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3「……ラヴォンド様、是非私にそれを教えて貰えませんか?」
しおりを挟む「キスに軽く唇を合わせるもの以外の種類が……舌を絡める、ようなものがあるのだと言うんですが……ラヴォンド様、是非私にそれを教えて貰えませんか?」
ヴィオラはそう口に出しながら、蕩けた瞳を俺に向ける。
先程以上にどくんと血が巡るのがハッキリ聞こえてきて、今まで聞いた事のない程大きな心臓の音が響く。
今、ヴィオラはなんと言った。
あの貞淑なヴィオラが?何時も控えめで今もついさっきまで触れたと分かるだけのバードキスですら初めてであったのに、フレンチキスを?
ヴィオラはまだ閨教育を受けていないと聞いてはいたが、こんなにも無垢というかなんというか……だが、俺にこんなことが許されて……
い、いや、これはどうするのがいいのだ。これは、流石に、いや、でも……
「……ヴィオラ。君は、俺のことを、どう思っているんだ」
ふと口をついて出たのは、質問の返答ではなく昨日から胸に疼く擦過傷への返答を求める言葉だった。
足を1歩進めると、ヴィオラが俺から逃げるように足を動かした。ふよふよと四阿の端で蝶が飛び立っていく。
「え、ら、ラヴォンド様は婚約者……です、よね?」
そして、答えは思っていた通り。愛するでも、「私の」と主張するでもない、ヴィオラにとっての「婚約者」。それが俺なのだ。分かってはいるがどこか心が痛む。
「……では、今日は駄目だ。やめておこう」
「え」
彼女にとって俺は、擬似恋愛の対象にするのに「都合のいい」だけの存在だ。分かってはいたが、可愛らしい彼女の願いと言ったってこの関係の中でそこまで許してしまうのは彼女の為にも許してはいけない。先程のキスだってこの関係では気軽にしていいものではない。
俺はそう思うし、彼女にもそうあって欲しい。
「ヴィオラのお願いは聞きたいが、流石にそれはダメだ。君は創作者であっても伯爵令嬢なんだから」
俺は、せめてそういう触れ合いは結婚してからだと思うし、許されるのだとしても思いあった恋人だけだろう。
他の女遊びに慣れた男ならしてしまうのかもしれないが、俺はヴィオラしか見ていないしヴィオラしかいない。そんな俺が大切にするヴィオラには純粋無垢で清らかに、出来る限りの彼女が望むことをして緩く過ごして欲しい。それがただの婚約者である僕の望みだ。
「そうですか……では、もう一度担当さんに聞きましょうか。それなら、具体的に知ることができますものね」
「そうだな。最初から同性の者に聞いた方がいい」
「え、いや、私の担当さんは男性ですが……」
俺は目を見開く。
庭園の中でさぁっと風が巻き起こっていた。
ヴィオラはそんな俺を見て更にぽかんと愛らしい表情を浮かべている。
「……本当なのか」
「ええ、 私の担当はエラーブルさんという男性の方です」
「……この前描写力褒められたとか言っていたな」
「そうですね。主人公の心理描写が素晴らしいと」
「……そうなのか」
なんだ。そうなのか。
俺以外にも居るんじゃないか。家族以外の彼女に近い男が。
最も知りたくなかったことが目の前に現れ、ぐにゃりと回る世界に考えが纏まらない。堪らない気持ちになってぐしゃぐしゃと前髪を崩す。
せめて、せめて彼女が俺を……
いや、そういう問題では無い。年上として、頼れる存在として、余裕を、余裕を取り戻さないと。彼女の優れた婚約者で在らねば。
「うーん、あの、ラヴォンド様はどうした方が良いと思われますか?」
そう喋る彼女から覗く舌が艶やかで、小さくて、果実のようで、可愛くて。
俺の頭で巡るぐちゃぐちゃな思考が、理性が、ドロリと溶けて、留まって。欲が、俺の隠したい感情が晒される。
俺が先に初めてを奪っておけば。ヴィオラの初めては誰にも──
くちゅ
音を鳴らしてその舌に俺の舌を絡ます。腕を力強く引いて、自由を奪い、腰を支え、ヴィオラのナカに押し付ける。
ぺちゃっ、ちゅう、じゅるる、ちゅ
彼女の甘い咥内からはしたない水音が止めどなく聞こえてくる。自分にとっての初めての女性との触れ合いによる直接的な快感に、止まれなくなる。
気持ちがいい。
柔らかな質感と熱い体温に飲まれながら合わせ続けていると、こくこくと2人分の唾液を飲み込む音が聞こえてくる。
俺と同じように快楽に溺れるヴィオラを見たくて、目を開けると困惑しているヴィオラが居た。唐突な行動に流されて、戸惑って揺れる瞳が。
ふっと意識が戻る。
「……っ、すまない!……あ、も、もう時間か。では、ヴィオラ今日の所は失礼する!」
礼儀もまともなフリも儘ならなくなった俺は、彼女をそのままに逃げ去った。バタバタと貴族らしさを無くした姿で。
俺に向けて零した彼女の言葉も聞かずに。
「ラヴォンドさま……」
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