推しの幼なじみになったら、いつの間にか巻き込まれていた

凪ルナ

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中学生編

11.少女漫画じゃあるまいし

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 私達の通う中学校、鳳麟ほうりん学園の中等部は、給食がない。代わりに、食堂があったり、イタリアンやフレンチのレストランがあったり、カフェがあったり、テラスがあったり、なんでもござれな、なんともお金持ちの学校らしい感じなのだ。
 まあ、そんなわけなので、あまり待たずに食べることができるのだ。
 ということを考えていたのは、先ほど四時間目の授業が終わり、昼休みに入ったからだ。

 (何食べようかなー、ビーフシチュー、オムライス、うどん、うーん、迷う)

 お昼に食べるものに悩みながら、そーくんとれーくんたちといつも食べているところへと移動していた。

 「七海。次の授業で使う資料があるんだが、教室に運んでおいてくれるか?」

 担任の先生に呼び止められたかと思ったら、雑用を申し付けられた。あ、そういえば、今日私日直だったっけ。

 「分かりました」
 「悪いな」
 「いえ、大丈夫ですよ。
 ごめんね、そーくん、れーくん。先行ってて」

 申し訳なさそうな顔をして頼んできた担任の先生に笑顔で返して、そーくんとれーくんに振り返る。そして、先に行くように頼むと、ものすっごい嫌そうな顔をした。そして、ため息をついて「手伝う」と言ってきた。

 「あー、一人で十分運べる量しかないから、二人も三人も必要ないんだわ。すまんな、夏目、日向」
 「だって。私一人で大丈夫そうだし、先行って席でも取っててよ。ね?」

 眉を顰めて不服そうな表情を隠そうともしない二人に、そう首をこてんと傾げて頼むと、仕方なさそうにまたため息をついて「分かった」とようやく頷いた。「じゃあ後でねー」と手を振って見送るも、チラチラと振り返ってこちらを見る二人に、過保護だなあと苦笑をこぼす。

 そして、担任の先生と職員室に向かい、頼まれた資料を手に教室に戻る道を歩く。ちなみに担任の先生は私に頼んだ後、コーヒー片手にパソコンでカタカタを作業を始めていた。何気に先生ってブラック企業並の作業量だよね。お疲れ様です。

 資料は本当に一人で十分な量しかなかった。でも、一人だとちょっと重い。よたよたと歩いていると、心配そうな視線を頂く。
 よいしょ、と抱え直して、再び歩き始めた。昼休み特有のガヤガヤとした雰囲気に、近くで笑い声が響いていて、元気だなあと軽く微笑んだ。その時。

 ドンっ。

 「わっ」
 バサバサっ。

 「おっと、」

 曲がり角から出てきた誰かにぶつかった。と思ったら、後ろに倒れそうだった体を、腰に腕を回されて支えられた。

 私を支える、男の人の、細いけれど引き締まった、力強い腕。ふわりと香る爽やかな制汗剤の匂い。
 その全てに驚いて、ここまで身近に感じる男の人は、おとーさんや弟とそーくんとれーくん以外で初めてで、そんな状況じゃないはずなのに顔が熱くなるのを感じる。

 「大丈夫?」

 心配そうに顔を覗き込まれ、はっと意識が戻り、慌てて離れようとしてもがくも、「このまま俺が腕離すと危ないよ?」と声をかけられ、(あ、これ、支えになってる腕離されたら尻もちついて倒れるやつかも)と思い至り大人しく断念する。

 「だ、大丈夫です…」

 返事をすると、「ごめんね」と声をかけられて、グイッと体勢を整えられ、私を支えていた腕が離れていく。それに少し寂しさを感じ、何を考えているんだと自分で自分を心の中で叱咤した。

 「すみません」
 「いや、君は悪くないでしょ。曲がり角だったんだから、こっちが気づいて止まれば良かったわけだし」

 そう困ったように笑う、この優しそうな人は、ーーつい最近会った、というか遭遇した天春景希の兄、では…!?
 まあ、チラッとしか会ってないから向こうは覚えてないかな。

 「あ、いえ、」

 こっちも廊下の端の方を歩いていた訳で、避けるのも難しかっただろうと思って小さく首を振る。
 って、それよりも盛大に落とした資料を集めないと。すぐにしゃがみこんで資料を拾い集める。

 (にしても、重いもの持った女の子がイケメンとぶつかるって…、少女漫画じゃあるまいし…)

 すると、「ごめん、先行ってて」と友達に声をかけた天春景希の兄が床に散らばった資料を拾いだした。

 「え、あの…?」
 「ぶつかっちゃったのは俺だし、これくらいさせてよ」

 また困ったような笑みを浮かべてそう言って、資料を拾い出す。

 「君、ヒロと前に話してた子だよね?」

 視線は床のまま拾いながら、口を開いた天春景希の兄は私にそう問いかけてきた。問いかける、といった体ではあったけど、完全にそう断定しているみたいだ。

 「は、はい」

 (ていうか、覚えてたんだ…)

 「俺、ヒロの兄で、天春倖誠こうせい。よろしくね」

 顔を上げてニコっと笑ったその顔は、『君ラブ』で見ていた時よりずっと幼くて、ずっと年相応で、『お兄ちゃん』の顔じゃなくて、『男の人』の笑顔だった。


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