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作中作「ファム・ファタール」プロローグ

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 ずっと退屈な人生だった。


 最初から決められた感情の薄い婚約者に、不倫や浮気に塗れた家の事情。全てが嫌いで、全てが苦しかった。

 だから、婚約から結婚に向かう間、私は目いっぱい遊んだ。

 可愛らしい女の子がいれば口説き、後腐れ無い女たちとも何度も関係を持った。楽しさや気持ちよさを求めている間は息が楽だったから。即時の多幸感があったから。

 最初にこの生活を始めた理由はもう忘れた。
 親も婚約者も使用人も誰も彼も、私を気にしない生活をしていたからどうでも良くなっていたのだ。誰も私を気にしないのなら、何をしても同じなのだ。私が私を大切にしなくても。

 快楽だけは世界にいる意味を見いだせない私を即時に幸せに導いてくれる。
 その感情は違法な薬物にも似ていて、今から手放すなんてことは難しく思えた。依存性が高くて、それがないとずっと苦しかった。

 私の前に彼女が現れるまではそうだったのに。

 輝くような琥珀色の髪に、豊かな胸と締まった腰を持つスタイルの良い体。果実の様なぽってりとした唇と宝石のように輝く真ん丸な目を持った妖精のような美しい少女、アンバーが現れるまでは。


 腕の中にある彼女の温かさは私に安らぎを与える。
 彼女の隣にいれば今だけでも共にあると安堵感を与える。

 彼女からの言葉は夢のよう。
 彼女の存在は優しい魔法のよう。


 私自身、もう既に彼女の沼に沈んでいる自覚がある。
 だが、もう戻れない。


 彼女は私の運命の女性ファムファタールなのだから。

「美しい私のアンバー。私と共に素晴らしい夢を見よう」

 
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