私はあなたの婚約者ではないんです!

凪ルナ

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カレン嬢と側妃の狙い

第十五話 カレン嬢と側妃 後半sideエディック

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 歪な笑みを浮かべたカレン嬢を真っ直ぐと見るエディック殿下。その目は凶暴な肉食獣を思わせる程に鋭い。
 ひえっ。これはガチでキレた時の目だ!

 「さあ?私は側妃様の考えなんて知らないわ」

 しかし、カレン嬢は、それに対して怯まずに言葉を返す。

 「では、君はエイダと何を話した?君の知っていることを話して貰おう」

 「ここまで来たらもう、逃げれられなさそうね。仕方ないから話してあげる。ただ、私の知っていることは少ないわ」


 カレン嬢は周りを見渡しながら、偉そうにそう言った。ここは、女神の審判の間。言わば、こちらのフィールドで、一対三だ。逃げ場はない。
 というか、カレン嬢はそろそろ態度を改めた方がいいと思うの。


 そして、カレン嬢は語りだした。

 カレン嬢は側室エイダに私を陥れる協力を持ち掛けられた。そして、その見返りにアレキシス殿下の妃にしてやる、と言われたのだそうだ。

 今までの話の流れ的に予想はしていたけど、ドロドロしてるなあ。それにしても、嫌われているなあ、私。…私、何かしたかなあ。側室エイダはどれだけ私を陥れたいんだ。



 やっぱりそうだったのか。
 アレクが思ったのはそれだけだった。アレクにとって、これは予想の範囲内で、今まで行動や言動を見るにそうとしか考えられない。分かってはいても苛立ちは募る。しかし、我が母ながら酷い。酷いし、もう母とは思えない。苦虫を噛み潰したような顔をした後、小さく自嘲した。

 そのアレクの内心は今は女神のみぞ知る。




sideエディック

 
 カレン嬢が語った内容は、粗方は、こちらが掴んでいるものと大差はなかった。予想はしていたが。しかし、よりによってアメリアに手を出すとは…、死にたいのか?
 アレクもそれを聞いて、苛立ちを誤魔化すように前髪を掻き上げ、くしゃりとさせた。さらには、苦虫を噛み潰したような顔をしている。アレクにとっては、一応アレは母だからな。アレクは血の繋がりを否定したいだろうが、私としてはよくアレからまともなアレクが生まれたな、というのが正直な気持ちだ。ついでに、カレン嬢は間違いなく、アレにとっては捨て駒だろう。
 しかし、アレクにアメリアに対して、してもいない婚約の破棄を衆目の前でさせるとは…。馬鹿としか言いようがない。しかし、よくもまあ、こんなことをしようとしたな。アレクは第三皇子だから、良くてお咎めなし、一定期間の軟禁で謹慎、悪くて皇位継承権の剥奪、だろう。皇位継承権の剥奪は、側室エイダは望んでいないと思ったのだが…。
 アレクは私の婚約者がアメリアだと知っている。だと言うのに、こんな事態になるか?カレン嬢は知らない、と言っていたが…。何かおかしい。彼女はまだ隠していることがあるはずだ。


 「カレン嬢、まだ何か隠していることがあるな?言ってもらおうか」

 チラリと女神を確認すると、やはりそうみたいだ。

 「ふぅ。さすが、皇太子殿下、と言ったところかしら?やっぱり気づかれたわね」


 やれやれと肩を竦めながらのこちらを馬鹿にしたような物言いに、スゥと瞳孔が狭まり目が細まるのを感じる。あぁ、ダメだ、リアが暖かくて好きだと言ってくれた私の瞳が変化してしまう。落ち着かなければ。軽く目を瞑り、気持ちを落ち着かせ頭を巡らせると、やはり、この一連の出来事には不自然な点がある。そして、彼女はそれを知っている。目を開け、口を開く。


 「御託はいいから言え」

 あぁ、声音に焦りが出てしまった。側室エイダの思惑で何かを見落としている。こんなずさんな計画が成功すると思っていた、その理由は?アメリアを陥れるために、なりふり構っていない側室エイダだ。罪を重ねることくらいどうってことないだろう。まずいな。




 「側妃様は、アレクを洗脳するって言ってたわ」


 その瞬間、時間が止まったような気がした。


 思わず、アレクの方を振り返った。



 「成功したのかどうかは、本人に聞いてみたらどうかしら」


 後ろで、カレン嬢がどうこう言っているが、そんなものは耳に入らない。まさか、とアレクから目が離せない。瞳が、揺れる。


 女神の審判の間に入る前までのアレクの態度はおかしいとは思っていた。カレン嬢が洗脳をしていないと言った時点で、その線は薄れたと思っていたから失念していた。アレクはカレン嬢に従っているフリをしていただけだと思っていた。それでも、アレクがあんな形でアメリアを傷つけようとするはずがなかったのに。あの時、本当にアレクはアメリアが婚約者だと信じ込まされていたのだ。そして、してもいない婚約の破棄をするように、行動させられた。


 「…アレキシス殿下?」


 心配そうにアメリアがアレクを呼ぶ。

 「うん。あの時、たしかに、意思を塗り潰されていたような感覚がある。だから、僕は…、私はきっと洗脳されていた、と思う」


 苦々しく歪められた顔で、重々しく告げられた。

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