私はあなたの婚約者ではないんです!

凪ルナ

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カレン嬢と側妃の狙い

第十七話 ライフォードの恋心とー 前半sideライフォード

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sideライフォード


 アレクの押しとどめていた感情が溢れ出す。それと同時に、私自身が気づいていない振りをしていた何かが、目の前にふと現れた気がした。


 「ーー…き、だよ…。リアのこと、好きだよっ!そりゃ…。でも、もう、遅い…」

 
 泣きながら、アメリアを好きだと叫ぶアレクを見ながら、我武者羅に誰かのことをそんな風に想えるアレクを羨ましく思い、それと同時に報われないな、とやるせなく思ってしまった。
 確か、こんな風に思ったことが前にもあった。
 あれはいつのことだっただろうか。ぼんやりと、アレクを眺めながら思い出す。


 ######


 「ライ様!見てくださいっ」

 目を輝かせて、微笑んでいるアメリアは、髪につけている可愛らしい髪飾りを指さしている。その様子に、とろりと目を細める。

 「それ、どうしたんだい?」

 わざわざ私に見せに来るということは、嬉しかったんだろう。きっと、聞いて欲しかったから、私のところに来たのだ。それに関しては、アメリアが来てくれるのは嬉しいものの、少し複雑な気分でもある。きっと、それは男から貰ったものだろうから。


 「アレク様に貰ったんです!似合うだろうからって」
 「そっか。それは…よかったね」
 「はい!」

 ニコニコと微笑むアメリアの姿に、この時からアレクの恋心に気づいていた私は、アメリアはアレクの気持ちを知らないからなあ、と報われないアレクを思った。

 ######


 目の前で涙を流しながら、報われない想いを叫ぶアレクを見て、私はアレクのことも応援しているからね、と。そう思った時、胸が軋んだように傷んだ。
 ーー本当に?本当に私はなんの屈託もなく、アレクと兄上のことを応援できるのか?
 微笑むアメリアを見た時、とろけそうに瞳が細められ、口元はゆるりと弧を描いている自身の姿が窓に映り、目を見開いたのをよく覚えている。
 そして、その姿を見た時は、無理矢理振り払った思考が今、戻ってきた。
 ーー人は誰かを愛すると、こんな表情をするのか。
 私は、いつか見た兄上のような表情をしていた。


 目の前に現れたそれは、私がアメリアに恋をしているという事実だった。

 そうか。私、本当はアメリアのことがそういう意味で好き、なのか。その事実は、私の胸にストンと落ちた。





 「ライ様」

 そう私を呼ぶ甘い穏やかな声が好きだった。
 幸せそうに兄上を見つめる優しい表情が好きだった。


 できることなら、君を幸せにするのが私であればいい。


 叶うはずのないことを、いつからか願っていた。
 自身の恋心を自覚した今では、それは幼馴染への好き、ではなく、一人の男として、アメリアのことを一人の女性として好きだからそう思うのだと、ようやく理解した。




 「ねえ、アレク」

 君も私と同じだろう。そうでないと、そんな苦しそうな顔をしない。

 ーーねえ、アレク。
 君は気づいていないけど、私が君にアメリアの想いを自覚させた今、私も見て見ぬふりをしていたアメリアへの想いを自覚させられたんだよ。君のせいで、私のこの想いに、恋という名前がつけられたんだ。私はきっと、この想いをアメリアに伝えることはないんだろう。それはたぶんアレクも同じように思っていることなんだろう。この想いを形にすることはない。それでも、すぐにはこの気持ちを消すことはできない。消せないからこそ、私たちはーー。


 「確かにもう遅いかもね。だから、これは私からの提案なんだけど…」


 アレクはきょとりと首を傾げている。


 「ーーーーーーー」


 私の言葉を聞いて、アレクは一瞬目を見張った後、覚悟を決めたように頷いた。


 ######



 私はアレクと同じだから、アレクのことがよく分かった。

 私はアレクの作戦は知っていたから、私の前で偽らなくてもいいはずなのに、少し様子がおかしいアレクを見て、そうかもしれない、と思った。でも、違うんじゃないかと、信じたくなかった。

 薄々、気づいていた。

 アレクが、側妃に洗脳されているんじゃないかと。

 でも、まだ、洗脳が薄い時、アレクに洗脳されているんじゃないかと、聞いた時、「洗脳をかけられたみたいだから、洗脳された振りをしようと思って…」と真面目な顔をして言われ、「そこまでする必要があるのか」、「洗脳は解いた方が」と止めようとしたら、「僕にはこれくらいしか出来ないから」と言われ黙るしかなかった。


 でもさ、アレク。

 いくら母親だからといって、そこまで責任を感じなくてもいいんだよ?
 だから、そろそろ解放されてもいいんじゃないかな。



 sideアメリア

 アレキシス殿下に告げられた言葉に思わず息を呑む。
 そんな…!実の息子を洗脳!?側妃様、なんてことを…。


 「この場所に来てから、徐々に効果が無くなっていったというのは、確認しています。そして、私は、その洗脳の強化を行っていたのが、おそらくはカレン嬢だったのではないかと予測しています」


 「アレキシス殿下…」

 辛く、ないの?




──────────
作者です!

試験が終わった勢いに任せて、筆をとったしだいであります!

やっとカレン嬢のやったことが明確にされました。
ここまで長かった…。


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