私はあなたの婚約者ではないんです!

凪ルナ

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私とアレキシス殿下

第十話 女神の審判・その③ あの日 後半sideアレキシス

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 あの日、私とエディック殿下の婚約発表が行われるはずだった日。


 あれは、今から四年前。エディック殿下の15歳の誕生日の日のことだった。その日、私はとても楽しみにしていて、朝から着飾られ、エディック殿下にも微笑んで「可愛いよ」と言われ、その日は幸せだった。その待ち望んでいた時が着々と近づいた。でも、突然何やら慌ただしい雰囲気になった。バタバタと皇室居住区域に向かう人々。結局、婚約発表は行われなかったのだった。『皇家側の都合』で延期になったのだ。私にも、詳しいことは明かされず、ただ、そうとだけ告げられた。
 あの日、一体、何があったって言うの?


◇◆◇◆◇◆◇

sideアレキシス



 困惑した表情で、私、いや、僕を見ているアメリア愛しい人


 やっぱり、僕が君を好きだということは、彼女は知らなかったようだ。この気持ちは、君に伝える気はなかった。伝わらないように振舞っていた。ただ、側にいられれば、兄上のことで相談しにくるアメリアが笑ってくれれば、僕はそれで良かった。

 「アレク様!聞いてくださいよ~」

 不満そうな顔をしながらも、何も気づかないで僕に相談しに来て、僕が話を聞いたら、花が咲いたように笑う彼女。そんな彼女を見守り続けたい、そう思っていた。

 「アレク様!」、柔らかく微笑みながら、そう僕のことを呼ぶ君は、僕の兄上の婚約者。そして、愛しくて、可愛くて仕方がない僕の好きな人。

 叶わない恋だってことは最初から分かっていた。僕が君と出会った時、既に君の心は兄上のものだったから。君を好きになっても、僕の手は届かない。そんなことはわかっていた。分かっていて好きになった、はずだった。だから、この気持ちは隠して君の話を聞いていよう。

 だから、君が、何の憂いもなく、ただ、兄上の隣で、何にも知らないで、清らかなまま、笑っていてくれれば、僕は、それで…。

 ――いつか、笑って、なんてことないように、実は私は君のことが好きだったんだ、って言える日が来るだろうか。
 そんなことを僕は今までずっと考えていた。


  ######


 あの日。兄上とアメリアの婚約発表が行われるはずだった。だから、僕はやっと、アメリアのことを諦められると思った。そう、何も起こらなければ、二人のことを祝福できたのに。

 何も知らない彼女。知らないでいてくれれば、良かったのに。でも、それで満足しないのが彼女だ。それは僕もよく知っている。だからこそ、彼女に気づかれないように立ち回るのだ。兄上も、ヴィンスさんも、宰相も、そして、僕も。気づかれたら、話してくれるまで、てこでも動かないのが彼女だから。


 でも、起きてしまった。恐れていた事態が。

 僕は、第一皇子で皇太子であるエディック兄上、そして、第二皇子であるライフォード兄上とは、母が違う。兄上二人は今は亡き皇妃様の子供で、僕は側室エイダ・アハルが母だ。
 僕の母上は、僕を皇帝にしたいらしい。そして、母上は、皇妃になりたいらしい。母上は野心家なのだ。

 いつかは、こうなるのでないかと、やってしまうのではないかと思っていた。

 母上にとって、エディック兄上は邪魔そのもの。その兄上と、権力あるレンドール家のアメリアの婚約はエディック兄上の力を強め、皇太子の座を確固たるものにするものだ。母上は二人の婚約は止めたくて仕方ないだろう。しかも、母上はレンドール家を嫌っている。特にアメリアの母、マリアのことを。アメリアの母、マリアのことを嫌っていたから、マリアそっくりなアメリアのことも嫌っているのだろう。だからこそ、エディック兄上とアメリアの婚約は、母上は嫌で嫌で仕方ないのだろう。

 母上は、発表さえさせなかったらどうにかなるものだと考え、どうにか妨害をしようとした。



 その結果が、第二皇子、ライフォード殿下暗殺未遂。

 皇太子として周囲に認められているエディック兄上を狙うのは、得策ではないと考えたのだろう。エディック兄上ではなく、元々、身体が弱く、皇家の中で周囲からの立場が弱かったライフォード兄上をターゲットにしたのだ。

 ライフォード兄上がエディック兄上とアメリアの婚約発表は延期になった。母上の思惑通りに。

 しかし、母上がやったという証拠がない。
 状況だけ見れば、絶対母上がやったとしか考えられないが。

 これが、あの日、起こったこと。何とかライフォード兄上は命を取り留め、今では普通に生活することも出来ているが、それでも、僕はどうにかして止めるべきだった。予想はしていたのに、僕が防ぐことの出来なかった出来事だ。罪悪感で押しつぶされそうだった。

 こんな、情けない僕のことを、アメリアは嫌いになるだろうか。

 お願いだから、嫌わないで欲しい、なんて、そんなこと、僕に言う資格はないか。
 僕自身、僕のことを嫌いなのだから。


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