推しの幼なじみになったら、いつの間にか巻き込まれていた

凪ルナ

文字の大きさ
上 下
15 / 19
中学生編

11.少女漫画じゃあるまいし

しおりを挟む

 私達の通う中学校、鳳麟ほうりん学園の中等部は、給食がない。代わりに、食堂があったり、イタリアンやフレンチのレストランがあったり、カフェがあったり、テラスがあったり、なんでもござれな、なんともお金持ちの学校らしい感じなのだ。
 まあ、そんなわけなので、あまり待たずに食べることができるのだ。
 ということを考えていたのは、先ほど四時間目の授業が終わり、昼休みに入ったからだ。

 (何食べようかなー、ビーフシチュー、オムライス、うどん、うーん、迷う)

 お昼に食べるものに悩みながら、そーくんとれーくんたちといつも食べているところへと移動していた。

 「七海。次の授業で使う資料があるんだが、教室に運んでおいてくれるか?」

 担任の先生に呼び止められたかと思ったら、雑用を申し付けられた。あ、そういえば、今日私日直だったっけ。

 「分かりました」
 「悪いな」
 「いえ、大丈夫ですよ。
 ごめんね、そーくん、れーくん。先行ってて」

 申し訳なさそうな顔をして頼んできた担任の先生に笑顔で返して、そーくんとれーくんに振り返る。そして、先に行くように頼むと、ものすっごい嫌そうな顔をした。そして、ため息をついて「手伝う」と言ってきた。

 「あー、一人で十分運べる量しかないから、二人も三人も必要ないんだわ。すまんな、夏目、日向」
 「だって。私一人で大丈夫そうだし、先行って席でも取っててよ。ね?」

 眉を顰めて不服そうな表情を隠そうともしない二人に、そう首をこてんと傾げて頼むと、仕方なさそうにまたため息をついて「分かった」とようやく頷いた。「じゃあ後でねー」と手を振って見送るも、チラチラと振り返ってこちらを見る二人に、過保護だなあと苦笑をこぼす。

 そして、担任の先生と職員室に向かい、頼まれた資料を手に教室に戻る道を歩く。ちなみに担任の先生は私に頼んだ後、コーヒー片手にパソコンでカタカタを作業を始めていた。何気に先生ってブラック企業並の作業量だよね。お疲れ様です。

 資料は本当に一人で十分な量しかなかった。でも、一人だとちょっと重い。よたよたと歩いていると、心配そうな視線を頂く。
 よいしょ、と抱え直して、再び歩き始めた。昼休み特有のガヤガヤとした雰囲気に、近くで笑い声が響いていて、元気だなあと軽く微笑んだ。その時。

 ドンっ。

 「わっ」
 バサバサっ。

 「おっと、」

 曲がり角から出てきた誰かにぶつかった。と思ったら、後ろに倒れそうだった体を、腰に腕を回されて支えられた。

 私を支える、男の人の、細いけれど引き締まった、力強い腕。ふわりと香る爽やかな制汗剤の匂い。
 その全てに驚いて、ここまで身近に感じる男の人は、おとーさんや弟とそーくんとれーくん以外で初めてで、そんな状況じゃないはずなのに顔が熱くなるのを感じる。

 「大丈夫?」

 心配そうに顔を覗き込まれ、はっと意識が戻り、慌てて離れようとしてもがくも、「このまま俺が腕離すと危ないよ?」と声をかけられ、(あ、これ、支えになってる腕離されたら尻もちついて倒れるやつかも)と思い至り大人しく断念する。

 「だ、大丈夫です…」

 返事をすると、「ごめんね」と声をかけられて、グイッと体勢を整えられ、私を支えていた腕が離れていく。それに少し寂しさを感じ、何を考えているんだと自分で自分を心の中で叱咤した。

 「すみません」
 「いや、君は悪くないでしょ。曲がり角だったんだから、こっちが気づいて止まれば良かったわけだし」

 そう困ったように笑う、この優しそうな人は、ーーつい最近会った、というか遭遇した天春景希の兄、では…!?
 まあ、チラッとしか会ってないから向こうは覚えてないかな。

 「あ、いえ、」

 こっちも廊下の端の方を歩いていた訳で、避けるのも難しかっただろうと思って小さく首を振る。
 って、それよりも盛大に落とした資料を集めないと。すぐにしゃがみこんで資料を拾い集める。

 (にしても、重いもの持った女の子がイケメンとぶつかるって…、少女漫画じゃあるまいし…)

 すると、「ごめん、先行ってて」と友達に声をかけた天春景希の兄が床に散らばった資料を拾いだした。

 「え、あの…?」
 「ぶつかっちゃったのは俺だし、これくらいさせてよ」

 また困ったような笑みを浮かべてそう言って、資料を拾い出す。

 「君、ヒロと前に話してた子だよね?」

 視線は床のまま拾いながら、口を開いた天春景希の兄は私にそう問いかけてきた。問いかける、といった体ではあったけど、完全にそう断定しているみたいだ。

 「は、はい」

 (ていうか、覚えてたんだ…)

 「俺、ヒロの兄で、天春倖誠こうせい。よろしくね」

 顔を上げてニコっと笑ったその顔は、『君ラブ』で見ていた時よりずっと幼くて、ずっと年相応で、『お兄ちゃん』の顔じゃなくて、『男の人』の笑顔だった。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】離縁など、とんでもない?じゃあこれ食べてみて。

BBやっこ
恋愛
サリー・シュチュワートは良縁にめぐまれ、結婚した。婚家でも温かく迎えられ、幸せな生活を送ると思えたが。 何のこれ?「旦那様からの指示です」「奥様からこのメニューをこなすように、と。」「大旦那様が苦言を」 何なの?文句が多すぎる!けど慣れ様としたのよ…。でも。

悪役令嬢に転生したので、人生楽しみます。

下菊みこと
恋愛
病弱だった主人公が健康な悪役令嬢に転生したお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

処理中です...