃないとやってけないんだよ。だって、ずっといっぱいいっぱいで……」
「でも、俺の気持ち何も伝わってなかったってことですよね?」
ベルンハルトは俺に馬乗りになった。俺は抵抗はせずにそのままを受け入れた。
「……いつもいっぱいいっぱいでよく分かってないんだ。酒呑んでるのも全部記憶飛ばせるからだ」
「エルの馬鹿…。外で馴れ馴れしくしないでとか、名前呼ばれるのは特別だから2人でいる夜だけがいいなとか言ってたのなんだったんですか」
「へ?」
ベルンハルトは俺の顔を引っ掴んで顔を見合わせて教え込むように語りかける。
「将来有望な騎士と付き合ってるってバレたら他のやつに怒られるとか言うから気づかれないようにしたりしてたのに、貴方はそれを覚えていないと?」
「嘘だろ?」
「嘘じゃない。じゃあ今日はお酒飲まないで一緒に居てくださいよ。絶対、絶対思い知らせてやるからな」
「あ、え、」
喰われるようなキスは俺を蕩けさせるには十分であった。
「ねぇ、ウール。オレが言ってたことちゃんと分かった?」
「うん……」
ドロドロのベタベタ、ぐちゃぐちゃの布団の中で温かな体温に包まれていた。はふと1つ息を吐いて、ベルンハルトの胸元に擦り寄る。
「もう愛してないとか言いませんよね?オレの隣から離れませんよね?オレの気持ち伝わりましたよね?別れませんよね?あれがただの後輩だって分かりましたよね?」
「……うん。ベル、昨日はあんなこと言って悪かった。ちゃんと理解したよ。色々とその……恥ずかしかったけど」
ベルンハルトの手が上へと回って頭を撫でられる。ポカポカと温かい温度が俺を包み込んだ。
「良かった。もうお酒禁止ですからね。これからあんなことあったらもう俺が何をするか。また、エルンストに教え込むことになりますよ」
「……それは、ちょっと魅力的だけど。もうしないよ」
「しないでください」
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