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カレン嬢と側妃の狙い
第十九話 オーガスト
しおりを挟む皇宮のホールに戻ってきた。
女神エレーナと共に。
え。女神様着いてきちゃっていいの?
「姉上!」
「リア!」
オーガとヴィンス兄様が真っ先に私に向かってやってくる。
エディック殿下に顔を向ける。二人と話していいか、の確認だ。すると、小さく頷いて背中を押してくれた。エディック殿下は、私が二人の近くにいるのを確認すると、衛兵を呼んでカレン嬢を拘束するように指示を出して、何故かいるライフォード殿下に声をかけた後、皇帝陛下への報告に向かった。
「オーガ、兄様も。ただいま戻ってまいりました」
「うん。リア、よく無事で。」
「良かったです。姉上が無事戻ってこれて…」
ふにゃりと笑って、私の無事を喜んでくれるオーガスト。その隣で微笑むヴィンス兄様は、心底安心した、といった様子だ。
あーもう、うちの義弟がこんなにも可愛い。そして、兄様はかっこいい。あ、でも、それにしても、いやー、この子ーーオーガストも『サク君』の時とは大分変わったなー。
オーガスト・レンドール。私の義理の弟で、血筋的には従兄弟にあたる。父様の弟の子どもで、山中での馬車の事故で両親を失ったオーガストは、我が家に引き取られた。
オーガストは『サク君』での攻略対象者だ。ミルクティーブロンドの髪に、父様と兄様と同じアイスブルーの瞳を持つ、父様と兄様と同様に端整な顔立ちだが、父様と兄様と違い垂れた青い瞳がどこか人に安心感を与える美形だ。『サク君』では、悪役令嬢のアメリアにいじめられ、ヴィンス兄様は無関心、父様もどう接すればいいのか分からずオーガストを放置、母様は父様の浮気相手との子どもだと勘違いして、アメリアよりはマシなものの冷たくあたっていた。まあ、そんなふうに新しい家族に恵まれなかった『サク君』内のオーガストは、にこにこと穏やかな笑みを浮かべて人と接して相手の懐に入るものの、決して自分側には踏み込ませないで、人に対して諦めのようなものを感じ、人間不信に陥っていた。うん、闇が深い。
というか、前世から思ってたんだけど、よく乙女ゲーのヒロインは、『サク君』のオーガストに限らずだけど、悪役令嬢の弟やら兄やらを攻略しようと思うよね。悪役令嬢の断罪前にしろ後にしろ、まあ、大抵、悪役令嬢の兄弟は悪役令嬢のことよく思ってないってことが多いけどさ。でも、一部にはシスコンというものが存在するじゃん?よく攻略しようと思うよね(二度目)。『サク君』の場合、悪役令嬢のアメリアはオーガストをいじめてて、オーガストもアメリアのこと嫌ってたけどさ。
閑話休題。
さて、現在のオーガストは、我がレンドール家で愛情をたくさん注がれて育ったので、人間不信?ナニソレオイシイノ?状態だ。そう、私、頑張った。まず、子どもらしく、この子、どこの子?をして、母様の勘違いをなくし、兄様を引っ張ってオーガストに関わりに行き、私は優しく接した。家族の関係が冷えきらなければいいと思ってやったんだけど、はい、見事にオーガストシスコン化です。うん、こんなはずじゃなかったんだよ。
「その様子だと上手くいったようだな…」
私を上から下まで見て、エディック殿下を見て、アレキシス殿下と、喚きながら衛兵に連れていかれているカレン嬢とを見た兄様がそう言った。
むっ、これは…。
「はいっ! あ、でも兄様っ、分かってたなら言ってくださいよ~。特に、アレキシス殿下のこと」
これ、絶対、アレキシス殿下のこと分かってたやつだ。『女神の審判』が始まる前は、「ご愁傷さま」って視線をアレキシス殿下に向けてたのに。うーん、実際そうなんだろうけど、半分演技混じりってところかな?エディック殿下、怖かったし。
「すまないな。機密事項だったのと、エディック殿下の指示で、来たる日までは伝えられなかったんだよ。知ってたのは、オーガも一緒だが」
「ごめんねっ、姉上。できるだけ、知ってる人を少なくしないといけなかったんだ」
苦笑い気味のヴィンス兄様としゅんとした表情のオーガストに、仕方ないよね、と思いなおす。
「ううん。無理言ってごめんね。機密事項なら仕方ないよ」
そう言って笑いかけると、目じりを下げてほっとした表情を浮かべる二人。うーん、この辺は二人とも似てるなあ。
そんな風に少し和んでいると、周囲が少しざわめき出した。
なんだろう?と思いながら、ざわめいている周辺を見つめていると、隣のヴィンス兄様がポツリと呟いた。
「おっと、ラスボスのお出ましですよってか?」
現れたのは、皇帝陛下の側室エイダだった。
──────────
作者です。
とうとうここまで来たーっ!!
って感じですね。
次回エディック殿下の独白を挟んで、側室エイダ編に入ります。
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