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ウォルターの怒りとベアトリスの困惑

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 ガブリエルさんの手をギリギリと音を立てて握ったウォルターは、苛苛とした感情を隠せないように低く吼える。
「おい、ヴェルレー。ベアトリスに触れるな。ビーはこういった接触に慣れていないんだぞ」
「おや?でしたら、慣らさなければ。そうしなければ、今後一切触れ合いに慣れることなどありませんよね。この世とは何事も挑戦なのですよ、ウォルター。人にとって守るだけが全てでは無いのです」
「……今すぐに口を閉ざせ。そして、今すぐ手を離せ」
 いつも温和な態度であるはずのウォルターは、ヴェルレーを威嚇する様な粗野な口調とヴェルレーを突き放す様な乱暴な動きを取り続けている。

「はいはい。分かっているよ。はぁ、男の嫉妬は見苦しいね。それこそ、君の奥さん程に可愛らしい女性にされるのは素晴らしいと思うけどね」
「……ヴェルレー。そろそろ死ぬか?」
「いいや。僕はまだ死にたくは無いかな。ふふっ、聞いていた通りだな。……では、ウォルター。また軍部で。マードック男爵夫人もまたお会いしましょう」
「え、ええ」

 胸の位置で小さく手を振ってヴェルレーが私たちの元から去っていく。
 彼の軽い足取りが人にまみれて見えなくなった所でウォルターを見上げると先程は皿を持ち上げていた手で顔を覆っていた。
「……なぁ、ビー。今日はここらで帰ろう」
「え、もう?でもこの会はまだ、始まったばかりじゃ」
「いや、帰ろう。な?」
「う、うん」
 彼から漏れる不気味な圧に圧倒され帰ることとなった。ニコニコと態とらしい笑みを浮かべてはいても目が笑っておらず苛ついている様子が隠せていない。ガブリエルさんのせいなのかウォルターの機嫌は悪そうだ。

 これは言う通りにしておいた方がいい。


 馬車の中、カラコロと馬車の動く音と振動が伝わる。
 ウォルターのピリピリとした怒りが柔らかな生地を突き抜けてくる様で嫌だ。
「……ビー。俺達は今後、こういう夜会を控えよう」
「え?」
「今日みたいな社交や移動はかなり疲れるだろう?それならば俺たちはやめておこうと思うんだ。社交で人脈を作るようなことも必要としていないからな」

 ぷちん。
 私が必死に止めていた部分が壊れる音がした。

 それすらさせてくれないというのならば私の存在は何であるのだろう。

「……そうですか」
 やはり彼に「妻」は要らないのだろう。

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