私はあなたの婚約者ではないんです!

凪ルナ

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私とアレキシス殿下

第十二話 女神の審判・裏 sideヴィンセント

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 「姉上!!」

 転がり込むように、見えなくなったアメリアの元へと行こうとするのは、俺、ヴィンセント・レンドールが弟、オーガストだ。

 「落ち着け、オーガ。今、俺たちがここで騒いだところで、向こうのことは何も変わらない」

 「でもっ!!」

 尚も焦った様子のオーガストに言い聞かせるように言う。気持ちは分かるがな。ここは、エディック殿下に任せよう。それに、エディック殿下が上手いことやれば、三対一だしな。

 「今、俺たちに出来ることは何だ?焦ったところで何も状況は変わらないんだ。とりあえず、落ち着け。落ち着かないことには何も変わらないからな」

 ぽんと頭を軽く叩いてそう言うと、オーガストは、「うぅ」と小さく唸り、最終的には「はい…」と小さな声で頷きようやく落ち着いた様子だ。

 「恐らくだが、エディック殿下はライフォード殿下の件も一度に片をつける気だろう…」

 俺がそう呟くと、うげぇと顔を顰めるオーガスト。お前は顔に出すぎだ、顔に。軽く頭を小突くと、スっと表情を元に戻すオーガスト。出来るなら始めからやれよな。

 「ああ、あれですか…。ライフォード殿下、あの件以来人使いが荒くなったんですよねー…」

 そう言いながら、ハァとため息をついて、やや疲れを顔に滲ませる、ライフォード殿下の側近オーガスト。おい、お前まだ若いだろう。

 「まあまあ。ライフォード殿下も暗殺されかけたことによって、動きにくくなったからな。それに、黒幕をおびき寄せるために引きこもっているから、仕方ないと言えば仕方ないだろう」

 そう、ライフォード殿下は現在絶賛引きこもり中だ。滅多に公の場、すなわち人前に出てくることがない。ピンピンしてるけどな。大体毒に耐性ある皇族によく毒を盛ろうと思ったよな、犯人も。ま、普通の人なら即死だったっていう致死量の毒だったらしいけど。それで、生き残って、しかも、今じゃピンピンしてるライフォード殿下もライフォード殿下だけど。

 「それですよっ!それ!いくら、黒幕を誘き寄せるためとはいえ、引きこもるなんて、納得いきません!ライフォード殿下だって、外に出たいと思っているはずです!それに、表に出て上に立つ能力はライフォード殿下にだって…」

 まあ、こいつの言うことにも一理ある。だが、引きこもるのは、ライフォード殿下が言い出したことだし、あれはライフォード殿下なりの守り方、なんじゃないかって、俺は思うわけ。本当、いくら勝ち目がないからって兄弟揃って不器用なんだよなあ。

 「落ち着け。あと、声が大きい。でも、これが効率のいいやり方だからな。それに、ライフォード殿下は、っと、御本人のお出ましか…」

 そう、珍しいことにライフォード殿下がこの場に現れた。淡い金色の肩まである髪をゆったりと縛って横に流している、ブルーバイオレットの瞳の儚げな雰囲気を持つ美青年。彼こそが、御歳16歳の第二皇子、ライフォード殿下だ。

 「やあ。オーガスト、それにヴィンセント。久しぶりだね」

 にこやかに声をかけてきたライフォード殿下。儚げな雰囲気と見た目を持つこの人だが、それは見た目だけだということを彼が引きこもっているため知っている人は少ない。その知っている一部の人間である俺たちからしたら、「見た目に騙されるな」と、そんな噂を聞く度、苦い顔をするのだが…。

 「俺は三日前に会ったばかりですが」

 そう、ピシャリと言い放ったのはオーガストだ。振り回されているこいつからしたら、この対応は仕方ないのかもしれないが、いくら幼馴染みだからって、もう少し取り繕えよなー。

 「ははっ。久しぶりですね、ライフォード殿下」

 「うん。ところで、オーガスト。頼んでいた件については、進捗はどう?」

 軽く挨拶した俺に頷いて返し、早速とばかりに、恐らく彼がここに来た目的について切り出した。

 「はぁ。まあ、中々尻尾は出さないですよね」

 「うーん。やっぱりか。仕方ないよねー。まあ、こっちの件が片付けば、芋ずる式に出てくるはずだからいいや」

 興味なさげに切り上げたライフォード殿下に、じゃあ、なんで調べさせた!という、オーガストの心の声がこっちにまで聞こえた。

 「で、アメリアは?」

 くるりとこちらを向いて聞いてくるライフォード殿下。相変わらず自由な人だな!って、やっぱり、こっちが本題か!

 「リアなら、エディック殿下と共に『女神の審判』の最中ですよ」

 そう答えたら、目を丸くさせて驚いた様子のライフォード殿下。まあ、そうなるよな。

 「そうか。エイダは出席している。今日で一気に終わらせる気か?兄上は」

 こちらを気にせずに、小さな声で独り言を言うライフォード殿下は、エディック殿下の思惑を理解しようとしている。

 「恐らくそうでしょう」

 彼の独り言にそう返すと、またもや、こちらを目を丸くして驚くライフォード殿下。

 「やはり貴方は兄上の側近だな」

 そして、ライフォード殿下は小さくそう言って口を引き攣らせた。

 「そうでしょうか?」

 「ああ。しかし、何も起こらなければいいが」

 そう不安そうなライフォード殿下は、きっと、アメリアのことを案じているのだろう。

 「何事もなく終わることはないと思いますよ。だって、エディック殿下ですし」

 そう、エディック殿下がこの件に関与した以上、無事に終わるはずがない。

 「ああ、いや、そういうことではない。が起こらなければいいのだが、という意味だ」

 ああ、そういう。確かに。エイダが何かしないか、ということを危惧しているのか、ライフォード殿下は。それで、アメリアが傷つくことを心配しているのか。

 「本当に、不器用だな。兄弟揃って…」

 ボソリと呟いた声は、ライフォード殿下に聞こえていたのだろうか。何も返ってこなかったから、どちらかは分からない。

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