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カレン嬢と側妃の狙い
第十六話 アレキシスとライフォード sideライフォード
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「そろそろ、かな…」
私の呟きに、ヴィンセントが首を傾げながらこちらを見るのが横目に映る。
「何がです?」
「いや、側妃の罪の一つが明らかになっただろうと思ってね」
ヴィンセントの方を向かずに前を見たまま答えると、ヴィンセントが物凄い表情をしてこちらを見るのが分かった。
「これだから皇族は」
ねえ、ヴィンセント、その後に続けて、相変わらず化け物だな、と言ったことは聞かなかったことにしてあげるよ。
######
私は昔から皇族の中では身体が弱かった。そのせいで、心無い者たちからは、出来損ないの第二皇子、なんて揶揄され、表では持て囃されるものの、陰で蔑まれてきた。そんな中で、家族以外で、初めてアメリアは私に態度を変えずに接してくれた。色々と理由はあるが、一番の決め手はこれだった。簡単に言うと、私はあっさりとアメリアに惚れた、という訳だ。それに気づいた時には、既にアメリアは兄上のものになっていたのだけど。
私は、兄上こそが皇帝になるべきだと思っている。
直系の皇族の中で、先見の明、千里眼とも言える能力を持ったものはごく稀に出てくる。我が皇国では、その者が皇帝になると、国がより栄えるとされてきたため、皇位継承権は第一位、つまり皇太子の座が与えられてきた。
それを持っていたのは兄上だった。だからこそ、兄上以外に皇位を継ぐべき人間はいない。それなのに、あの人は…。呆れてため息しか出ない。
閑話休題。
同じ穴の狢、血は水よりも濃い、惚れたもん負け、とはよく言ったもので、私たち兄弟は揃いも揃って、アメリアに惚れている。性格は似ていない、とよく言われるが、はたまたこの血の運命か、好みは似ていたのか、と苦笑を零したのは記憶に新しい。そう、だから、私たち兄弟はアメリアに弱いのだ。
それが分かっているから、兄上はアメリアが傷つかないように、その先見の明をもって、先回り先回りしてその道を開ける。過保護なことだ、そうは思うものの、それが分かって、兄上を手伝って私たちは駆け回るのだから、人のことは言えない。
今回、アメリアを巻き込むことになったのは、私とアレクだ。兄上なら、アメリアを巻き込まずに、ことを済ませただろう。しかし、今回、私たちのことを試していたのか、兄上は手を出さずに私たちを見守ってきた。だが、今回のことは流石に看過できなかったようだ。
なあ、アレク。
君は、アメリアを好きだと自覚した時のこと、覚えているかな?
######
「では、アメリア嬢はエディックの婚約者に、ということでよろしいかな?」
「はい、陛下」
父上の決定に、そう返事を返したアメリアは、玉座に座っている父上の隣に立つ兄上と顔を見合わせて微笑み合う。
そんな兄上の隣で、アレクが密かに傷ついたような笑みを浮かべているのを、私は横目で見つめていた。
兄上とアレクの恋慕に気づいたのは、多分私が五歳くらいの頃だ。兄上は、ふとした瞬間に、アメリアに対してだけ、優しい温かな色を目に乗せて愛おしいものを見つめるように目を細める姿を見た時で、アレクは無意識のうちにアメリアの姿を探しているようだった時だった。
もちろん、尊敬する兄上の恋は応援したいが、かわいい弟の恋も応援したかったのは事実だ。家族以外の周囲の人間が信用できない私にとって、兄弟は大切だ。兄上のことも、アレクのことも大切で、だから、誰にも傷ついて欲しくなかった。
アレクからは幼い恋の音が聞こえていた。でも、兄上からはきっと、壮絶で激しい、耳にこびりついて離れない愛の音がするんだろう。
きっと、他の人達は兄上とアメリアのことを祝福し、応援する。でも、アレクは? だから、私だけでもアレクのことを応援したいと思ったんだ。
ただ、好きになったのが遅かっただけ。きっと、アレクは隠したくて、心の奥底にしまっておきたくて、気づきたくないんだろう。自覚したくないんだろう。
でも、それじゃ、きっとアレクは進めない。
これは、アメリアの婚約決定のための、皇帝である父上への非公式の謁見。それは謁見の間ではなく、皇族のプライベート空間の部屋で行われた。謁見という名の話し合いが終わり、父上が部屋を出て行った後、アメリアは兄上と出ていき、その後出て行ったアレクを追いかけ私も部屋から出て行った。
「アレク」
名前を呼んで呼び止める。振り返ったその顔からは傷ついて今にも泣き出しそうなことは伺えないように隠して、上手く誤魔化しているようだ。話があると、自室に戻ろうとしていたアレクを引き止め、私の部屋に招き入れた。
「まあ、座りなよ」
私の言葉に小さく頷いたアレクは目の前の椅子に腰掛けた。どこか沈んだ様子のアレクに、目を細める。
「アレク、落ち込んでいるね。何かあった?」
分かっているのによく聞くよ、と自分でもそう思いながら、敢えてそう穏やかに問うた。
「何でもないです」
まだ隠そうとするアレクに、仕方がない弟だと、少々呆れながら直球で聞いてみる。
「リアが兄上と婚約したのが、ショックだった?」
「なっ…」
何故それを、と言いたげな表情だった。それくらい見れば分かるというのに。
「少し顔に出てたよ」
「そ、うですか…」
アレクは必死に感情を押しとどめようとしているのか、歯を食いしばり、拳を固く握っている。
「ねえ、アレク。認めてしまいなよ」
何を言っているんだ、とアレクの唇が動き、音にならない声が聞こえた。
「言わせてもらうけど…」
ライ兄上、と掠れた声が私を呼ぶ。聞きたくない。聞きたくない。声にならない叫びが聞こえる。アレクは私が何を告げようとしているのかもう分かっているくせに、私の呼吸音ひとつ聞き逃すまいと、アレクの神経は研ぎ澄まされていた。
「リアのことが好きなんだろう?」
その時、何かが溢れる音がした気がした。
────────
お久しぶりです。作者です。
思ったよりも期間が空いてしまいました。すみません。
<(_ _)>〈 ゴン!〕
嫌なことがあったので、そのどうしようもない怒り悲しみをぶつけるように、書きました。文章がめちゃくちゃかもしれません。
ライフォード視点、書きやすかったなー。
次の話もライフォード視点ありますよー。
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