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11「ヴィオラはどうしたいんだ?」

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「俺と結婚するだとしても俺が構わないのだから作家をやめなくて良いだろう」
 これが彼女の核心を突いていても、いつもと返答も接し方も変えない。
 どのようなヴィオラに対する言葉もヴィオラには変わらないのだから。俺は彼女を何時でも慈しむし、何時でも愛しているし、何時でも強くあると思っている。
 彼女には迷っても、怖がっても、在りたい姿へ戻ってくるし、それが出来る力がある。
 だから、もう一度彼女に声を掛ける。

「俺がでは無く、ヴィオラはどうしたいんだ?」

 
「で、でも!私は!」
 ヴィオラはガタンと音を立ててソファーから立ち上がった。フラフラと頭を抑え混乱している様を体に表す。

「……俺の母は刺繍狂いだ」
「へ?」
「母は自分の手で刺繍をするのが本当に大好きで、ちょっとでも時間が空いた時は大抵糸と布を持ってチクチクと針を動かしていた。本当に公爵夫人としての責がなければ常にとでも言えるくらいだ。その母は何があっても、何を言われても刺繍を辞めなかった。ヴィオラだって好きなのだろう。母のそれとヴィオラの物語は同じ様なものだ。ヴィオラがそれを続けた所で何が悪い。ヴィオラはヴィオラだろう」

 そう言い切るとヴィオラはピタリと動きを止め、俺を見つめる。

「ラヴォンド様……私、辞めなくていいんですか」
「あぁ。辞めるな。母にはよく女の夢を壊すなと言われているんだ。1番傍にいて、1番大事なヴィオラの夢を壊すのはそれに背いている。そんなことをすれば母に殺されてしまう」
「ら、ラヴォンドさま……」

 その言葉を皮切りに目の前にあるヴィオラの桜桃色の瞳が潤んだ。
 そこから一筋の涙。
 そこからはもうポロポロと雨のように頬が滴る。

「えっ、ヴィオラ。大丈夫か?泣かないでくれ」
 俺はヴィオラを肩に押し込めながら、ポケットからハンカチを取り出す。
「こ、これ……ラヴォンドさまのおかあ、さまのししゅうですか?」
 そう言って彼女が俺の手に触れながら、白地に金の家紋とイニシャルが入ったハンカチを見つめる。
 
 手、手!?い、いや、彼女が、俺の手を!?
 い、いや、れ、冷静に。
 深く呼吸を3回して、息を整える。腕を振り払って暴走してしまいそうだった。

「そ、そうだ。家の者が全員もういらないというほど家にあるからと持ってるだけだけどな」
「ほ、ほんとっ、にやめ、なくっていいの、ですか?」
「……そうだ。母だって俺だって好きなようにしているんだヴィオラだって好きなことを突き詰めるべきだろう」
「ありがとうございます……」
 抱きしめられた事に動揺し、上へ上げていた手を宥める為に背中に手を回す。

 だが、彼女はどうしてか体が異様に温かい。先月のそれとは比にもならない。
 あつい。
 
「ヴィオラ」
 体を離して、手でおでこを抑える。


「なぁ、ヴィオラ、先程は違うなどと言っておきながらちゃんと熱があるじゃないか」


「へ、」
「茶会なんてしてる場合では無い!早く寝ていろ!」
「きゃ!」
 ヴィオラを横抱きにして部屋を出る。今は肌が触れ合う事など気にしてはいけない。彼女の健康が最優先だ。

 大きな音を立てて談話室から出ると部屋の前にいた侍女は目を丸くして、動きを止める。

「済まないが、ヴィオラの部屋はどこに」
 固まっていた彼女も俺の様子を見て合点したようで、彼女に連れられてヴィオラを自身のベッドへ運んだ。


 その時、彼女の部屋を見た事は忘れてしまいたい。彼女の肌の質感も。
 今後あの家へ行く度に意識してしまう。折角、彼女の不安を取り除く手伝いができたのに俺が駄目になってしまうと必死に忘れられるよう頭を動かした。


 ……流石に出来ない事ではあったが。
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